ヒーローなんていない1
name change
学校なんて嫌い。
教室なんて息が詰まる。
助けを求めても誰も手を差し伸べてくれない。
ヒーローなんてこの世にはいない。
早退したから空はまだ青く天も高い。
私は公園のベンチに座り、カバンの中から辞書を出した。
■■、■■、■■、■■、■■■、■■■■・・・
広げれば所々が黒く塗りつぶされた辞書。
友達だと思っていた子に黒のサインペンでラクガキをされたのが始まり。
それから、嫌いな言葉を黒く塗りつぶして自分の中から存在を抹消するようになった。
たくさん嫌いなものがあっても、まだ言葉は残っている。そのことに少しだけ安堵する。だからこそ、この辞書が真っ黒になったらもう希望はない。
【ヒーロー】に黒の油性ペンでラインを引く。
「あのー、おじょうさん。そこで、ぼくたちの『らいぶ』をします。よかったらきてくださいね。」
青いお兄さんが指さした方向には、舞台の野外セットが組まれていた。
「お!元気がないようだな。俺達のライブで元気を出させてやろうっ!ふははははは!!!」
赤いお兄さんによしよしと頭を撫ぜられ、キラキラ輝く目で顔を覗き込まれる。
なんかこの人たち、さっき私の中で存在を消したアレみたいじゃない?
歌でダンスで、他人を元気づけられるなら、世の中皆元気なはず。■■■■なんて絶対にいない。
私は否と言う暇もなくステージの真正面に案内された。お客さんも増えだした頃、赤と青の他にも黒、緑、黄のメンバーも若干そわそわした様子でステージ裏へと入っていった。
急に暗くなったかと思うと次の瞬間にライトが点き、パーンッという破裂音と共に煙の中から5人がステージの真ん中に現れる。
「赤い炎は正義の証、真っ赤に燃える命の太陽!流星隊レッド守沢千秋!」
子供ならまだしも高校生の私にはちょっとだけ恥ずかしい世界観で反応に困る。
あの赤い人、守沢千秋っていうのか。
全員の紹介が終わり、MCに続いてついに歌とダンスのパフォーマンス。
自分たちの曲があるなんて凄いなと感心していると、ステージ上のあの人と目が合った。
「まだまだ元気づけてやるからなっ!」
「・・・!?」
「「「いぇーい!!」」」
偶然目が合っただけか。そもそも、本当に目が合ったかどうかも疑わしい。しかし、自分に向けられた言葉のようでびっくりしてしまった。
気づけば、周りのお客さんも最初よりどんどん増えていて会場の盛り上がりも最高潮に。
楽しい。消したはずの感情なのにそう思っていた。
流星隊のパフォーマンスが終わり、一旦はけた守沢千秋がMCのためにステージ上に出てきた。
「今日のライブ、どうでしたか!?」
客席からは沢山の拍手が送られる。
「うおぉおおおおお☆ありがとうございます!!俺達は、正義の名の元に集ったユニットです!俺達のパフォーマンスで誰かを少しでも元気づけられたり、何か決断する後押しをしてあげられたり、そういうことができるアイドルになれたら正義を守ることに繋がるんじゃないかと思っています!!これからも、頑張っていくので応援してもらえたら嬉しいです!」
ライブが終わり、静かになった会場で私は先程までの余韻に浸っていた。
明日になれば、この夢の時間はリセットされる。今日までと同じ暗く長い日常が待っている。さっきまではあんなにわくわくしていた気持ちが今はまた元に戻った所か当初より沈んでいる。
「おーい!!」
「あ、どうも。」
「元気は出たか??ライブ中は楽しそうだったな!」
守沢千秋は私の横に腰をかけた。
どうしてこの人はこんなに優しいのだろう。
冷たい人間ばかりの中で、この人の優しさが温かくて、そばにいるだけで凍った心を溶かしてくれる気がする。
「名前は?」
「名字名前です。」
「名前な!いい名前だな。俺は守沢千秋!」
「守沢千秋・・・。」
「おう!フルネーム呼び捨てか!!名前!」
「守沢・・・ちあ、き・・・。」
「・・・お、おい!!名前、何故泣く!?!?」
「・・・すみません。」
ハンカチを取ろうとしてカバンに手をぶつけてしまい、そのせいでカバンが地面に落ちて中身が飛び出た。
ラクガキされたノート、財布、少し千切れた教科書、ライブ前に消した■■■■のページが偶然開いた辞書。
「私、クラスで悪口言われてのけ者にされてるんです。・・・私には、ヒーローなんていません。」
落としものを拾うのを手伝ってくれた守沢千秋も神妙な顔で辞書の黒塗りのページを見ていた。
そして顔を上げ、私の目を真っ直ぐに見た彼は真剣な口調でこう言った。
「俺がお前のヒーローになる。」
2016.02.24改
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