金木犀の花嫁3
name change
「跡部様から今後のお付き合いはお断りされたわ。」
その日、学校から帰ってくるなりお母さんはそう言った。お父さんとお母さんには申し訳ないけど、断られて安心した。
「ごめんなさい。」
パシッと頬にお母さんの手が当たった。
ジンジン痛み始める。
「ごめんなさい。」
髪の毛を引っ張られ、なお頬を叩かれる。
泣きながらお父さんを見ても、お父さんは私を責めるでもなく知らぬ顔だ。
リビングルームに私の嗚咽とお母さんの金切り声と、頬を叩く音がしばらく鳴り響いて、お父さんはテレビの音量を上げた。
「ごめんなさい。」
「アンタは本当に我が家の役立たずよ。」
「ごめんなさい。」
「ごめんなさい。」
「その顔、本当に分かっているの!?」
役立たずだと思われてもお母さんはちゃんと私をこの家に住まわせてくれてる。きっと私がいなければ少しは悲しいと思ってくれてるからだ。涙で視界が歪んだ世界で私は考える。
「ありがとう。」
「…なに。アンタ、気持ち悪い。」
そして、私はビンタから解放され自室へと向かった。スマホを見ると、クラスの子からメッセージがきていた。
今から○○にきてね☆
来ないとこの画像広めちゃうよ。
全身の血の気が引いた。
そこに写っているのは私。たぶん、この間意識を失ったときの写真だ。
制服を着たまま急いで家を出て、指定された場所へ向かった。
「来た!名前ちゃーん!今からそこに立って、来た男の人に体売ってね!もう相手には名前ちゃんのメアド教えてるから。」
指定された場所へ行くといつも私を苛める女の子が何人か居て、そのうちの1人が私にそう言った。
「そんなの、無理です!!」
逃げようとすると腕を掴まれる。
「できなきゃ、あの画像ばら撒いちゃうよー。名前ちゃんの両親泣いちゃうね。」
両親が泣く。両親にこれ以上迷惑をかけたくない。
「・・・分かりました」
しばらく、その場に立っていた。
頭を真っ白にして。
これまでのことを考えたりもした。
苛められたり冷たくされたりする人生だった。
誰からも愛されたことなんてない。愛した人もいない。
だから、自分なんて大切じゃない。
肩をトントンと後ろから叩かれた。
急に怖くなってきた。
なぜ私はこんな風になってしまったのか、涙が溢れてくる。
「ごめんなさい、やっぱり無理です。」
顔を上げると、つい先日話した彼と目が合った。
「あとべさん・・・」
***
やはり、彼女の態度が気になった。
俺は、生徒会の仕事を終えてから彼女が通っていると言っていた女子高へと足を向けた。
途中の広場で、アイツと何人かの女子高生が見えた。
「止めてくれ。」
よく待ち合わせに使われる場所で人通りが多い。
何をしているんだ?車の窓から様子を伺った。
「そんなの、無理です!!」
「できなきゃ、あの画像ばら撒いちゃうよー。」
やはり、アイツは同級生から苛められているのか。
しばらく、様子を見て車から降り、アイツの肩を叩いた。
腕が震えていて、今にも死にそうな顔だった。
「ごめんなさい、やっぱり無理です。」俺と目が合う前にそう言ったアイツは瞬きをした瞬間に溜まっていた涙が流れた。
「あとべさん・・・」
「おい、この前はよくも変な芝居を見せつけてくれたな。」
「芝居?何のことでしょう。私は本当のことを言ったまでです。「俺様のためなら何でもするってか?あんな嫌われるようなことでも言えるってことだろうな。何を隠しているんだ。」
赤く腫れた頬を伝う涙を袖で拭きながら虚勢を張る彼女に間髪を入れずにそう言い返してやった。
「何も隠してません。」
「今から何をしろと言われてるんだ。」
「あなたには関係のないことです。帰ってください。」
そこで、彼女のスマホが点滅した。
もうすぐ着きますというメッセージが入ったらしい。
「誰だ?」
「知らない人です。」
知らないヤツとの待ち合わせ、腕が震えるほど怖くて、できなければ何かの画像を晒す・・・
そこで、俺はコイツが受けている仕打ちに気づいた。
「跡部さん、そんな顔しないでください。」
俺はどんな顔をしているというのだろうか。
また彼女の冷たい手が俺の頬を優しく触った。
「まるで自分が傷ついた、みたいな顔をしています。」
「・・・やめてくださいよー。じゃあ、代わりに跡部さんが可哀想な私のことを買ってくれますかー?」
この間の下手な芝居だ。俺が来るまで泣くほど嫌がっていたんだろう?なんでそんな平気な顔をするんだ。何故か怒りと悲しみが湧いてきた。
「買う。」
頬に当てられた小さな手を取って歩きはじめる。
「え・・・ちょっと、跡部さん!!」
「そんなに驚くなら挑発なんかするなよ。」
泣いても離さねぇ。
20151203
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