千切くんと待ち合わせ
「わーこの人キレイだね」
「ホントだ〜。‥あ、女の人かと思った」
「ね、男の人なんだね。よく見たら筋肉凄い」
「なんの人なんだろうねー」
「ねー」
お互い予定があったため、朝から慌ただしく用意して家を出た。午後からは何もないから、久しぶりに外でデートしようと前々から決めていた。
駅前の喧騒の中、どうやら待ち合わせ場所に先に着いたらしい。スマホを開けば約束の時間まで少しある。しかし何処かで時間を潰すには余裕がない。人間観察でもして待つかと諦め、着いたよと短いメッセージを送る。
ふと隣に並んだ女子高生達がキャッキャしているのに気付く。何やら背後の広告を見ているらしい。
ーーー人気俳優か、アイドルだろうか‥どれどれ私も眼福に預かろうと振り返れば見知った瞳と目が合う。
一瞬音が消え、時が止まる。
有名ブランドの広告塔として選ばれ、先日撮影してきたとは言われたが、これは私の知ってる彼のようで、彼ではない。
大きめのニットを着て、椅子に片膝を立てて座り、立てた膝に頬杖を付いてこちらを睨んでいる。白黒の写真がより挑発的な表情を浮き彫りにしている。
一見長い髪と綺麗な顔に女性かと彼女達のように見まごうこともありそうだが、腕まくりされて出た前腕と膝下から覗く逞しい脹脛が男性だと教えてくれる。
感嘆が漏れそうになれば、隣に人影を感じた。
顔を向ければ、人目を避けるためか帽子とサングラスをかけた彼がいた。口角がやや上がっているところを見ると、私が見惚れていたのをしばらく遠くから観察していたのかもしれない。
「あれ〜もしかして‥惚れた?」
「うん、とってもカッコいい。惚れ直す」
「おま‥急なストレートやめろ」
揶揄う気満々の豹馬へ真っ直ぐと素直な感想を伝えると私の視線から逃れるように顔を逸らす。代わりに赤くなった耳が目の前に来る。
ふといつもとは違って自分が優位なことに気付き、自然と頬が緩む。
「あれ〜もしかして‥照れた?」
「うっせ、いきなりだったから焦っただけ」
「ふーん」
先ほどの仕返しとばかりに問い掛ければサングラスの隙間から真紅の瞳がこちらを睨む。
余裕のない豹馬を見るのは久々でもっと揶揄いたいところではあるが、これ以上は臍を曲げかねない。ニヤつくのを抑えるためにも再度ポスターに目を向ける。
ーーーまるで絵画のようだ。
普段から綺麗ではあるが、一から十までプロに任せるとさらに綺麗さに磨きがかかる。
豹馬の意志の強さを両眼から感じるし、鍛え抜かれた肉体が控えめに出されているところがセクシーだ。
「でも本当にキレイ。額に入れて飾ろうよ」
「は?やめろ、やめろ。ほら、とっとと行くぞ」
口をついた言葉を掻き消すようにやや声を張った豹馬が乱暴に私の手を握り締めて歩き出す。背後でまた女の子達がキャッキャした声が聞こえた。
ーーー少女たちよ、ちなみに彼はサッカー選手だよ、と思いながらいつもより早足な背中を見つめる。怒られてもいいから、家に帰ったらもっともっと褒めちぎらせて欲しい。豹馬の新たな一面に以前よりさらに好きになってしまったのだから。
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