腰まであった、髪を切った。
なんだかすかすかして落ち着かない。切ったばかりの毛先が首筋に触れて、こそばゆかった。
「ちぃ、制服は着れてる? 忘れ物はない? 転校初日で何かやらかしたら大変だよ」
「……」
久しぶりに浴びた太陽の光は眩しくて、まるでボクのことを拒んでいるかのように痛い。たぶん、と頷くとお兄ちゃんは「本当に?」と訝しげにボクの顔を覗き込んだ。春の空とそっくり同じ色の瞳の中に、背中を丸めて小さくなった、間抜け面が映り込む。お兄ちゃんは小さく溜息をつくと、ヘルメットを渡した。
「免許取って、自分で乗れるようになるまでは朝は俺が乗せてくから。電車とか危ないし、何があるかわからないからねぇ」
お兄ちゃんの華奢で、でも少し大きな掌がボクの頭を撫でる。お兄ちゃんは正しい―だって、つい先月まで家から一歩も出られなかったボクが、ひとりで登校するとは思えないものね。
「あんたと同じ学年に、なるくんとかもいるから。知ってる顔がいるってだけでちょっとは楽になると思うんだけど」
ヘルメットをかぶってから、こく、こく、とお兄ちゃんの言葉に頷く。お兄ちゃんに迷惑をかけない程度に、上手くやる。そうすれば今度は、きっと何とかなるはず。
「行こうか。大丈夫、乗れる? 危ないから、しっかり俺に掴まってて」
知らない道、まだおろしたての真新しい制服。お兄ちゃんが選んでくれたベスト。
ただ、居場所があればいい。ひとりぼっちにならなければ、それでいい。きっとここでなら、また「瀬名の妹」で居られるはずだから。
大丈夫、大丈夫。
そう言い聞かせながら、お兄ちゃんの背中に顔を寄せた。
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