千切くんと帰り道


寒さも和らいで、春のような暖かさですと朝の天気予報で言っていたのに。と人のせいにしながらダウンのフードを被り、ポケットに手を突っ込んだ。日が落ちてからのことを考えて中身を決めるべきだったかと後悔しながら小さく身を縮める。
夜道を歩きながら鼻を啜り、暗がりに輝く明かりに引き寄せられていく。買う気はなくともついつい寄ってしまうこの現象に名前は付いているのだろうか。
ポッケからスマホを出してメッセージを打とうとすると、コンビニから出て来た長髪を揺す人物と視線が合い、思わず固まる。

「お、偶然」
「今ちょうどラインしようとしてた」
「マジ?ちなみに央が食べたいって言ってた新作のアイス買った」
「やった!じゃあもういいや、帰ろ」

コンビニの袋を掲げながら白い息を吐いてピースする出来すぎた豹馬に両手を上げて喜びつつ隣へ並ぶ。
さっきまでやる気なく一人でとぼとぼと歩いていたくせに、今は豹馬と一緒に帰れる嬉しさに頬が緩む。

「今日は仕事どうだった?」
「ん、今日も中々の激務だった!でも豹馬と一緒に帰れてるからたった今チャラになった」
「ほんっとお疲れ。帰ったら飯食って風呂入って、アイス食べよ」

そう言って苦笑いしながらそっと私の手を握りしめてくれる大きな温かい手のおかげで、また明日も頑張れそうだなとさらにニヤけてしまう。
本当に豹馬は無意識のうちに私を甘やかす。自覚してないのが殊更憎い。
何気なく言ったこのアイス食べたいを覚えててくれて、仕事が山場でしんどいっていう愚痴に対しても気遣ってくれて、挙句の果てには寒がりでキンキンに冷えた手まで温めてくれる。
愛されてるなぁと思いながらチラリと豹馬を見れば少し赤くなった鼻を軽く啜っていた。かわいい。
やっぱりまだ暖かくならなくてもいいですよとつい数分前と真逆の事を澄んだ夜空へ思った。さ、早くお家に帰ろう。




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