― 楽しいを楽しもうね ―

 先月のバレンタインは、最後のチャンスと勇気を出して渡したのにただの食糧と判断され、そのまま木兎の胃に収まるのを眼の前で見ていた。

「っきし、っきし……っぶえっくしっ!」
「なに木兎、風邪?」
「3回くしゃみしたから誰かが俺の噂をしてる」

 赤葦から聞いたんだ、なんて自慢気に言う木兎と何故か夜の公園にいる私。

「いや、ただの花粉症でしょ……」

 昼はあったかーいなんて、散歩した私の服も花粉が大盛りトッピングされていて鼻がむずむずする。

「ねえ、何で花火なんか持ってるの?」
「去年の夏合宿のときにやろうと思って買ってたの忘れてた」

 卒業式も終わってプロ選手としてチームに合流している木兎。
 今日はオフだったらしく、家に帰って掃除してたら花火が出てきたから一緒にやろうぜって呼び出された。
 先月告白するタイミングも逸した私はズッ友でいるしかないと思っていたのに、こうやって呼び出されると期待してしまう自分がいる。
 まあ、木兎の格好が高校のジャージの時点で何も思惑なんかないんだろうけど。
 100均で小さなバケツとライターを買って、公園の広場でしゃがみ込む。

「っくしゅ……」

 3月中旬の夜はまだまだ寒い。くしゃみとともにふるりと震えた私を見た木兎は、着ていた高校のジャージを掛けてくれた。

「木兎どうしたの?」
「何が?」
「こんなん掛けてくれるなんて、やっぱり風邪引いて熱あるんじゃないの?」
「失礼だな。俺は普通のエースになり、更にオトナになったんだ」
「あ、そう……」

 春高は見ていた。最後まで楽しそうに跳んで、末っ子エースなんて呼ばれていたのが嘘みたいに頼もしかったのを覚えている。
 高校卒業して何日も経ってないのに、確かに木兎は大人びた感じがした。高校生活や春高はただの通過点で、木兎の夢はまだまだ遠い先にあるんだろうな。
 最初の一本に火をつけて、バチバチと火花を散らして燃えていく花火みたいに、私の恋心も今日で燃やし尽くして先に進もう。
 なんて、ちょっとセンチメンタルな私と反対に木兎は数本まとめて火をつけて、派手に爆ぜる花火を心底楽しんでいた。
 季節外れの花火は思っていた以上に楽しくて、木兎に釣られるように私も両手に花火を持ち始める。

「やば、楽しいっ!」
「すげえ! これ全部一気につけたらロケットみたいに飛べる気がする」
「それは怪我するから止めて」

 本当にやりかねない木兎に、チームメイトだった木葉たちの気苦労がしれるけど、無邪気に笑う笑顔に許しちゃうんだよな。

「好きだばーか」

 あの日音にならなかった心残りの言葉を、はしゃぎながら次々に消費されていく花火の音でかき消した。

「なんか言ったか?」
「なんでもなーい。あ! ねえねえ、何か文字作ってよ!」
「文字?」
「スマホアプリでね、花火でこうやって書くと……ほら! 文字になって撮れるんだよ!」
「すげー! そんなこと出来んの!?」

 これからはテレビとかで一方的に応援する立場になるから、最後の思い出とか欲しい。これぐらい思ったってバチは当たらないはず。
 スマホを見せながらやり方を教えると「やるやる!」って、いつだって新しいことに出会うと子どもみたいに目をキラキラさせる木兎は花火より輝いて見えた。

「よし、決めた!」

 なんの文字にするか決めた木兎とカメラの位置取りを確認して、私は木兎にそこから動かないでよと念を押す。私はスマホをベンチの背に乗せブレないように固定してから合図した。

「じゃあ撮るよー。さーん、にー、いーち、GO!」
「ヘイヘイヘイヘイヘイヘーイ! どうだ!?」

 長い腕は光の軌跡をしなやかに作っている。
 変な掛け声を発しながら私の前で木兎は腕を一生懸命動かしたあと、ワクワクしながら寄ってきてスマホを覗き込んだ。

「……全っ然分かんない」
「ええーーーー!? なんだコレ!?」

 写真は綺麗に撮れているけど、文字と判別できない結果にしょぼんとする木兎に笑ってしまう。

「あはは、複雑な文字でも書こうとしたの? もう一回やる?」
「大好きって書いたんだけどなー?」
「へ?」
「うまくできないもんだな」

 木兎は新しい花火に火をつけてさっきと同じように動いているからまた文字を書いているんだろうけど、とんでもないことを今言わなかった?

「さっき好きだって言われたからさ、俺も大好きって答えた!」
「木兎くん? 言ってる意味分かってる?」
「好きぐらい分かるよ!」
「ライクかな? あ、英語分かる?」
「分かるよ! ラブだろ! ラブの大好き!」

 私のバレンタインの告白フラグへし折ってチョコを食べたのに?

「あれ、もしかして俺じゃなくてそっちがライク?」
「違うよラブだよ! っ、木兎のバカぁーーー」
「何で俺急に馬鹿って言われたの!? 言いたいことはちゃんと言葉で言え! じゃないと俺分かんねえよ!」
「言う前に木兎がタイミングなくしたんでしょうが!」
「いつだ?」
「チョコ渡したとき! 腹減ってたからラッキーとか言って食べたじゃん!」
「チョコ旨かった!」
「そこじゃないよ馬鹿!」
「バカバカ言われ過ぎて俺そろそろ凹むけどいい!?」

 本気で凹まれたら機嫌戻すの大変な木兎に、これ以上は止めておこうと自制する。

「……これからも応援してるからプロリーグ頑張ってね」
「なあ、なんで会わなくなるような言い方なの?」
「なんでって……」

 こいつ何言ってんの? みたいな顔してるけどそっくりそのまま返したい。

「俺も大好きって言ったんだから両想いなんじゃないの?」

 晴れて両想いになれたようだけど、手放しで喜べない。

「だって木兎はプロ選手で私はただの大学生だよ?」
「それが何か関係あるの?」

 たまに理詰めしてくる木兎にたじろいで、紛らわすように残っている花火に火をつけた。

「関係あるでしょ。生活リズムも全然違うだろうし……」
「よく分かんねえけどさ、じゃあ俺のプロになればいいじゃん」
「……は?」
「そうしたらプロ同士で全部解決だ」

 “俺のプロ”って何? 木兎語は時々意味不明になる。
 ドヤ顔で言う木兎に、なんだか悩んでるのが馬鹿らしくなってきた。

「分かった。いや、分かってないけど木兎のプロになれるように頑張るわ」
「よし! これからも一緒に“楽しい”を楽しむぞ」
「楽しませてくれなかったらグーパンだからね」
「任せろ! だから付いてこいよ!」
「好きだよばーか!」
「ヘイヘイヘーイ! 俺は大好きだ!」

 早速言いたいことをことを言えばスパイク並みの強烈な返しが来て恥ずかしくなる。プロの道は険しそうだ。
 付いていてこいって言いながら手を出してくれる木兎に、私の手を乗せたら二人同時にくしゃみをして「楽しいな」って馬鹿笑いをする。
 楽しいを積み重ねるように私たちは残りの花火を目一杯楽しんだ。

初出:2022/03/15
光属性大好き