どきどきの過剰摂取

 ずっと気になっていた人と、思い切ってメアドを交換した。蘭という男の人。
 悩みに悩んで挨拶を送り、いつ返信が来るかとセンター問い合わせを連打する日々。返事が来たのは一週間後。本文でたった一言「よろしく」だけだった。
 それが私は嬉しくて、どうにか話を続けたくて、彼が好きそうな話題を振っては返信を待つ、の繰り返しをしていた。
 ある日、深夜2時に来た返信で跳ね起きた。蘭のメールが来た時にだけ流れる着メロと、受信メール1件の文字に心が躍る。嬉しさでドキドキしながら開いたら、その本文には「もうメール送ってくんな」とだけ書かれていた。全身がすっと冷えていった。
 薄々察していた。多分蘭は私が鬱陶しいんだな、と。
 メールを送っても返事が来るのは稀だったし、居そうな場所に会いに行っても取り巻きに追い返されることがほとんどだったから。
 たまにもらえていた返信は全部保護していたけど、それも全部解除して削除しちゃおう。
 いつまでも未練がましくすがっていてはいけない。涙まみれの携帯を操作して、メールをまとめて消した。
 さよなら、迷惑かけてごめんなさい。ずっと好きでした。そう呟いて、最後に彼のアドレスを消した。ついでに受信拒否設定もかけた。
 私からメール送るのをやめたから、もう送られて来ないと思う。でも、万が一メールが来てしまったら、一喜一憂する日々がまた始まってしまう。流石にそれは、もうしんどかった。
 とにかく忘れるためにほかのことに打ち込もうと決めた。久しぶりに図書館でも行こう。

 それから一週間、仕事終わりに図書館へ通う生活をするうち、本好きの友達ができた。真面目で優しそうな男の人。気づけば図書館以外のところでもよく会うようになって、ついついいろんな話を彼にしてしまっていた。
「でね、好きな人から結局メールで拒否られちゃってさ」
「……ひどいなそいつ」
「私もよくなかったよ。好かれてもいないのに、メール送る時点で好感度下がってたんだろうし」
「俺なら『もうメール送ってくんな』なんて冷たい言葉、ナマエちゃんには送らないけどな」
 ……あれ。なんでそれを知ってるんだ? 私そこまで喋った覚えないんだけど。
「へー。やっぱりオマエかぁ」
 並んで歩いていた私達の後ろから、低く感情のない声が聞こえる。私が振り返る前に、男友達が殴られて地面に倒れた。
 振り返ると、そこには灰谷兄弟が並んで立っている。
「蘭……と、竜胆?」
「よお。久しぶり。なんでメール拒否ってんの?」
「……だ、だって、もうメール送ってほしくなさそうだったし」
「そんなことねェけど?」
 なんだと!? 一週間近く返信を放置して、その返信ですら一行で終わらせてたのに?
 私とのやりとりが、嫌じゃなかったって!?
「オマエのメール楽しみにしてたのにさ」
「……にしては、かなり素っ気なかったけど」
「気になるヤツからのメールなんて何返したらいいか悩むだろ」
 ……うん? 今なんて?
「そしたら急にメール来ねえし。オレ何かやらかしたかって焦ったんだぜ? で、コレ見つけた」
 蘭は自分の携帯画面を見せる。送信済みのメール画面だ。深夜2時に送られてきた「もうメール送ってくんな」とだけ書かれたあのメール。
「オレさ、この時間帯寝てたワケよ」
「……証明できる人は」
「竜胆」
「オレ? えーっと……兄貴はその日10時過ぎには寝てた、確かに。間違いねぇ。オレやオレの部下が騒いでても起きなかったし。あとそん時、そいつがこっそり兄貴の部屋に入ってったのも見た」
 竜胆が倒れた男友達を指差す。まさか蘭達の知り合いだったとは。
「ま、そーいうことだ。おおかたオマエ狙ってて、オレから遠ざけようとしたんだろ」
 そうだろ? と蘭は倒れた男友達の脇腹を蹴飛ばす。
「それだけじゃねえよな」
 と竜胆がさらに続けた。
「兄貴に会わせないために、わざとオマエがナマエ追い返したって話、他のヤツから言質取れてんだわ」
「素直に認めんならコレで止めてやるけど?」
 喋っている間も、二人は蹴りやらなんやらを止めようとしない。止めに入るべきかと思ったが、男友達が「……認めます」と弱々しい声でつぶやいたところで、一旦蹴りは止まった。
「じゃ、金輪際ナマエに近づくなよ?」
「破ったらどーなるか分かってるよな」
 カリスマ二人に睨まれ、よろけながらもその場から男友達は逃げ去っていく。後には私と、蘭と竜胆だけ。
 気まずくなって私も後ずさって逃げようとしたら、容赦なく腕を掴まれて引き寄せられた。
「オマエは逃げんなよ。これからオレとたっぷりお話しなきゃだもんなぁ♡」
「あの、近い……」
「いーじゃねェか。オレのこと好きだろ?」
「それはそうだけど」
 否定しなかったことで、さらに掴む力が強まる。どうやらこの男は簡単に離してくれそうにない。

※蘭は「好きだろ?」に対してナマエが照れ隠しで「好きじゃない」と言うのを予想していたので、想定外の事態にテンパっている。辛うじて顔には出さない。


タイトルはicca様よりお借りしました。



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