無色透明
陳列棚に並んでいる硝子で作られた小さな地球。
"スノードーム"と呼ばれるそれは、ガラスの中に小さな世界を作っている。ここらじゃ珍しい柔らかい雪が舞い続け、真っ白な雪だるまと赤い屋根の上に降り積もっている。本物の雪が閉じ込められているわけじゃないから夏が来てもずっと雪を見ることができる。
この世で一番欲しいものが何かと問われれば、間違いなくスノードームと答える。莫迦らしいと嗤われるかもしれない。それでも其れが欲しい。
見本品として飾られているスノードームに触れようと手を伸ばし──
「夢子、何か欲しいもの見つかった?」
「ううん。早くお家に帰ってケーキが食べたい!」
「折角の降誕祭なんだから、欲しいものがあったら云ってね」
「うん」
スノードームに伸ばしていた手を引っ込めて、お母さんの手を握る。
スノードームをおねだりすればお母さんはきっと買ってくれる。でも、なんだかできないまま年をまた一つとっていく。お母さんは私の欲しいものを知っているのかもしれない。云わないのが如何してなのかは分からないけど、なんだかホッとする。
スノードームの方を振り返ると知らない人が手に取って眺めていた。知らない人が箱を手に取っていた。沢山の人がスノードームを眺めて幸せそうにしていた。
私がスノードームを欲する理由は羨ましいからなのかもしれない。
気づかない振りをして今日の晩御飯を思い浮かべた。優しく降っている雪は地面に着く前に水になっていた。
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