想いと気持ち*
「ふー……」
家に帰ってきたカカシは大きなため息をついた。
家のカギをテーブルに置いてベストを脱ぐ。
時計を眺めながら今ごろ●●●たちは飲み会か、なんて思う。
家の窓から隣に建つ●●●の家を眺める。
数十年前に●●●が木の葉を出て行ってから1度も帰宅した形跡のない●●●の家。
3年前に一度帰ってきていたなら何故家に寄らないのか。
ま、理由は俺だろうね…。
カカシはベッドの枕元にある古びたカギを手に取る。
それはこの家のカギではなく、●●●の家のものだ。
数十年前……
●●●が木の葉を去ってしばらく経った頃、カカシはポストの中の鍵を見つけた。
初めはなんの鍵なのか、なんでポストに入っているのか分からなかった。
●●●の家の鍵だとわかってすこし嬉しかった。
久しぶりに●●●の家に入ると、いつも●●●が居たけれどいない冷たくて暗い部屋。
気持ちのいいベッドも●●●のいた時のような気持ち良さはなくて、あの夜のことが鮮明に蘇ってきてしまう。
それからしばらくはその家に入ることも出来なかった。
季節が変わり よく晴れた日に、かつての担任がカカシの家を訪れた。
その機会に2人で●●●の家を掃除した。
窓を開けると気持ちのいい風が吹き抜けていく。
あの夜のことも、●●●がいなくて暗い気持ちもさらっていってくれるようだ。
カカシは掃除を終えて、そのまま陽のあたる気持ちのいいベッドでうたた寝してしまった。
やはり柔らかくて、体を優しく支えてくれる。
久しぶりにしっかり眠れた気がする。
でも隣に居て欲しい人の気配はない。
いい加減慣れなきゃな、と自分に言い聞かせる。
担任は綺麗になった食卓の椅子に腰掛けて話し出す。
「●●●が戻ってくるまでこの家守ってやらないとな」
「……帰ってくるかわからないって言ってましたが」
「なに言ってんだ、カカシ。●●●が修行の旅に出るのはお前のためだぞ。帰ってくるに決まってんだろ」
よく意味がわからなかった。
俺のため?
目をぱちくりさせているカカシを見て担任は大きなため息をつく。
「お前ら本当に一緒に住んでたのか?大事な事は言わないぞゲームでもしてんのか?」
「………………いえ」
担任は真面目な顔になる。
「●●●はお前とお前の大切な人をすべての怪我や病気から守りたいそうだ。その力が、今の自分にはない。だからそれを求めて旅に出たんだ」
カカシは固まって動けない。
そんなカカシに担任は続ける。
「だからちょくちょく帰ってきてお前の様子見にくると思うぞ」
だから家綺麗にしておいてやれよ、と言い残して担任は●●●の家を出て行った。
1人残されたカカシはしばらく動けずに居た。
気持ちのいい風が頬を撫でても
自分の目から溢れる涙が頬を伝っても…。
●●●が木の葉を去る前日のあの夜、
俺に組み敷かれながらも賢明になにかを説明していた●●●を思い出す。
俺は自分の気持ちの整理に精一杯で全然話を聞いてやれなかった。
●●●は、ちゃんと話してくれていたのかもしれない。
今思えば 卒業試験の日、窓から眺めた●●●は意味深に額当てを見つめていたな…。
俺は●●●に拒絶されるのが怖くて仕方ない。
大嫌いと言われたあの夜を思い出すのも嫌だ。
会いにいけない理由はこれだ。
だけど、慰霊碑で会った●●●を思い出すと会いたいという気持ちは日に日に抑えきれなくなってしまった。
木の葉に居ないのなら会えなくても仕方ないと自分に言い聞かせてきた。
だが、●●●が木の葉にいるのなら話は別だ。
慰霊碑で●●●に会ったとき、俺の……カカシの話をしている●●●の表情は微笑んでいるように見えた。
何より、大人になって一段と綺麗になった●●●にきちんと名乗って会いたい。
あの夜のことも全て含めて話をしたい。
またあの頃みたいな関係に戻りたい。
俺のために里を出た●●●。
俺はお前を守る為に強くなったんだ。
拒絶されても、守りぬく。
会いたい。
そう思うと俺は、帰ってきたばかりの家を飛び出していた。