せめて君だけ
ふふふ。ついにやった!

ずーっと中忍でくすぶっていたが…私も今日から晴れて上忍だ!

世界がキラキラして見える!あーこれが上忍の見ている世界かっ!


「●●●、やっと上忍?遅いよ」
「ぐう…」

その一言でキラキラした世界が一瞬で曇った。
壁にもたれかかり本を広げているこの人は、はたけカカシ上忍。大先輩だけど…苦手だ。こうやって水を差すところが!

「…カカシ先輩、もっとおめでとうとか言ってくれないんですか」
「●●●は調子に乗りやすいから上忍になって浮かれすぎないようにね」
「う……わかってますっ!」

祝う言葉を一切くれず、忠告だけ残してカカシ先輩は消えた。


……まあいい。カカシ先輩はそうでも…きっと彼なら上忍になったこと祝ってくれるに違いない!●●●はその足でいつもの飲み屋に向かった。





「いらっしゃい、●●●ちゃん」
「こんばんは!…スケアさん来てる?」
「ああ、今しがた。あそこで飲んでるよ」

店主の指差す方向を見ると、カウンターに座る1人の男性が●●●に向かって笑顔で手を振っている。

「スケアさん!」

●●●は嬉しそうにスケアに駆け寄って、当たり前のように隣に座る。

「今日は早いね」
「うん。今日は上忍の合格発表があって任務免除だったんだ」
「そうなんだ。●●●ちゃんはどうだったの?受かった?」
「受かったよ!」

●●●は得意げにガッツポーズをして見せた。
そんな●●●を見てスケアはニッコリ微笑む。

「おめでとう」

やっぱりね!思ってた通りスケアさんは祝いの言葉をくれた。嬉しさと照れとスケアの言葉に●●●の頬が染まる。

「ありがとうスケアさん!」
「お祝いに今日は僕が奢るよ」

スケアさん…なんて優しいんだ。
苦手なカカシ先輩に会った後だからか、余計にそう感じる。

スケアさんとは少し前、この飲み屋で知り合った。スケアさんは元暗部の特殊部隊にいたそうで上忍を目指す●●●とすぐに意気投合。すっかり仲良くなった2人は毎日のようにこのお店で会うようになった。

いつのまにか●●●にとってスケアと話す時間は、癒しの時間に…なくてはならない時間になっていた。

「おめでとうの一言があっても…今日くらい褒めてくれてもいいのに」
「そうだね……でもその『カカシ先輩』は●●●ちゃんの事が心配なんじゃないかな」
「いつも気にかけてもらっているし、それは分かるんだけど…私は褒められて伸びたい!」
「ハハハ……じゃあ…」

スケアは●●●の頭にポンと手を乗せた。

「●●●ちゃんはすごいよ。頑張ってる」

至近距離でニッコリ笑うスケアに見とれて●●●の顔は耳まで真っ赤に染まる。

「ちょっとあからさますぎたかな…?」
「そ!そんなこと…!嬉しい!です…」

胸がドキドキ鳴ってうるさい。

ああ、私…きっとスケアさんのこと好きなんだ。




**



「じゃ、今から適当に各自ツーマンセル組んで」

今から木の葉の大運動会。
下忍から上忍まで待機忍は参加必須。
念願の上忍になって…最初にやることがまさかこれとは!しかもツーマンセル…二人一組。●●●は待機所の上忍を見渡してみるが見事に知らない顔ばかり。こんな日に限って中忍からの友人は任務でいない。この中から組む人を探すのか………。

どこかでこっそりサボれないかなあ…

さささと静かに部屋を出ようとする●●●の肩にポンと誰かの手が乗った。ギクリとして肩が揺れる。

「●●●はカカシとでいいよな」

●●●が振り返るとたばこをくわえた大柄の男性。

「いっ…アスマ先輩!」
「お前ら仲良いだろ」
「えぇ!?仲良くはないですよ…」

…むしろ苦手なんですけど。

「けどよ、お前ら毎日飲み屋で」
「ちょっと、アスマ!」
「あ!紅先輩!お久しぶりです」
「久しぶりね●●●、上忍おめでとう。これから一緒に頑張りましょうね」
「ハイ!ありがとうございます」
「ま、受かったからってはしゃぎ過ぎて怪我しないように…」

●●●の背後から聞こえた声に急いで振り返る。目に移ったのはいつもの本を広げたカカシ先輩。

「ね」

そう言ってカカシは青くなっていく●●●にニッコリ笑いかけた。

「カカシ先輩…今日任務ないんですか?」
「ああ。今日は待機」
「じゃあアスマ先輩とツーマンセルを組めば最強ですよ」

●●●はアスマの方を見るが、もうその姿はなかった。それどころか待機所には ●●●とカカシ以外誰一人いなくなっている。

「…じゃ、行こうか」
「私じゃカカシ先輩の足手まといになりますよ」
「同じ上忍でしょ。大丈夫大丈夫」

う、ぬぬう。
こういう時だけ上忍扱いする!
やっぱり苦手だ!カカシ先輩!





「おう、来たなお前ら。…ほらよ」


しぶしぶカカシ先輩と会場に来ると先に来ていたアスマ先輩からタスキを一枚渡された。

「競技は二人三脚だとよ。優勝者2人には1週間の有給休暇」

二人一組がタスキで足を結び、トラック一周を走る競技だ。見事1位になった2人に有給休暇が与えられる。

勝ったら有給休暇!!最高だっ!!
働かずに給料がもらえる1週間!!木の葉の大運動会万歳!……でも待て、●●●っ!!

「に、二人三脚…ですか!?」

「●●●、早く。足出して」

早くも足を縛ろうとしゃがみ込むカカシ先輩。…私となんて足の速さも足の長さも違うのに…こりゃ足手まとい確定だ!

「先輩!やっぱりアスマ先輩と組んだ方が間違い無いですよ」
「●●●…どんな相手とでも最高のチームプレイを見せなきゃいけない…相手と自分の力量を把握し作戦を練る。それも上忍の務めだよ」
「…………」

そうか……
これから先上忍として任務につく時…いつも同じメンバーでこなしていくわけじゃない。

これも上忍としての務めなのか!!

●●●は素直に「お願いします」と足を出した。

「●●●は素直だねぇホント」
「え?なんですか?」
「いや、なーんも」

カカシ先輩と肩を組む。背も足の長さも違う…違いすぎる!何よりカカシ先輩……近いな!!

「カカシ先輩、作戦はあるんですか?」
「んー……俺が合わせるから…●●●は全力で走って」
「ハイ」





「よぉ〜い………」パンッ


ピストルの音とともに、足を組んだ上忍達が走り出した。上忍の種目とあって会場が一気に騒がしくなる。




いい感じ!すごくいい感じ!


●●●は忍の中で特別足が速いわけではなかったが、すぐに上位に出た。カカシ先輩がしっかりと歩幅とスピードを合わせてくれているからいつも通りスイスイ走れる。


これは優勝いけるかも!!

1週間の有給休暇かあー!何しようかなあ!!



そのとき、カカシと●●●の前を走っていた二人組が勢いよく転倒した。


わっ!ぶつかる!!


ぎゅっと目を閉じた●●●の身体はふわりと浮き、転倒した2人を飛び越えた。

カカシが●●●を脇に抱え、タスキで縛っていない方の足で地面を蹴り飛んだのだ。

いきなりの浮遊にビックリし、カカシにしがみ付いたまま着地しても 走り出さない●●●の背中をカカシはポンと叩いた。

「ほら、●●●。有給休暇」
「は、ハイ!」









「おめでとう、●●●、カカシ」
「ありがとうございます、紅先輩!」

2位の紅とアスマが●●●とカカシに近寄って来た。

「●●●があんなに速かったとはな」
「私はただいつも通り走ってただけです…カカシ先輩が合わせてくれて」
「…それはそうと、お前ら今日もあの居酒屋に行くのか?」

ん…?お前“ら”…?今日“も”…?


「行くよ。…ね、●●●」
「カカシ先輩…?」

話が全く見えない。私はほぼ毎日居酒屋通いしてるけど…カカシ先輩とは行ったことないぞ。

あ、もしかして

「優勝のお祝いとしてですか?」

それならあの居酒屋は避けたい。
カカシ先輩と2人きりの場面をスケアさんに見られたくない。というか、そもそもカカシ先輩…苦手なんだけど……。

「じゃ、またね。●●●」
「えっ」

カカシは一瞬で姿を消した。

あれ?行くよって言ってたからこのまま居酒屋行くのかと思ってたら帰っちゃった…?

「●●●、早く行ってやれよ」
「?…ハイ!アスマ先輩、紅先輩、お疲れ様でした!」

今日もスケアさんに会える!
もう居るかなあ。

●●●は足早に居酒屋に向かう。


「今日スケアさんはまだ来てないよ」
「そうですか」


●●●はカウンターに座り、お酒を注文する。
しかし今日のカカシ先輩の走りは見事だった。あんなに他人に合わせて走れるもんなのだろうか。あの人には人外な何かを感じるな〜。


「やあ、●●●ちゃん」

カカシのことを考えていた●●●の背後から待ちわびたスケアの声がする。●●●の胸がドキリと跳ね上がった。

「す、スケアさん」
「どうしたの?顔が赤いよ」

●●●は急いで顔を手で覆う。
スケアはそんな●●●を見て笑いながら隣に座った。

「へえ、明日から有給休暇?」
「そうなの!一緒に走った先輩のおかげで優勝できて」
「すごいね。おめでとう」
「ありがとう」

●●●は頬を赤く染めた。ああ、スケアさんに褒められると…元気でる。

「ところで休暇中は何して過ごすの?」
「いきなりの有給休暇だからまだ何も…」
「じゃあさ、1日だけでいいから僕と外で会わない?」

スケアさんと…外?
思えばスケアさんとはこの居酒屋で会って話すだけ…外で会うことは一度も無かった。待てよ…外ってことは……

「デートしようよ」
「!」

胸が破裂しそう。
スケアさんとっ…デート!!

「あ、あの、えっ…と」
「…嫌?」
「そそそ、そんなことっ」

ドキドキする心臓に声帯が圧迫されてるのかな?声がうまく出ない。

「じゃあ、明日ね●●●ちゃん」




















あとがき

これからって時に終わった感がありますが続きはまた妄想を膨らませてからに。
リクエスト内容は『夜のバーとかでたまに出会うスケアさんの正体に気付かずに好きになって、正体に気付いてないのは夢主だけ(周りの上忍は気付いてる)』だったのですが、まずはじめに……想像と違ってたらごめんなさい!!
書いてて途中からもう楽しくなっちゃって、ナルト映画で見た運動会をカカシと夢主に走ってもらいました。(笑)夢主は憎めないお調子者設定でカカシが苦手だけどスケアが好き。そして上忍おめでとうございます。
運動会ネタ楽しかったな。また機会があれば書きたいです。シロエさまリクエストありがとうございましたっ!!


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