― 来年度もどうぞよろしく ―
猫の日!
うちの学校の三年は二月下旬にもなると自由登校だけど月曜と火曜だけは強制登校。
だらけ防止と進路の進捗確認とか諸々あるらしい。
三限目、自習。いや、もう授業とかないし基本ずっと自習だけどね。みんな各々勉強したりトランプしたり騒ぎ立てたりしなければ本当に自由に過ごしている。
私は友達から借りた漫画も読み終わってしまい、特にする事もないので前の席でいびきをかいて寝ている伊佐敷の背中をツンツンした。
「ねー」
「……」
「ねーねー」
「…………」
「いーさーしーきーくーん」
「だーーっ! 寝てんのを起こすんじゃねーよ!」
「起きた起きた」
「起きた起きたじゃねーよ! 起こされてたんだよたった今! お前に!」
起きた途端に騒がしい伊佐敷は高校三年間同じクラスで私にとっては友達以上の人。伊佐敷から見たらただの馬鹿騒ぎ友達。
そんな関係はもう崩せない。なので今日も今日とて馬鹿騒ぎをするべく鞄の中から準備してきたものを伊佐敷の目の前に出す。
「今日は猫の日なのでほい!」
「あ?」
差し出した私の手を訝しげに覗き込んで持っているものを把握すると予想通り目がつり上がってきた。
「なんだよこれ!」
「そんなにカッカしないの。ほーら、ちゅ○るだよ?」
「俺は猫じゃねーよ!」
「知ってるよ」
「なら何でち○ーるを俺に差し出した?」
「何とこのちゅ○る、犬用なんです。これにはスピッツな伊佐敷もニッコリ!」
「にっこり……しねーよ! スピッツじゃねーし、もう猫の日関係ねーじゃねーか!?」
「それな!!」
「ドヤ顔で「それな!」じゃねーんだよ!」
「えー、餌付け失敗〜」
「餌付けとか言うな!」
“にっこり”の言葉とともに笑顔になってからのノリツッコミ。寝起きなのに元気だな。
「餌付け失敗したけどさー、高校卒業してもこんな感じでずっと仲良くしてねー」
こんなやり取りもあとちょっとか、なんて思ったら言葉が勝手に出てしまった。
ただの同級生なんて卒業したら会うことなんて早々になくなっちゃうんだろうな。
伊佐敷は確か関西の大学だし尚更だよね。
マネージャーだった子と付き合ってるとか噂あったし、告白とかは怖いから精一杯の友達でいようね発言。我ながら恥ずかしい。
腕に顔を埋めて赤くなる顔を隠したら大きな手が頭の上に乗っかってきた。
「泣くなよ」
泣いてないよ馬鹿。
泣いていないけど不器用に優しく撫でる手に泣きそうになってきた。
「卒業したくない……」
「無理だろ」
「留年しようかな」
「バーカ」
「カーバ」
「「…………」」
「卒業してもこんな感じなんて俺はゴメンだ」
突然の絶交とも取れる発言に顔が引きつる。割と仲良いとか思ってたのは私だけだったのか。
本格的に泣きそう。
「お前が泣いたら一番に電話しろ。楽しいこととか辛い事があっても一番に俺に連絡寄越せよ」
「電話していいの?」
「おう」
「用がなくても?」
「……用がなくても電話し合う仲になればいいだろ」
期待させるような言葉に鼻息が荒くなりそう。っていうか、伊佐敷は既に鼻息が若干荒い。
「伊佐敷……」
「……んだよ?」
教室の隅っこでお互い顔赤くしてるけど周りはそれぞれ騒いでいるから誰も気付いていない、と思いたい。
「鼻息荒いからちゅ○る食べて落ち着「犬じゃねーよ!!」」
食い気味で今日一番の声を張った伊佐敷に教室監督の先生が私達の席まで来て生徒名簿で頭を叩かれ怒られた。
教壇に戻っていく先生の後ろ姿を見送ると伊佐敷は自分の席に向かって寝る体制に入ったので急いで背中を突付く。
「寝る。話しかけんな」
ご機嫌最悪のスピッツにちゅ○るは効かない。
話の腰を折った私が完全に悪いけど、挽回のチャンスをください。
「ねえ、今日一緒に帰れる? 話したい事ある」
伊佐敷は顔を半分こっちに向けて私を一度見ると目を逸らした。うっ、もう駄目かな……。
「放課後まで待てねーから昼休みな」
伊佐敷はそれだけ言うと今度こそ寝るモードに突入してしまった。
昼休み……。昼休みってもう三限目終わるからあと一時間ちょっとじゃん!
四限目の自習は告白の仕方を勉強しよう。
私は急いでスマホの検索サイトを開いて、伊佐敷の好きな少女マンガの告白シーンを探し始めた。
初出:2021/02/22
純さんフォーエバーラブ