千切くんと映画予告
何気なくテレビを見ていたら映画の予告が流れた。かわいい女の子とイケメンが何やら片想いごっこするらしい。少女漫画ど真ん中っぽくて大変気になる。そのあとも提供の関係か同じCMが流れてくる。
というか、これって。
「ねー豹馬」
「ん、なに」
「これさ、千切くんにも聞こえない?子音違いで」
「あー確かにな」
千輝くん改め千切くん。
ウチの千切くんはスマホ片手に頬杖ついて横目でテレビを見ている。んー何気ない動作さえカッコいい、ズルい。
「ちょっとお兄さん、本気出してやってみてよ」とわざとらしく肩に頭をグリグリ押し付けると「えー」とあからさまに面倒だという声色。
あらあら、残念。こう見えて照れ屋ですもんねと早々に諦め、そろそろお風呂に入ろうかと豹馬に預けていた体を起こそうとする。瞬間、頭と背中を掌で支えられ、ゆっくりと床に押し倒される。
豹馬の髪がさらりと重力に従って落ちるのを綺麗だなぁと見入ってしまう。いやいや、そうじゃなくって!とツッコミつつ、口を開こうとすると豹馬が可愛らしく口角を上げた。
ヤバいと思った時にはもう遅く、耳元へ顔を寄せられる。身構えても無意味だと分かっているのに衝撃に備えてぎゅっと目を閉じる。
「俺と片想いごっこ、する?」
「失恋の記憶、早く俺で上書きして」
コンボなんて聞いてない!と思いながら恐る恐る目を開けるとしたり顔の豹馬がいた。
「で、どうだったよ?」
「‥クッソサイコーでした。てかアレンジすな」
真っ赤な顔を冷ますために手で仰ぐが、そんな簡単に下がる訳もない。そんな私を見てケラケラと楽しそうに笑う豹馬が手を引いてくれて、座位に戻る。
やってみてと言ったのは私だが、声の暴力は計算外である。
「俺の声も好きって、誰かさんが言ってたから囁いてみた」
「く、その誰かさんは今激しく後悔しています」
俯きながら悔しそうに呟けば少女漫画よろしく、片手で顎をクイと上げられて首を傾げた豹馬と目が合う。
「で、央は片想いごっこでいい訳?」
「‥く、本気の両想いでよろしくお願いします」
「ぷは、何だソレ」
ツボった豹馬がまたケラケラと笑えばさらに私はむくれるしかなくなる。
「豹馬、イジワル」
「好きな子は永遠にいじめたいもんだろ」
そう笑って綺麗な指先で頬を撫でられる。諦めて目を閉じれば静かに唇が重なる。ーーホントここまでやってくれとは言ってない!と抗議したくなるが、死ぬまでこのしたり顔を見れるならまぁいいかなとも思う。
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