蜂楽くんとおやすみなさい


「ダメ?」
そのキュルンとした瞳に見つめられて、首を横に振れる人がいたら今すぐ連れてきて欲しい。四つん這いで小首を傾げる姿、一端のアイドルさえ顔負けだ。半裸なのも頂けない。目を逸らそうにもその先の方が刺激的なのだ。ーー下着を履いただけ以前よりマシだけど。
「ダメなら諦める」
言葉とは裏腹に見つめる瞳が熱を帯びていて、諦めたくないと言っている。ゴクリと喉が鳴る。首を縦に落とそうかと思ったら、ポタリと私の手に雫が落ちる。風邪を引いたら嫌だからきちんと乾かしてと言ってるのに。ーーこれは今後も教えていくしかなさそう。
危うく流されそうになった自我を呼び戻す。今日は負けないと思い直し、顔に力を入れて見つめ返す。すると悲しそうに下がる眉毛。しゅんと垂れる犬耳が幻覚として現れ、瞳が寂しさに揺れる。また喉が鳴る。ーーわざとじゃないところが、とてもズルい。
視線をようやく逸らして、読みかけだった本にしおりを挟む。乱入のおかげでどこまで読んだのか定かでなくなってしまった。一時ベッドボードへ避難させる。ーー寝る前の読書タイムに邪魔者は付き物である。
降参の気持ちを込めて再度視線を絡めれば、満足そうに上がる口角、下がる目尻。してやられてばかりだ。そんな少しの悔しさを込めて首からタオルを奪って、ガシガシと髪を乾かす。ーーくすぐったそうに笑う声につられて私も自然と頬が緩む。
「では、遠慮なく、いただきます」
乾かし終えれば、タオルをポイと床へ放り投げ、ニコニコと効果音がつきそうなぐらい嬉しそうに笑う。お行儀よく手を合わせ、小さく一礼。私はお供物なのか。何て思ったらギラつく瞳と舌なめずり。ーーお供物で間違いなさそう。食べられるタイプの。
頭を優しく撫で、そのまま手を添えられ、そっとベッドへ沈む。天井と逆光。揃えた前髪のお陰でべっこう飴の瞳がよくよく輝いて見える。キレイだなと思っているうちに近付く距離。唇に軽くリップ音。そのまま顔が横に逸れて、首元に吐息と髪の毛が掛かる。こそばゆくて目を瞑る。ーー無駄だと分かっているが、明日の自分にエールを送る。
「‥あ、やば!ゴムあったっけ?」
勢いよく顔を上げたかと思えば、言葉と共に焦ったようにベッドボードを覗く。情緒がなさすぎる。が、それが彼、蜂楽廻なのだ。思わず笑いが漏れる。箱の中身を確認する姿を視線だけで追って、ふと目の前を見ればキレイな腸腰筋と対面する。滅多に見ることないそのVライン。細いけど筋肉量が男の子だよな。まじまじと上半身を眺めてから、そのくぼみを何気なく上から下へつうっと指でなぞる。瞬間、ビクリと跳ねる身体。ーー瞬時にやらかしたなと悟る。
唇を噛んだまま、ゆっくり視線を上げれば、膝立ちのままこちらを見下ろす視線。怖いぐらいの微笑み。ーー寝られると思うなよ、と圧がかかる。
「覚悟してよね」
そう耳元で囁かれてからはもう語るべくもない。



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