潔くんと賞与


たかが飴玉、されど飴玉。タダで貰えたから嬉しいんじゃなくて、誰から貰ったのかが大事な意味を持つ。そんな風に思えるようになったのはきっと君に出逢ったから。君じゃなきゃダメなんだ。

「はい、潔くん」
「‥え、ハイ」

昼休憩が始まってすぐ。
エナメルから弁当を出そうとゴソゴソしていたら、前から声が掛けられる。
顔を上げれば、意中の子が笑顔で拳をこちらへ差し出している。な、何だ。
小さな拳の下におずおずと手を広げれば、「あげる」という声と共に何かが落ちる。
手のひらには小さな苺が何個もあしらわれた白い包み。
三角形のピンク色、噛むとミルクの甘さがクセになるヤツ。そういえば昔よく食べたなと思い出す。
ーーしかし、なぜ彼女から貰えたのか分からない。
彼女から貰える物は何でも嬉しいが、無償で何か貰えるほど、今はまだ仲良くない。
かといって、自分の記憶の中で、ここ数日彼女と関わった覚えはない。

「え、俺鷲深さんに何かやらかした?」
「違うよ!何でやらかした人にあげるの!したら普通逆でしょ」

もしや気付かぬうちに彼女に迷惑をかけていたのではないかと焦りながらそう尋ねると、何を言っているんだとケラケラと笑われる。それもそうだよな。
だが、自分が何をしたのか皆目見当がつかないと困り果てていると、彼女が教室の棚を指差す。その方向へ視線を向ければ、亀が石の上で伸びていた。


「潔くん、誰もやりたがらないカメ吉の水槽掃除してくれたから。表彰しに来た」


その言葉を受けて思い返される昨日の昼休み。
担任が生物教員ということもあり、我がクラスでは亀、通称カメ吉を飼っている。
基本的には担任が甲斐甲斐しく世話をしていたが、虫垂炎になってしまい、急遽入院してしまった。
急なことで代役もおらず、ちょうど近々掃除するタイミングだったのだろう、水槽は透明度を失いつつあった。
エサやりなら代わってもいいが、水槽を洗うとなると時間も労力もかかる。
ーー誰かやれよ。そんな無言の圧力が教室内にあった。
そんな中、めずらしく友達と一緒に昼食を摂らず、黙々とご飯を平らげ、カメ吉の水槽を洗い始めた人物がいた。ーーそれが、潔世一だった。
最初こそみんな呆気に取られて見守るだけだったが、そこは潔の人徳か、「待てよ、俺もやる」とサッカー部を始め、他の男子生徒たちも集まり、賑やかな雰囲気で掃除を始めたのだった。


「いや、でも俺はやり始めただけで、ほぼみんなでやったし‥」
「ううん。潔くんがやり始めなきゃ誰もやらなかったよ。何もしなくてゴメン」


「これはありがとうの気持ち」そう言って、彼女の細い指が自分の手に触れて、飴を握りしめるように重なる。
瞬間、触れた指先が熱を持ち、身体中を巡り、顔や耳まで熱くなるのが分かる。

「っと、ありがと。あとで食べる」
「ん、私の好きな味だからぜひ食べてね」

ーー手先まで赤みを帯びる前に離れなければ。
そんな焦りから、拳を強く握りしめ、素早く自分の方へ引いた。
その行動に彼女は何度か瞬きしたが、お礼の言葉と共に飴を摘んで揺すと、カランと口の中で飴を転がして笑ってくれた。
用は済んだとばかりに「じゃあ戻るね」と彼女があっさり友達の輪へと帰ろうとする。

「鷲深さん、ホントにありがと」

その後ろ姿にもう一度お礼を言えば、ふわりと振り返った彼女がいえいえと言うように何度か首を振ってくれた。


ーー舐めていたのはこれと同じ飴なのだろうか。好き、な、味。
ムダに脳内再生されるのは、彼女からの好き、のワード。自分宛ての好きではないのに、自然と緩んでしまう頬を制御するのが難しい。片手で自分の口元を覆い、ごまかすように軽く頬を揉む。


「これ、いつまで持つかな‥。あとで調べよ」


ーーあとで食べるとは言ったが、今すぐとは言っていない。 
指先の可愛らしい苺柄がキラキラかがやいて見える。小さく呟いた独り言は騒がしい教室の中に溶けて消えた。



ふわふわ、きらり



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Thanks! ノーチラス
アンケートの世一好きの方々へ捧ぐ。



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