Model



 【MDM】本番の開演時間まで、1時間を切ろうとしていた。売り子としてではあるけど、アイドルをやっている皆の――せんぱいの仕事に携わるのは久しぶりな気がする。そんなに前のことでもないのに、なんだか少し懐かしい。前夜祭も参加したかったなあ……まあ昨日は撮影のお仕事だったから、仕方ないんだけど。
 鏡の前に立ち、最終チェックを行う。髪型、よし。化粧崩れ、ない。服のシワ、大丈夫。歯磨き、さっきした。
「大丈夫。今日も、綺麗」
 1年前。夢ノ咲にいた時は、まさか自分がまた「こっち側」に戻っているとは思わなかった。誰にも見て貰えない自分が嫌で、苦しくて、逃げ出してきたのに。おまえでいいんだ、って背中を押してくれるせんぱいに出会った。そうしたらいつの間にか、こんな所にいた。
 どうやらあの人は今日も、崖っぷちにいた兵隊たちにとびっきりの脚本を用意してるらしいし。

 ……ちょっと、見たかったなあ。
 ボクはもう、プロデューサーじゃない。だから、『Knights』や他のアイドルたちのことを舞台袖から見ることはなくて。それどころか、今後同じステージに上がることがあるかすら分からない。皆みたいに前に進んでいるはずなのに、何だか急に遠くなってしまったみたいだ。

 それでも、ボクは。

「ちがぁ、行くよ」
「うん、今行く」

 もう、足を止めるわけにはいかない。


トップページへ