凛くんとクラスメイト2


必要ないものは覚えない。そうすることでサッカーだけに打ち込んでこれた。

昼食後、最初の授業。気温は暖かく、寝るにはちょうど良い気候であった。
将来必要か、必要でないかが就職先によって極端に分かれそうなその教科は担当教員が厳しいことで有名であった。居眠りしたり、宿題をやってこなかった生徒には怒鳴り声が容赦なく飛び、授業後に他生徒より多く課題が出される。
それ故に少年にとって将来必要のない教科ではあったが、寝ないように努力していた。
ただ昨晩のホラー映画が中々の強者であった。その土地に住む者が代々呪われているのかどうかを紐解くというシンプルな話であったが、とあるシーンが記憶に媚びりついていた。目を瞑ろうにも瞼の裏に暗闇で這いつくばりこちらを睨む人影が浮かび、寝付けない。そんなことを繰り返しているうちにいつもより就寝時間が遅くなってしまった。
そんな少年の睡眠時間など関係ないとばかりに唱えられるのは、謎の数式と記号の呪文。さぁお眠りなさいと語りかけてくる。
両瞼が重く、頭を軽く振っても、手の甲をつねっても、閉じてしまう。次第に頭もコクリ、コクリと舟を漕ぎ始める。もう諦めて寝てしまおうかと思った時、「糸師くん、近々当たりそうだよ」と小声で囁かれる。
誰かに見られていたことにはっとして、沈みかけていた意識が一気に浮上する。横を見れば隣の席の少女が苦笑いしていた。少年はバツが悪そうに目を逸らす。
「はい、じゃあ次はこの列か。順番に書いて」
直後、自分の列が丸ごと指名され、黒板に書かれた問題を解くように言われる。
今回宿題はなかった。なので、問題を解く時間は少年が微睡んでいる間に平等に与えられたのだろう。少年の手元には真っ白なノートしかなく、挙句教科書のどこが問われているかも分からない。
少年は顔には全く出ないが、どうしようかと内心焦っていた。続々と黒板に向かう人影を目で追っていると、そっとノートが差し出された。
「良かったら‥使って」
教員の目を避けるため、前を向いたまま渡されたそれには、綺麗に書かれた数式と答えが並ぶ。少年にとってこの上なく有り難い申し出だったため、「ん」と軽く頷いて、素直に受け取った。
教壇へ上がり、未だ一問だけ取り残された箇所へ少女のノート片手にチョークを走らせた。席へ戻り、教員が黒板へ向かう間に小さく一礼をして少女へノートを返した。少女が頷いたのが、視界の端に映る。

危機を切り抜けてホッとしたのも束の間、解説後に「最後に応用の小テストな〜」と鬼のような一言が告げられる。クラス全体から「え〜」と不平不満の声が上がる。少年も声には出さないが、もちろん不満顔であった。
さっきは助けてもらえたが、さすがにテストの答えまで教えてもらう訳にはいかない。恐らく簡単な順に出題されているであろう問題の一問目から少年は頭を悩ませていた。
「はい、終わり。隣の人と交換して採点。答え配ります」
一応形ばかりに解いた答案を、綺麗に設問を埋めていたこの少女に渡すのかと気が滅入る。
よろしくどうぞとばかりに差出される用紙と申し訳なさそうに笑う少女。少年は今さら恥ずかしいこともないかと早々に諦め、交換に応じた。少年は丸をつけ始める。ーーやはり全問正解だった。

「はい、糸師くん」
「ん。文系なのに数学も出来んだな」
そう嫌味でなく、本気で褒める少年に驚きながらも照れたように笑う少女。
「糸師くんは英語、ペラペラじゃん」
「まぁ‥」
そんなありきたりな会話をしながら少年へ返された赤丸は半分以下だったが、少年の顔はいつもより穏やかだった。

ーー親切にしてくれた隣人、少年は小テストにあった少女の名前をそっと胸に刻むのだった。



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