桜花爛漫





里の外れにある丘の上の一本の桜。

ライトアップされているが時間も遅いし知る人ぞ知る隠れスポットだからか、人はいない。

●●●は少しフラつきながら桜の木に近づく。
雨が降っても全て遮ってくれそうな程、満開に咲いている桜。
枝1本1本にしっかり花が咲いている。
鮮やかなうすピンクの花びらが空を舞う。

とっても綺麗だ…。


しばらく満開の桜を見上げていると酔いも少し覚めてきた。
思い切り手を伸ばして深呼吸をした後に、ふと背後に人の気配を感じた。

振り返るとすこし遠くで、木の葉に帰ってきた日に慰霊碑で会った銀髪の男性と目が合った。
ズボンのポケットに手を突っ込んで立っている。

●●●は目が合ったのに無視はマズイだろうと軽く会釈する。



そしてまた満開の桜に向き直った。
そのまま目を閉じる。


あぁ、本当に綺麗だ、それに懐かしい。
すこし肌寒いけど気持ちのいい風。
前に来たのは、カカシと…………







「●●●、俺だよ」


後ろからいきなり声がする。
どきりと驚いて振り向くと、銀髪の男性が●●●のすぐ後ろまで来ていた。


「……………こ、んばんは……」


●●●は、よく分からなかったセリフを無視して挨拶する。

銀髪の男性が背を丸め、●●●と目線を合わせるとニッコリ笑って優しい声で呟いた。


「俺が、はたけカカシだよ」


そう言われてお酒で早くなっていた鼓動がさらに加速する。
ドクドクと耳まで心臓の音が響く。


「………え?カカシ……?」


「うん」


「あれ?この前慰霊碑のとこで………」


「会ったね」


「……………」


悪酔いしてるのかな…
幻覚かな。
いやいやいや…
そもそも会ってたのになんで名乗らなかったの?
私そのときこの人にカカシのこと聞かれたはず…
なんて言ったっけ変なこと言ってないっけ。

酒も追加してないのに頭がぐるぐる回ってくる。
これは幻術という忍術かな。

●●●が色々考えていると、カカシは桜の木を見上げながら話しはじめた。




「桜の花にはいろんな成分が含まれてる。クマリンとフィトンチッド。この二つはリラックス効果がある」


「……………………」


「それと抗菌作用と二日酔い防止にもなる」


●●●は驚いてカカシを見た。
そんな●●●を見てカカシはニコリと微笑む。


いつかと同じ桜が咲き誇る同じ場所で、自分がしたうんちくを語る目の前の男性。
本当にカカシ?●●●は会う覚悟も出来ないまま会ってしまった現実をまだ認めたくない。


「…………よく、知ってますね」

「忘れないよ」


微笑んでいた顔は真剣な顔に変わる。


「まだ俺をカカシだと思ってないでしょ。なんで敬語なのよ」


「………だ、だって……その」


お酒と混乱で回った頭は情報を処理しきれない。
カカシは怒ってないのかな…。
一言も相談せずに勝手に決めて里を出た私を…。
すこしぼーっとしている●●●にカカシは続ける。


「この後、時間ある?」


「えっ……と」


●●●は目を泳がせる。
この後はもう少し桜を眺めてから家に帰って眠る。
答えを渋っている●●●を見るカカシ。


「……あの夜の事は、本当ごめん…悪かった」


●●●は、ぱっとカカシを見上げた。
真剣で、どこか寂しそうな表情。
その顔を見てられなくて●●●は俯いた。


「私も、ごめんなさい……」


「俺たちの家に帰ろうよ」


カカシが歩き始める。
●●●はその斜め後ろをついて行く。
昔はどこへ行くにも2人並んで歩いていたっけ。
目線も背伸びをすれば合わせられたのに
今は身長の差がかなりついてしまっている。

そんなことを思い出しながら歩く●●●を
ふいにカカシが振り返る。


「●●●はさあ、一歩下がって歩くような女じゃないでしょ」


「………それ、どーゆー意味?」

なんだか悪口を言われたような気分になった●●●は、カカシをじとっと睨んでみる。


「となり歩いてよ」


そう言ってカカシは手を差し出した。
手を繋いで、って言ってるようだ。
●●●はカカシを見あげる。
さっきからずっとニコニコしてる。
こんな笑う人だった……?

●●●はおそるおそるその手に答えた。
小さいころはよく手を繋いだけれど
カカシが上忍になってからは繋いだ記憶はない。

●●●の手がカカシの手に触れると
カカシはぎゅっと手を握る。

同じくらいの手の大きさだったのに
今は●●●の手はカカシの手にすっぽり包まれる。懐かしさより、ドキドキという心臓の音で胸が熱くなる。
●●●は繋いだ手を見て頬を染める。
カカシは●●●を引っ張ってグイグイ前を歩いて行く。
となりに来いと言ったのはカカシなのに
心なしかカカシの耳が赤い。

しばらく無言で歩いていた2人だが
カカシが口を開いた。


「桜餅は俺にはないの?」

「え?」

「ナルトが美味そうに食べてた桜餅……あれ●●●があげたんでしょ?」

やっぱりナルトくん達が言ってた「カカシ先生」はカカシの事だったんだ。


「カカシは、甘いもの嫌いな筈じゃ」

「桜餅は匂いを嗅ぐんでしょ」


●●●は、昔カカシと花見に来た時
桜餅を頬張って青い顔をするカカシを思い出す。そのときのカカシの顔は面白かったなあ。

「ふふ……」


「…………」

笑う●●●を見てカカシは少し驚いたような顔をしたがすぐに元の表情に戻る。



2人は手を繋いだまま、帰路についた。


この日から数ヶ月後、2人はめでたく結婚した。