― ことば遊び ―

しれっとホテルに連れて行かれるよくある話

 レノ、ルード、イリーナと私の4人で酒の席を囲んでいる。
 ツォン主任もいたけれど社長からのお呼び出しで店に入る前に帰ってしまった。
 別れ際にこれで飲めとスマートにお金を出す様子に出来た上司だ、と心の中で合唱する。
 ツォン主任が帰ってしまったことにイリーナが心底残念がっているから真面目で素敵な上司だよね、って言ったらイリーナの目が輝いた。うんうん、可愛い。

* * *

 今日はお酒が美味しい。久し振りに集まって飲んでいるのもあるけど任務が一段落して明日はオフだ。
 いつ呼び出しが来るか分からないから電話の電源は落とせないけれど着信音が鳴るまでは好きに寝てていいし何をしてても文句を言われない。
 だからどんどんお酒が進んで気付けば飲み始めてから大分時間が経っていた。

「私あんまりツォン主任と飲んだことないかも」

 今日は主任から酒の席特有の面白い話が聞けるんじゃないかとわくわくしていたのに。

「あー、主任はほとんど飲まないぞ」
「そうなの? やっぱりいつどんな任務が来るか分からないから?」
「下戸だぞ、と」
「え? ホントに?」

 ルードを見るとこく、と頷く。レノの言葉の信憑性は皆無だけどルードがそういうならそうなんだろう。ツォン主任が下戸……。潰してみたいかも……。
 なんて思っていたら横でダン、っとグラスをテーブルに叩き置く音に肩が跳ねた。

「わたじ……、一度だげじが……ツォんさんと飲んだごとないんでず」

 金髪の可愛い後輩はそう言ってえぐえぐと泣きながらテーブルに突っ伏す。

「イリーナは泣き上戸になるのね」

 やっぱりいつもより全体的に酒の進みが早いのかもしれない。こんな風になるイリーナを見るのは初めてだし私も熱くて頭の回転が鈍い。ツォン主任を潰してみたいとか思っちゃったし。

「水をくれ」

 ルードが店員にそう告げて持ってきてもらった水をイリーナに甲斐甲斐しく与えている。微笑ましいな、と頬杖つきながら見ていると横から視線を感じた。

「どうしたの?」

 その視線の送り主であるレノの表情はいつも通り。

「お前はどんな風になくんだ?」
「何? イリーナみたいになかせたいの?」
「興味あるぞ、と」
「簡単にはなかないわよ」
「その方が燃えるぞ、と」

 いつも通りの表情をしているけどレノもそこそこお酒が回っているようだ。私をなかせたいとかどんな悪趣味だと思ったけど悪ノリをしてみることにした。

「じゃあレノはどんな風になくの?」
「知りたいか?」
「興味あるぞ、と」

 さっきのレノの言葉をそのまま返してみるとレノは手元のショットグラスを煽るとしばらく黙る。

「……試してみるか?」

 これは飲み比べ若しくは喧嘩でどっちが先に降参するか、って事かな? 最近諜報任務ばっかりで体が鈍っているし……。

「体動かして汗かきたい」
「お! 乗り気だな」
「あ、でも道具はなしね」
「俺の体一つでなかせろっことか?」
「当たり前でしょ」

 あの電磁ロッドで電流流されたら絶対なく自信がある。

「おい…」

 ぽんぽんとレノと会話のキャッチボールをしているとイリーナを介抱していたルードが口を開いた。

「ルードも一緒にやる?」
「おーおー、過激だなぁ」
「どうせなら皆でやった方が良くない?」
「そういうのが好きなんて意外だぞ、と」
「……いや、俺は明日朝から任務だ」

 明日朝から任務なら今疲れさせるわけにはいかない。イリーナは、と見るともう完全に寝てる。この子は無理そうだ。

「レノは?」
「俺はお前と同じで明日オフだぞ、と」

 じゃあ、今回の勝負はレノと2人で決定かな。

「いや、待て」

 再度ルードが会話を中断させる。

「二人とも会話がおかしい」

 ……おかしい?

「どういう……」

 こと、って聞こうとした時突然イリーナが立ち上がった。目が据わってる……。
 3人でポカンとイリーナを見上げていると水を一気に飲んで袖で豪快に口を拭った。

「あした……任務早い。……ネマス」

 片言でそう言うとふらふらとした足取りで出口に向かうイリーナを慌てて追い掛けようとするとルードに制された。

「俺が行く。明日……同じ任務だ」

 そう言ってルードはイリーナを追い掛けて出口に向かうが去り際に私の肩をポン、と叩く。
頑張れよって事?

「明後日結果報告するよ!」

 私のサムズアップを無視してルードは私越しにレノを見ると「程々に」とだけ言って去っていった。
 そんな2人を見送って私達も店を出て、外の風がお酒の火照りを少しずつ冷ましていく中レノと肩を並べて歩く。

「どこがいいとか希望があれば聞くぞ、と」
「優しいねぇ」
「惚れたか?」
「まさか」

 軽い会話のやり取りが昔も今も変わらなくて心地良い。私の小さな小さな想いの灯をこの先見せることがなくても、これからもこのままの関係が続いていくといいな。

「別に場所はどこでもいいよ」
「ムードの欠片もねえな」
「何でムードが必要なのよ?」
「何でって……ヤルんだろ?」
「やるならどこでもできるでしょ。何ならそこの路地裏でもいいし」

 あ、でもタークスが暴れてるとか騒がれると面倒くさいな。

「……」

 レノは目をパチリと一度瞬きさせて手を顎に当てて何やら考え始めて、そして米神に指をやるとため息をついた。

「お前……後悔すんなよ?」

 レノはそんな一言を言うとまた呑気に口笛を吹いて歩き出す。
 さて、どんな攻撃から始めようか。私はレノの足元を見ながらそればかりを考えている。あの素早い動きを先読みしないと。
 ふとレノが足を止めたので私も倣って足を止めた。

「ここにするか」

 そう言われて顔を上げると酔った頭にはキツイ、眩しい程目に刺さるネオンカラー。ウォールマーケットかなここは? なにここ? ホテル?

「レ、レノ? ここで喧嘩するのかなー?」
「さー? ナニするんだろうなー?」

 ニヤリと笑う顔に悪寒が走り咄嗟に拳が出る。それをいとも簡単に躱され逆にがしりと肩に腕が回される。

「ぐえっ」

 私から醜い声が出ても気にも止めないレノはそのまま目の前の建物に入っていく。レノの腕がいい位置に入っているので少しでも抵抗すると締まるため引きずられるようにその建物へ連れ込まれた。
 その間私は何がどこで間違ってここへ来たのか原因を考える。
 ここへ至るには何か過程があったはずだ……。
 酔いの冷めきらない頭にキーワードが出てくる。
 ――どんな風に啼くんだ?
 ――簡単には泣かないわよ
 あれ? 体動かして汗かきたいとは言ったけど、待って。それって。
 ミスリードしてる?
 あっという間に部屋に入れられベッドへ放り投げられると起き上がる隙もなく私の上にレノが跨ってきた。

「ちょっ! レノ気付いてたでしょ!」
「さっきな。なんか噛み合わねーなー、お前阿呆だしなー、って思ってたくらいだぞ、と」
「じゃあほら! 誤解も解けたし……」
「諦めろ、と」

 レノの手が私のネクタイの下を滑り結び目のところで止まる。

「俺のカラダ一つでヨくしてやるから安心しろ」

 ネクタイを解くことなくボタンが一つ外される。

「な……んで」

 私なの? そう聞こうとしたらまた一つボタンが外されて指が直接肌に触れる。私の体温が上がっているせいなのか触れる指の温度が思ったより低くて肌が粟立つ。

「決まってんだろ」

 す、っとそのまま肌を撫で上げながら顔を目の前に寄せてくる。

「お前の啼く顔が見たいだけだぞ、と」
「イイ声で啼けよ」

 私は今盛大に後悔している。
 浅はかにも挑発に乗ってしまった事に。
 浅はかにもこの後起こる事に期待してしまった事に。

初出:2020/07/08