井「お、それいいじゃん」
「…ん?」
井「ネックレス」
「ああ。んふふ。かわいいよね〜」

さすが井ノ原くんというべきか。新しく着けたネックレスを目敏く見つけたらしい


健「ほんとだ!うわたっかそ〜」
「ちょっとやめてよ(笑)」
健「だってすっげーキラキラ!してる!ってかそれ超有名なやつじゃん?」
井「そうなの?それ持ってたっけ?」
「ううん。最近」
健「誰にもらったんだよォ〜」
「えぇ?」
健「だってプレゼントだろ」
「んふふ」
井「うわ誤魔化した!」
健「剛〜〜〜剛〜〜〜」
井「坂本く〜〜〜ん!」
「もう二人とも静かにしてよ!」
井「じゃあ誰にもらったんだよォ〜」
健「はいはいはい。とうとうまりなにもそういう人ができちゃったわけ?」
「そんなことないよ」
井「そんなこと言っちゃって〜」
「もう井ノ原くんも健ちゃんも五月蠅い。ほら、呼ばれてるんだから早く行きなよ」


こんなことなら着けてくるんじゃないかった。と思わなくもない。過剰反応すぎる。心配してくれてるのか、それとも面白がって楽しんでるのか
坂本くんと長野くんと入れ違いに取材に入らなければならない二人をしっしと追い出す
何で落ち着いてられないのかなぁ。井ノ原くんもうじきアラフォーじゃないの?

途端に静かになった部屋で鏡をのぞきこむ
胸元にきらきら光るには、大人になった自分であってもまだ少し不似合に感じてしまう
もっと大人の女性なら似合う、はずのもの

開けた箱に驚き戸惑ってしまった私に、大丈夫、綺麗だよと言った声を思い出す



「…はやく、似合う人間になるね」
「十分だよ」
「またそうやって甘やかすんだから」
「甘やかしてるつもりはないんだけどなぁ」



甘やかされてる。その人に甘やかされて、守られて、そうして私はここまで来た
このネックレスだって。その日からまるでお守りのように、自分を奮い立たせる切り札のように縋ってしまっているのだから

甘ったれてる
でもきっとそのことに気付いているのはあの人の方、だろうけど

私、成長してるのだろうか
人として、ジャニーズとして、アイドルとして、女優として成長していても
こういうものを身に着けると、女性として全く成長できていない自分に気付く、まったく成長していない、ただのオンナノコだ


***


「あれ、准くんまだ居たの」
准「…おつかれ」
「お疲れ様〜」

個人の打ち合わせを終えて戻ると、既に誰もいないと思っていた部屋には准くんだけがいた。台本を読んでいたことは分かる。隣には参考にするためと思われる小説まで置いてある


准「まりな、遅かったね」
「あ、うん。コーナーの話とかあったから」
准「ふぅん」
「准くん何してたの?」
准「台本、読んでおこうと思って」
「家でもできるじゃん(笑)」
准「時間空いたから」
「え?この後仕事?」
准「終わりだけど」
「え?終わりなの?帰り?」
准「いや、この後用事あるから」
「ふぅん?どこ?送る?」
准「…まりなは車?」
「うん。この後ちょっとね」
准「じゃあ、お願い」
「はーい。準備するから待ってて」


私の言葉に再び台本に視線を落とす准くん
なぜここに一人で残っていたのか、見当もつかない。変なの
荷物をまとめ、自分の車に乗り込む


「どこ行けばいい?」
准「ここ。行ける?近くまででいいんだけど」


差しだされた携帯の画面をのぞきこみ場所を確認し、頷く


「じゃ行きまーす」
准「お願いしまーす」


助手席でナビを弄り、音楽選ぶ准くんを自由にさせておく
今日の撮影の話、取材の話、最近の話、会話する内容には困らない
みんなと居るときあまり会話をしてくれない准くんが、二人でいる時はぽつぽつと言葉を発してくれる


准「…髪、伸ばしてるね」
「え?」
准「髪、長くなった」
「あ?髪?ドラマの撮影があるからね。しばらく切ってないかも」
准「次のは?」
「次も、…長いままかなぁ。変?」
准「変?変ではないよ?ただ、…女の子っぽいよね」
「これでも女だからね」


信号が黄色に変わるのを視界にとらえ、ゆっくりブレーキを踏む
ぐしゃ、と手のひらが髪の間に差し込まれる


「、」


頭を包む大きな手が、ゆるゆると撫でる
その手に甘えてはいけない。ことは分かっている。でも、やめてなんて声には出せない
出せないのか、出したくないのか…その答えは気づきたくないけど

その手に導かれるように、助手席を見ればまっすぐ私を見つめる准くん


「…あぶないよ」
准「分かってる」


撫でられる感覚を、覚えていたくて
全身で准くんの手を感じる

す、と離れた手が名残惜しい
しかし、目の前の信号が青に変わる。再び前を見てアクセルを踏んだ

何事もなかったように、音楽に合わせて口ずさむ准くんの歌声を聞きながら、車を走らせる
自由だなぁ。私は、そんなに冷静ではいられない


「…准くんさぁ」
准「あ、そこ左いける?」
「あ、はいはい」


通りを外れたところを進み、停まれそうなところをみつけて駐車


「ここでいいの?」
准「いいよ。ここから行く道分かる?」
「うん大丈夫」
准「ん」
「あ、荷物忘れないようにね」
准「大丈夫……まりな」
「ん?」


伸びてきた手が、長い髪を耳にかける


「…なに?」


准くんは黙ったまま、私の手を取った


「准くん?」


車を降りる気がないらしい准くんは、私の手を強く握る
何を、する気なの


准「誰」
「…は?」
准「誰?」


何が?
何が誰?


准「ネックレス」
「…ネックレス?」
准「誰に、もらったの」


視線を合わせないまま、手を弄る准くんは、たぶん物凄く真剣に聞いてる
え、もしかして、それが聞きたかったの?今日ずっと?


准「…特別な人?」
「んふふ、ふふっ」
准「え」
「特別といえば、特別だけど…」
准「…」
「ジャニーさんだよ」
准「……は、?」
「だから。ジャニーさん」
准「ま、じかぁ〜〜〜〜〜」


よほど安心したのか、私の手をおでこにあて大きく息を吐く


「んふふ」
准「なに…」
「なんでもなぁい」


訝し気に私を見る准くんの視線を無視し、にやつきそうになる頬を止めるために口の中を噛む

ごめんね准くん
今私、かなり嬉しい

それがだめだと、そんな当たり前のことわかっているのに
准くんはその質問の意味を言わないし
私はその質問の意味を問わない

でも、分かってる
それだけで、いい


「ねえ、准くん」
准「なに…」
「たぶん、一生ないよ」


何が。なんて言わない

准くんはその意味を問わないし
私はその意味を言わない

でも、分かってる
それだけで、いい

だから、この先ずっと、このままで
准くんが、また力強く私の手を握った