捕まえたつもりかい
面食いな男って、なんで、さも当然のように自分が選ぶ側だと思っとるんやろ。
「どないしたん?」
「べつに」
「べつに。って顔か、それが」
「うっさい」
「可愛い顔、台無しやで?」
旅人は小さく首を傾げて「な?」と口角を上げる。そうやってワガママ彼女をヨチヨチしてるオトナな俺、みたいな顔すんなボケ。そもそも付き合ってへんわアホ。
三回目のデート。パークスで映画見て、お茶して、店冷やかして、あれやろ?このあとイルミネーション見るんやろ?どうせアンタのことだから、なんかええ感じに口説いて、一丁上がり。くらいに考えてんのやろ。知っとるわ。
私は仏頂面でテイクアウトのアイスティーを飲み干す。ストローについた深くて濃いブラウンレッドのリップの跡はプライドの高さの象徴。
「じゃあ、なんか楽しませて」
「なら、俺と手ェ繋いでお散歩しよか?」
「そういう気分ちゃうもん」
「やる前から否定すんなや。ほら、行こ」
「強引な人、嫌」
旅人の「はぁー、なにコイツ」と言いたげな顔。痛快さに胸がすく。
「まぁ、仕方ないから行ってあげてもええけど」
旅人は顔も身長もサッカーも女の扱いも平均以上だし、なんなら成績だって上位やねんけど、そういうところが嫌やねん。
絶対、私のこと、チョロい女って思ってるでしょ。
「どう?」
散歩と称され連れてこられたんは案の定、敷地内のイルミネーション。まぁ、定番スポットだもん、外さんよなぁ。「感想は?」と旅人は私の表情を覗き込む。得意げに細めた目。その奥の深い紫色をした瞳に私をうつしながら、この男は平然と言うのだ。
「名前、綺麗、」
……そんなん少女漫画か月9でしか普通やらんやろ。寒っ。
っていうのは嘘。あー、悔しいけど、やっぱりこういうのドキッとする。いくら普段可愛げが無くっても、私の根っこの部分はロマンチックな女の人格を持っているらしい。でも、そんなの口に出したら、表情に出したら、相手の思うツボやん。
私が悔しまぎれにプイ、とわざとらしく視線を逸らすと、旅人はため息交じりに言った。
「惚れたオンナに、んな反応されたらヘコむんやけど」
「それ、今まで何人に言うたん?」
「アホ。お前が初めてやわ」
「それは流石に嘘やろ」
旅人は「せやから、んな素っ気ない反応されるとキッツいわ」と不貞腐れた表情で呟く。あはは、せやろな。私もワザとこうしてんねんもん。
「旅人、私のこと、本気だったん?」
「……本気ちゃうかったら連れてこんわ、んなトコ」
「全然信じられん、」
「信じろや、」
「……なら、もっと、カッコ悪なってよ」
眉間に皺を寄せた旅人が「はぁ?」と訝しげに聞き返す。
ちゃうのよ。ロマンチックを求めてるんちゃうのよ。
「もっと、みっともなく必死になってくれたら、好きになってあげてもええよ」
みっともなく、って……と旅人は頭を抱えた。
「あんなあ、カッコつけたい生き物やねん、男ってのは」
「ふーん、その程度の本気度なんや?」
旅人は「ほんま厄介なオンナ引っ掛けたわ」とボヤいたけれど、本当は知ってんねんで?結構、マジで、アンタが私に惚れてるってこと。
「お前、黙っとったら可愛いのに、中身アレやな」
「でも、好きなんやろ?」
「……ホンマ、可愛くないわ」
面食いな男って、なんでさも当然のように自分が選ぶ側だと思っとるんやろ。烏旅人、アンタのことやで。