「んふふ」


にこにこ笑みを浮かべながら美味しそうに料理を口に運ぶまりなに、こちらまで幸せな気持ちになる


「やっぱ長野くんに聞いて正解だったね」
准「うん、おいしいね」


正直、まりなと二人っきりってだけで五割増しなんだよなあ。長野くんには悪いけど


准「まりなはいま何してるの?」
「来週から映画のクランクイン。いまは雑誌が主かなあ〜」
准「直前によかったの?」
「うん、お祝いしたかったし」


そう言って、料理を口に運ぶまりな
普段よりも少しだけ贅沢な店に二人できた理由は、日本アカデミー賞で受賞した俺のお祝いに他ならない
泣きながらおめでとうと言ってくれたまりなに、ただ、なんで泣くのって笑うことしかできない自分が歯がゆかった
抱きしめて、涙を拭いてあげれたらいいのにと、何度思ったことだろう


「准くん?」
准「、髪切ったんだね?」
「うん、役作りで。もっと短くするよ」
准「そっか、なんか…短いの久しぶりだよね」
「あー、そうかも?似合う?」
准「かわいいよ」


好きだ、言葉にはしないけど別の言葉に込めさせて
耳を真っ赤にして、それでも何でもないことのようにありがとうと口にするまりな

ほら、君はずるい
そうやって俺の心を掴んで離さないんだから


「そういえば、この前福士くんにあったんだけどねー」


わざとらしく話題を変えてきたまりなに、行き過ぎた発言だったと咎められているような気がして素直に従う

ほんとうにずるいのは誰か
そんなこと気づいてる
ぎりぎりの言葉をかけて、その反応をみて
大丈夫、まりなの心はまだここにあるって確認して
照れた感情と泣きたい感情をまぜたような目をむけられるたび

安心してるずるい奴は俺だ


天地明察の撮影を終えたとき
大河を撮影を終えたとき
大河の放送が終わったとき
永遠の0で主演男優賞をもらうたび
そして今回、日本アカデミー賞をW受賞して

何度も何度も、口にしようとして
そしてその度に口を噤む
隠し持った贈り物は、いつまでたっても渡せるはずもなく

まだだ、まだだ
いまじゃない
もっと、もっと


「…准くん?聞いてる?」
准「…聞いてるよ」
「はい嘘〜、どうした?なんかあった?」
准「…大丈夫だから」


はやく、俺のものになって
そんなこと、今の俺にはまだ言えない