ギタボの千切くんと打ち上げ


ガヤガヤした中で、よく通る声を聞きながら心地よい眠気と戦う。酩酊状態。ふわふわして気持ちがいい。ビールを煽る先輩やジョッキ片手に何か宣誓する後輩、それを見て大笑いする同輩たちをやけに遠く感じる。
壁際の席。隣には千切くん。ギタボで積もる話でもしようと群れから外れ、早数時間。テーブルに並ぶ徳利は果たして何個あるのでしょう。私なんて薄められたサワージョッキ二杯でコレなのに。でもこれだけでこんなに気分がいいんだから、燃費がいいよな。うんうん。どうでもいいことを思いながら、キレイな声をBGMに壁に頭を預けて目を瞑る。
「おい、人が話してんのに寝んなよ」
おっと鋭いな、千切くん。確かに目を閉じたら最後、朝まで起きないだろう。体勢を変えるかと壁に背をつけ、あぐらをかく。お猪口を手に不機嫌そうな千切くんと対面する。手先まで赤みがかった私と違って、いつもと顔色は変わらず。酒豪め、燃費悪〜と心の中で笑えば、「何笑ってんだ。ちゃんと聞け」と突っ込まれる。おっと顔に出てたか。
「でさ、そのライブで‥」
楽しそうにこの前行ったライブの話をする千切くん。その眩しい横顔を見ながら、少なくとも嫌われてはいないんだろうなと思う。
千切くんは分かりやすい。というより分かりやすくしている。自分の外見が良いのは当然理解している。だからこそ一線を引く。サークル内で話しかけられたら老若男女に対し、無視はしないものの挨拶だけ交わしたら話を聞くフリの時が多い。しかもそれを隠そうとしない。でもみんな千切くんに夢中だからその態度を咎めたりはしないのだけれど。
こんな風に自分から喋りかけたり、笑顔を見せることはそうそうない。と数年一緒に過ごして思うのだけど、あまり調子に乗ってはいけない。同じ趣味を持ち、同じポジションに立つからこそ、こんなにも分かり合えているのだ。マイメン、といったところだろうか。
カルピスのカの字もないただの白い液体で喉を潤せば、千切くんも同じようにお猪口に口を寄せていた。真紅の瞳と目が合う。千切くんも同じ思いだといいなと思いながらヘラヘラ笑って、誰からも手をつけてもらえない最後の一つになった唐揚げをお箸で摘んで、口に運ぶ。
「お前さ、俺らの最後の曲どう思った」
今回はコピバン縛りのライブだった。だからみんなこぞって有名バンドのメジャーな曲ばかりを演奏した。全員で踊って跳ねて歌って、ライブ中からみんな全力だった。ーー千切くんたちの最後の曲。確かドラマのタイアップ曲で、うっとり聞き入ってる女の子がたくさんいたなと思い出す。まぁ千切くんの声で歌われたらみんなが惚れるよね。歌、超絶上手いし。
「やっぱり千切くんは歌上手いなと思った」
唐揚げを飲み込んでから、思ったままに伝えれば、吹き出して豪快に笑う。首を傾げれば、「超素直。まぁ合ってるけど」とご満悦。良かった、良かった。
ご機嫌な雰囲気にこちらも嬉しくなる。残り少なくなったジョッキを飲み干してしまおうと手を伸ばせば、その手を千切くんの左手が捕まえる。
急なことに頭が混乱する。
戸惑いながら顔を向ければ、さっきまでの笑顔はなく、真剣な顔でこちらを見ていた。
「‥そうじゃなくて、伝わったかって聞いてんの」
俺の気持ちーーそう言って距離を詰められる。
逃げようにも逃げ場はない。再度ぎゅっと握られた指先が千切くんの厚くなった指の腹に触れる。ーーこの指先でキーボードを弾いて、歌っていたのはラブソング。
意味をきちんと理解すれば、次第に酔いが醒めていく。
ーーえ、そんなことあっていいはずがない。これは夢なのか。都合の良すぎる夢だ。
そう思いながら空いてる方の手で頬を思いっきり抓れば超痛かった。一連の行動に、目の前の千切くんが堪え切れずにまた吹き出す。
「お前、人が真剣に話してんのに何ふざけてんだよ」
ーーいやだって、今までずっと勘違いしないように、友達って言い聞かせてきたんですもん!
そう叫びたい気持ちを抑えて、千切くんの耳元に顔を寄せる。私の囁きを受けて、さらに大声で笑う千切くん。そして指と指が絡むように手を握り直してから、仕返しとばかりに囁かれる。
「何度でも聞かせてやるよ」



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