― 教えてツォンさん ―

 ミッドガルに戻ってきたから会うか、と一昨日メッセージが来て直ぐに飛び付いたけどそこから約束の今日になっても連絡が来ない。
 《19:00に八番外すてーしょん》なんて変換のおかしいメッセージが夕方になって届いたから行ってみれば案の定誰もいない。1時間くらい待ってやっと来たツォンはちょっとどころじゃなく疲れた様子だった。
 言葉少なに2人でツォンの部屋へ向かうけど歩幅2歩分くらい空いている距離が近寄りたいのに近寄れない心の距離に感じて寂しくなる。

 相変わらず綺麗に片付けられているツォンの部屋だけどソファに雑に脱ぎ捨てられたシャツ達を見てやっぱり忙しいよね、と安易に遊びに来てしまったことに後悔する。

「今片付ける」

 ツォンはソファの上のシャツ達を片付けるとグローブを外してローテーブルに投げ置く。あまり陽に当たらないせいか白い手の甲がするりと出てくる。相変わらず綺麗な手してるな。
 そのままの流れでジャケットを脱いでシャツ姿になると今度は隠れていたホルスターに装備されている銃が目に入った。
 その姿を見る度に命のやり取りをしている人なんだ、と実感する。私と遠い世界。
 視線に気付いたのかツォンは私の目線を辿って自分の装備している銃を見る。

「興味あるのか?」
「興味はー、なくはないかな」
「曖昧だな」
「そうだね……」

 まるで今の私達みたいだね、なんて言葉は喉の奥に押し留めた。滅多に会えることのない私達の関係はまだ恋人と言えるものなのか分からなくなる。
 やっぱり今日は帰ろう、疲れているところに面倒な女がいたら疲れが増してしまう。

「教えよう」

 帰るね、と声を掛けようするとツォンはホルスターから銃を取り出す。マガジンを抜いて床に向かってトリガーを一度引いて残弾の確認が終わるとそのまま私に銃を持たせてきた。

「重っ」

 ずし、と見た目よりも重量のあるそれを落とさないように気をつける。

「経験はあるのか?」
「は、初めて……」

 そう言うと私の後ろに回ってグリップを握るように誘導され銃の持ち方、構え方をレクチャーされる。

「手前の2つの点の間に奥の点が入るように高さを合わせる…見え辛ければ肩を顎に寄せるといい」
「見えたか?」
「……うん」
「奥の点のその先がターゲットだ」

 普段あまりしない態勢を無理やり作ってツォンの言う通りにして見えた先。これがツォンの見ている世界なのかな。少しの手の揺れも許されない感覚に緊張してきた。

「撃つときは……そうだ、指を掛けるのはこれぐらいがいい」

 私の右手の上にツォンの右手が重なる。
 トリガーに掛ける私の指の上をツォンの指が滑っていって別な緊張感が生まれた。
 白いから華奢だと思いがちなその手はやはり男性の手で、白い肌に男性特有のごつごつとした筋が手を動かす度に顔を覗かせるから私の目はそこからなかなか離れてくれなくなる。

「お前には似合わないな」
「そんな事ないよ」

 突如そう言われてまるでツォンと私の世界が切り離されたみたいで思わず虚勢を張ってしまった。

「今度、お前の手のサイズに合うのを見繕おう」

 ゆっくりと銃を下ろされ向き合う。

「傍にいてやれない事が多いからな。お守りだ」

 似合わないと言われたのは私の手に余る大きさの銃の事だったのかと勘違いが分かると途端に自分の浅はかさに恥ずかしくなった。
 ちゃんと私のこと考えてくれている。同じ世界に居てくれる。
 いつもしっかりしているのに変な変換のメッセージを見直しもせずに送ってくるぐらいだし。もうとことん自惚れてしまおう。

「じゃあ、それまではツォンの銃貸してね。いつでも撃てるように」
「……誰かを撃つのか?」
「ツォン……かな」
「俺を?」
「知らない女の人と浮気してるのを見かけたら容赦なく撃つために」

 私からは離れないよ、と意思表示をするとふ、と笑ってツォンは銃口を持ち自分の心臓のある左胸に当てた。
 弾は入っていないけどもしも、と想像するとゾッとする。

「ツォン!? 危ないよ」

 たった今撃つと言ったのに正反対の言葉を発する私にグローブを嵌めていない白い手で頬を撫でられる。

「社長とタークス。そしてお前で俺は手一杯だ」
「ちゃんと見張っているからね」
「安心しろ。お前が俺を撃つ日なんて一生来ない」

 帰り道の途中で感じた距離はもうなくなっている。
 物騒な武器はグローブの置かれているローテーブルに置いてしまおう。
 私達は今日初めて笑って……キスをした。

初出:2020/07/15