夢を決めた日
「ねえねえ」
「…なに?」
自分が集中しているときは邪魔をされるのがとてつもなく嫌なのに人の手裏剣修行は平気で声をかけて邪魔をする。
カカシは修行を止めて後ろにいる●●●の方を見た。
「カカシはどこまでいくの?」
「.................はあ?」
振り返りながら眉を曲げた顔で●●●を見る。
●●●は太陽が高く昇る空を見上げながら柵に肘をつき両手で頬を支えている。
質問はしたけど答えはどうでもいいような印象にみえる。
「............」
「...お前の質問の意味がさっぱりわかんないよ」
そう言ってカカシはまた手裏剣を投げはじめた。
●●●が授業を終えて校内にある演習場に目をやると、自分たちより一足先に下忍になった彼が手裏剣の修行をしていたので話しかけたのだ。
空を見ながら深呼吸をして、手裏剣を投げる彼を見る。
修行なんていらないんじゃないかと思うほどに的確に的に刺さる手裏剣。
カカシとは家が隣なので朝は一緒に忍者学校に行っていた。
●●●が遅刻しそうな時間に家から出ても必ずカカシの姿があった。
2人で走って時間ギリギリに学校についたっけ…。
今は別々にそれぞれの場所に向かう。
下忍の彼は大人に混じって簡単な任務をこなしているらしい。
下忍の任務はカカシにとっては簡単なのか、任務が終われば忍者学校内の演習場で●●●の授業が終わるまで修行をしている。
授業が終わってからも●●●が図書室に入り浸れば、カカシはその時間も演習場で修行する。
2人とも両親がいないので夕飯は一緒にとることが多かった。
食事は基本的に●●●の家で食べる。
『早く帰宅した方が夕食をつくる』
2人で決めたルールの一つ。
●●●が作ったり、カカシが作ったりその時々で決まる。
夕食を食べて空が暗くなるとカカシは隣の自宅に帰って行く。
ときにはそのまま2人で朝まで眠ってしまうこともあった。
ここ最近はずっとそんな感じ。
気持ちのいい風が●●●の髪をかき乱す。
●●●は反射的に目を瞑った。
「...今日は先に帰るね」
カカシが手裏剣を投げる手を止め、
●●●に振り向くことなく答える。
「...あっそ」
「夕飯なに食べたい?」
「...スタミナ料理」
「あ、魚を早いうちに食べないといけなかった」
「..................」
カカシがやっと振り返って●●●を見る。
その顔は意味ない質問しやがってと言ってるみたいだ。
だけど●●●は気にも止めず、
「...はやくかえってきてね」
そういい残しタタッと音を立てて走りだした。
その場に残されたカカシは少しの間、手裏剣を投げずに固まっていた。
頭をポリポリかいて首をすこしひねり、再び手裏剣を投げはじめた。
●●●は家に着くと冷蔵庫から魚を取り出して常温に戻しておく。
その間に味噌汁を作る。
すこし多めに作っておけば朝には野菜に味噌が染みた味噌汁を温めるだけで飲めるのだ。
両親がいなくなってから料理はせざるを得なくてイヤでも上達した。
ご飯も土鍋でうまく炊けるようになった。
味噌汁とご飯が完成し、魚を焼いている間に漬物を切っているとカカシが帰ってきた。
「おかえり」
「...ん」
カカシの服が上下紺色の普段着になっていた。
「あれ、お風呂入ってきたの?」
「そ。埃と汗で気持ち悪かったから」
「すぐ食べるでしょ?」
「んー...食べる。●●●も一緒に食うでしょ?」
「うん」
魚の焼けるいい匂いがしてきた。
ベストタイミングで帰ってきたねと思いながら2人分のご飯をよそう。
隣でカカシが味噌汁をよそってくれる。
「....味噌汁さあ、量多くない?また朝も食べるの?」
「そうだよ、味噌しみしみ野菜美味しいでしょ?」
「...お前好きだよねー」
「カカシは食べないの?」
「...........食べる」
食卓に2人分の料理が並んだ。
「いただきます」
「いただきます」
ふわっとした魚の身が食欲をそそる。
味付けをしなくてもしっかり塩が効いてる。
ごはんが進む。
2人ともしばらくは無言で魚を頬張った。
全て平らげてあったかいお茶を入れる。
「はい」
「....どーも」
カカシがお茶を手に持つ。
食べ終わって2人でお茶をすする。
いつもこのお茶の時間は2人の会話が1番弾む。
今日の出来事などを話す、2人の1番好きな時間だ。
先に口を開いたのはカカシだった
「....今日のあの質問はなに?」
●●●は何か言いたそうにカカシを見つめる。
カカシは横目でじっと●●●を見た。
「....何か質問した?」
「....はあ、もういいよお前」
そういうとカカシは●●●を横目にお茶をすする。
《カカシはどこまでいくの?》
カカシはこの時、その質問の意味を分からずにいた。
カカシはその日の夜
●●●の家にそのまま泊まった。
朝にしみしみ野菜の味噌汁を食べるためだ。
●●●の家に泊まるときは●●●の両親が寝ていたダブルベットで2人で眠る。
高級そうな分厚いマットレスで柔らかく、体にきちんとフィットして支えてくれる。
ハードな修行をした日の夜は決まってこのベットが恋しくなる。
●●●はカカシが隣に寝ていると、とても安心してよく眠れた。
カカシのことを心から信頼している証だろう。
カカシはどうか知らないけれど、彼も普通に寝ているしお互いにそうだろうと結論づけた。
お風呂に入って髪を乾かしベッドに向かうとカカシはもう眠りについていた。
●●●は、なるべくベッドを揺らさないようにベッドに潜り込んだ。
「あ、歯磨きしてない」
●●●はベッドから出て立ち上がった。
潜り込むときは揺らさないようにしたものの出るときは普通に揺れてしまった。
柔らかいマットレスは人が動くとよく揺れる
カカシの体もゆらと揺れた。
●●●はカカシを振り返る。
起こしちゃったかな…?
そのまま動かないカカシを見て、洗面所に向かった。
お互いの両親が亡くなってからカカシと●●●は、家族として、友人として、同じ悲しみを抱える理解者として、お互いを見ていた。
一緒にいる事で癒される傷、紛らわすことができる傷。
傷の舐め合いといえば聞こえは悪いが、癒し合う、そんな関係も大切だと知った。
薄いカーテンから差し込む光で目が覚めた。
今日も忍者学校にいく。
●●●はなるべくベッドを揺らさないように、むくりと起き上がる。
カカシはまだスースーと寝息を立てていた。
昨日の夜、米を洗って火をつけるだけの状態にしておいた土鍋に火をつけご飯を炊きはじめる。
ぼーっとしながら顔を洗ってうがいをし、パジャマを脱いで服に着替える。
カカシが寝ている部屋で普通に着替えているが、それが普通ではないと気付いたのは最近。
だけど別に減るもんじゃないし、カカシに見られたくらい●●●には大きな問題ではなかった。
着替えが終わると冷蔵庫を開けて卵とベーコンを取り出し、スクランブルエッグをつくる。
先に火をつけておいたごはんの土鍋からいい匂いがしてきた。
昨日の味噌汁にも火をつけて温める。
しばらくして、ごはんが炊けそうになるとカカシが目をこすりながら起きてきた。
「おはよ」
「...んー」
本当にベストタイミングで現れるなーと感心する。
嗅覚が優れているからだろうか。
2人で朝食をとる。
やはりしみしみ味噌汁は美味しかった。
スクランブルエッグも完食。
カカシは味噌汁とスクランブルエッグという組み合わせでも、文句も言わず食べてくれた。
カカシは着替えるために自宅へ戻った。
その間に●●●はお皿を水につけて鞄を持ち玄関を出た。
玄関の前には普段着でない、忍者学校の演習場で見るままのカカシが立っていた。
「行こっか」
「うん!」
2人でタタッと屋根を伝ってそれぞれの場所に向かう。
この日から数年後。
上忍になるカカシと
まだ忍者学校を卒業できていない●●●。