「んふふ」


思わず零れた笑みに、目の前の准くんも笑った


「やっぱ長野くんに聞いて正解だったね」
准「うん、おいしいね」


黙々と料理を口に運ぶ准くんに、お店のチョイスを間違えてなかったと確信して少しホッとする
准くんをお祝いしたかったんだもん、喜んでもらえなきゃ意味がない
仲間だから、同じ演じる者として、ずっと頑張ってきたことを知ってるから、素直に尊敬してるから
理由をわざとらしく並べて
でも結局はひとつ

好きな人が、そんな風に認められて嬉しくないわけない


「准くん?」
准「、髪切ったんだね?」


いつの間にか、手が止まっていた准くんに声をかければ、はっとしたように髪について触れる
たしかに、胸元まであった長い髪は昨日切ったばかりで肩より短い


「うん、役作りで。もっと短くするよ」
准「そっか、なんか…短いの久しぶりだよね」
「あー、そうかも?」


思い返してみれば、たしかに長い髪の役が多くて短くすることは少なかったかもしれない


「似合う?」


健くんに聞くように、冗談混じりに聞いてみれば、「かわいいよ」なんて真顔で返された

ああ、やられた
なんでそうやっていつも


「ありがとう〜」


いい歳して、かわいいよなんて言われて顔真っ赤にするなんて
ダメだと分かってるのに、反応してしまう私はほんとに緩い


「そういえば、この前福士くんにあったんだけどねー」


それ以上は、やめて
そんな想いから話題を変えれば私の話に耳を傾ける准くん
しかし次第に自分の世界に入っていったのを感じ取り、小さく息を吐く

…私といるときは、わたしのこと見てよ

なんて矛盾した自分勝手な感情が頭を過る
小さく苦笑いを浮かべたが、准くんは気付かなかったらしい


「准くん?聞いてる?」
准「…聞いてるよ」
「はい嘘〜、どうした?なんかあった?」
准「…大丈夫だから」


***


「じゃあ、おやすみ」
准「今日はありがとう」
「ううん、ちゃんとお祝いできてよかった」
准「撮影がんばってね」
「ありがとう〜」


准くんが乗ったタクシーが去るのを未練がましく見送って、自分のマンションに入った
本当は気付いてる
准くんが私を見る目は、あの時と変わらずまっすぐで熱っぽくて
准くんはずるい
そんな風に見られているとわかっていても、私はそれに気付かないふりをするしかないのに
それをわかってて、気付かないふりをさせようとする

時折感じる視線は、仲間以上のもので
決して口にしないのに、その目ははっきりと私に告げてくる
それにおびえて、私は視線を逸らす

でも、わかってるの
いつか准くんがそんな目で私を見なくなったとき、私はきっと一人で勝手に傷ついて勝手に振られた気持ちになるんだ
本当にずるいのは私のほうだ
准くんを傷つけて、その思いから逃げてるのは私なのに

でも、もう少しだけ、もう少しだけその目に縋らせて、なんて

私はなんて弱い人間なんだろう

暗い部屋に足を踏み入れて、どうしようもなく泣きたくなった