千切くんと捕食


駄菓子って結構みんな買ってくれるんだな。コレ昔食べたなぁって手を伸ばして、思わず買っちゃうのかな。‥‥んー確かに。私もコレ、昔はよく食べた。飴ガムチョコ禁止という遠足謎ルールを掻い潜るための秘密兵器。安いくて軽くてマストバイ。
リボンを付けた猫ちゃんを半分にして中身を取り出す。指で摘めばうにうにと柔らかく、そのまま触り続けていたくなる。
「食べ物で遊ぶなよ」
そう前から声が飛んで来たため、それもそうだと思い慌てて口へ運ぶ。もにゅりと噛めばじんわりとした甘みが広がる。やはり美味しい。
マイクを通して反響した声が音にならず、ぼんやり聞こえる。
「千切くんは出なくて良かったの?」
「興味ねー」
心底どうでも良さそうな返事と共にパッケージを破り、私と同じ物を口にする。


そういえば数ヶ月前にも一方的に盛り上がるクラスメイト達を「出ない」の一言で一蹴したことを思い出す。
コンテストに出ないなら、せめて客寄せをやってくれ。
必死で頼み込むクラスメイト達。ーーコンテスト優勝の金一封は諦めるから、売り上げ一位の学食無料券を是が非でも手に入れさせてくれ。
そんな気迫に圧倒されたのか、やや引き気味に「‥わーったよ」と頷いていた。


ワッと沸く声。少し遅れて拍手が聞こえる。
今年はどんなツーショットだろうか。あとで聞こう。
次の甘みを口の中に放り、享受する。
んーしょっぱいのが食べたい。が、生憎残っているのはこれだけだ。
当初の予定よりお客さんの入りが良く、余ったら食べたいと思っていた物はほぼなくなってしまった。
‥‥あ、そういや千切くんが客寄せしてくれたからあんなに人が来たのかも。
千切くんと別の客寄せ班だったから準備の時しか一緒じゃなかったけど、この美貌に釣られてくる人は多かったらしい。
「千切くんのおかげ、でもあり、千切くんとのせい、でもあると」
「は、なんだよ急に」
千切くんへキティちゃんをそっと差し出せば、電卓を叩く手を止めて、怪訝そうな顔で受け取る。いやいやお礼ですって。感謝のシルシ。
「あ、わかった。お腹いっぱいだろ」
ご名答。でも直接的な表現は千切くんに悪いから避けよう。
「しょっぱいのも残ってれば良かったのにね」


個包装の物はクラスのみんなで山分けするのにちょうどいい。
うまい棒、ブラックサンダー、蒲焼きさん、すだこさん、チョコマシュマロ。
どれもみんな好きそうだな。ここに置いておけば各々好きなの取ってってくれるかな。
数個ずつ、微妙な量だけ残ったそれらをザラザラと教室入り口の底の浅いダンボールにまとめる。
最後の箱に手を掛けた時、「鷲深、マシュマロ好きじゃなかった?」ときなこ棒を咥えた千切くんが現れる。 
お互い朝からずっと動き回っていたから、数時間ぶりの再会。
「千切くんお疲れ様‥‥って、かなり楽しんだな?」
「まぁ‥‥客寄せだった分、色々と回れた」
上着を脱ぎ、Yシャツを腕捲りている千切くんは、随分文化祭を楽しんだようだ。ーー頭にはバイキンマンのお面、首には色違いのレイが数本かかっている。
箱から手を離して、にやりと問えば、目を逸らして言い淀む千切くん。
‥‥こりゃ片手間で客寄せしてたな。
それを指摘するほど野暮ではないし、自分も色々と楽しんだ身だ。
焼きそばにタコ焼き、クレープ、映研の上映に軽音のライブ。宝探しに人探し、お化け屋敷。
この数日で高校生活の楽しさをほぼ消化したと思えるぐらいだ。
「もう終わりだと思うと少し寂しいけど‥ホントに楽しかったね」
「ああ」
祭りの後なのにそこらかしこで片付けをしているクラスメイト達にも未だ活気と笑顔が溢れていて、見ているこっちまで頬は緩み、心が弾む。
準備から片付けまで、全てが楽しい。ーーまだ終わりにしたくない。
そんな思いで千切くんを見れば、お母さんみたいに優しく笑ってくれる。
ーーさて、私も作業の続きを。
マシュマロの箱に手を伸ばそうとすると、先に千切くんの大きな手が箱を掴む。
「ん?千切くんも好きなの?」
「あ?‥‥まあな」
私の問いかけに少し反応が遅かった千切くんは小さくそう返事をすると「ちょっと待ってろ」と箱を手にしたまま、文化祭実行委員の元に歩いていく。そして何か言葉を交わした後、あっさりこちらへ戻ってくる。
「これ、俺らで食べていいって」
「え、いいの?!」
「残り少ないし、報告組は後夜祭あんまり楽しめないだろうから、だって」
「やったー」
「いや後夜祭出れねぇんだぞ、悲しめよ」そう呆れ顔で突っ込む千切くんから差し出された箱を大事に抱えた。


何て会話をしていた数時間前。
「出来た」
私たち以外いない広々とした教室で、手書きの収支報告書を担任宛に書き上げる。
「おーお疲れ」
心のこもってない言葉を受けて、顔を上げれば千切くんがグラウンドを見つめている。
それに倣って闇の中に浮立つオレンジ色に目を向ける。揺らめくそれを中心に集う人影がある。
定番の告白タイムか、いいな。
そう思いながら無意識にマシュマロを食べようと手を動かせば、「なぁ」と声が掛かる。
「あと何個?」そう千切くんから問われる。
はたと机の上を確認する。千切くんも私も無造作に食べ終わりのゴミを置くから、どれを食べていないのかよく分からない。ーーちゃんと分別してみれば、私が開けたこれが最後の一つだった。
「わ、ゴメン。コレで最後」
「あっそ。じゃあ鷲深が食べて」
「いやいや千切くん食べてよ、好きでしょ?」
あっけなく私に譲る千切くんに「開けちゃったけど少ししか触ってないよ?」とマシュマロを口元へグイッと差し出せば、綺麗な顔が歪む。
え、そんなに嫌なの。
軽くショックを受けていると、千切くんが深い溜め息を吐く。
「ゴメン、自分で食べ「まさかお前、俺が好きで食べてたと思ってんの?」
これ以上は嫌われると焦って自分の口へ持って行こうとした手首をガッチリと握られ、そう真っ直ぐに問われる。
え、違うんですか?
そう音にする前に、「鈍いヤツ」と言いながらマシュマロに唇をむにゅりと押し当て、パクリと食べる。ーー見つめ合ったまま、全てがスローモーションに動く。
にやりと笑うその顔に、上がっていく体温とBPM。
え、それってどういうこと?詳しく聞いてもいいですか?
今度はちゃんと発声出来たらしい、「ったく、遅ぇんだよ」と鼻を鳴らす千切くん。
まだみんな帰って来ないよなとそわそわする私の期待をどうか裏切らないで欲しいと願いながら見つめる喉仏。



どきどき、にやり



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Thanks! ノーチラス
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