果樹園のお手伝いへ


「おはよ、名前」
「駆おはよ〜」
「今日は君にしては珍しくいつもより早いんだね?」
「まあね。早起きしたからそのまま早め行動してみました」
「そっか。そのわりには寝癖、そのままになってる」
「へ?!」
苦笑して見せた駆が寝癖のところを整えるように触る。なんだか少しくすぐったい。
「ほんと名前は」
この後に来る言葉はいつも決まってるので慣れている。それを見越して駆を睨んでも、なに食わぬ顔で駆は見てくるだけだった。
「今日はね、兄ちゃんの誕生日だからパーティーするんだ!」
「すごい!いーな!」
と横を走りながら通っていく小学生を横目に、先程のイラつきの癒しにしようと思っていると、駆もそんな小学生たちをかわいく思っているのか黙って見ていた。でも、癒しとかそういう風に見てるって感じはしなくて。ちょっと、寂しそうに見えた。

「………」
「ちょっと名前聞いてる?」
「そうだ!誕生日会をしよう!」
照りつける体様の光が差す中庭。そんな中の木陰にあるベンチに座ってお弁当を食べる私たち。口にいれた箸の先を出して突如そう言い出した私に、目の前にいた深琴が眉間に皺を寄せたのが見えた。
「言っとくけど、」
“駆は皆に祝ってもらいたいとは思ってないわよ”
そうなのかな。誕生日を祝ってもらえて嬉しくないはずがないと思うのに。それに駆はご両親が亡くしていて皆に祝われるという経験をきっと心待ちにしていると思う。本人はそんなこと言わないだろうけど、今朝の子供たちのやり取りはきっとまだ記憶にあるご両親との思い出して寂しくなったんだと思うんだけど。
「お誕生日会、ですか?」
「うん。いいと思ったんだけど深琴に反対されちゃって」
「そう、なんですか…」
ぱあっと花が咲きだしそうなくらいかわいい笑顔を浮かべたのに、それはすぐにしゅんと消えてしまうこはるは本当に素直だと思う。
「お誕生日会が出来ないのはとても残念ですが、確かに当日にすべて準備するのはとても大変そうです…」
「そうそう、当日に…?違うよこはる。ちゃんと料理とかケーキとかは前もって予約するし、プレゼントだって買っておいて…」
「え?ですが、駆くんのお誕生日って今日ですよね?」
「………え?」
「えっと……はい、7月25日が駆くんのお誕生日とメモしてあります。私もお昼に駆くんにお祝いしてきたので間違いありません」
「え、私勘違いしてた?30日だと…」
さあっと、身体から血の気が引いていくのを感じる。
もう放課後。それもこはると駅前のアイス屋に寄り道してるとはいえ下校済み。おまけに駆には誕生日のたの字も祝ってない。
唯一の救いといえば、こはるが駆をお祝いしてることか…。駆、好きなこはるからお祝いされて嬉しかったよね…。でもでも、一応友人としてお祝いすらないってどうなの私…。
「あの、名前ちゃん。」
「勘違いしてました…」
「駆くん、今日は近所の果樹園に行くとおっしゃってました!ですから、今から行けばまだご自宅にいらっしゃるかと…!」
「え?でも…」
「駆くん、待ってると思います!」
ぎゅと握りこぶしを作ったこはるにそう言われて、私の足は向きを変える。せめて一言、伝えるために。よく弄られたって、勉強を教えてもらったりとか、よく助けてもらってるのは確か。
「名前?」
「か、駆……」
「どうしたのそんなに急いで」
「た、んじょうび!」
「………」
「おめでとう!」
止まることなく走ってどのくらい経ったんだろう。
駆の家の前について息を整えていると調度よく駆が出て来て、目を丸くした。
「ずっと、待ってたんだ」
ぎゅっと握られた手はどことなく熱くて。
「君にだけは、言ってほしいって。ずっと…」




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