冴くんに想われる


パックのオレンジジュースを飲みながら頬杖を付く横顔。揺らめくカーテンが彼女の姿を見え隠れさせる。俺が来たのに気付かないくらいグラウンドへ熱視線を注いでいる。全く面白くない。
わざとらしく教卓にエナメルバッグを置くと音に反応してこちらを向く。

「お、冴くん来たんだね」
「ああ、帰るぞ」
「あーい」

気のない返事と共に立ち上がり、開けっ放しになっていた窓を閉め、はためくカーテンを捕まえて束ね始める。その間も彼女の視線が外れ、瞳を少し彷徨せてからまた熱を帯び始める。──やはり面白くない。
バッグを持ち、教壇から降りて隣に並べば頭ひとつ分小さい。半袖から伸びた両腕が嫌に青白くガリガリで自然と眉間に皺が寄る。コイツちゃんとメシ食ってんのか。
そんな疑問を口に出すのも憚れるぐらい真剣な眼差しが走る人影に向いている。数秒、彼女を真似て何の面白味もない校庭を眺めてみるがすぐ飽きた。帰るって言ってんだろうが。
不意に掴んだそれは俺の指が余裕で回る。少し力を入れたら容易く折れそうだ。
グイと引けば驚いた顔がこちらを見上げ、瞬時に眉を下げて笑う。
「あ、ゴメン!帰るっていうのにぼんやりしてた!このジュースも飲み切らなきゃね〜」と焦った様に捲し立て、パックジュースを一気に啜る。
「一点凝視だったろうが」という小言は彼女の奏でるズルズル音に掻き消され、何?という風に小首を傾げられてしまう。

「‥なんでもねぇ、早くしろ」
「ふーん?変なの」

俺が廊下に向かって歩き出せばその後ろをちょこちょこと小走りでついてくる。
背後の気配に懐かさを感じつつ、靴箱から床へ靴を放ると彼女の靴も隣に並ぶ。大人と子どもかと思うくらいサイズの差があるなとまた嫌になる。
「冴くん?」と声がかけられてまた無意識に寄っていた眉間の皺を直し、「なんでもねぇ」と小さく答えた。


「今日の練習はどんなもんかなー凛ちゃんとうちの弟はもう着いたかな?」
「さぁな」
「もう夏の陽気ですので、冴くんの帰り道恒例コンビニアイスを期待してもいい頃ですかね?」
「いや季節問わずに食ってんだろ」
「確かに〜」

少し歩くだけで汗ばむ様な外気の中をいつも通りのくだらない会話をしながら歩き始める。部活中の活気ある声が徐々に遠くなっていく。
──ここを出ればコイツが見つめるモノは消える。と思いながら校門を出る。



クラブチームに着くと既に凛たちはピッチでアップを始めていた。俺も着替えるかと別れようとするとさっきとは逆に俺の腕が引かれた。

「冴くん、今日もよーく見てるからね!暑いから気をつけて」
「‥あぁ、ちゃんと見とけ」

押し付けるようにスポドリを渡すと手を振ってスタンドへと走っていった。俺の言葉が聞こえたかは分からない。
──もうすぐいなくなる俺がこの嫉妬心に名前をつけることはない。それでも他の男を見るのは耐えられない。そんな曖昧な感情を飼い慣らしながら、アイツの何気ない行動を日々躱すのにこっちは必死だというのに。



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