Save You

 人生で最大のピンチを迎えている。なんと私が人質になってしまったからだ。一人で歩いていたらあれよあれよと囲まれて、刃物を突き付けられて「大人しくしてろ」と。
 寂れた廃ビルの一角で、逃げないように拘束され、見張られ、逃げ出す隙がない。どのみち、結束バンドで手足を椅子に括り付けられてるから動けないけど。
 私をここへ連れてきた男たちから「カタキ討ち」とか「やっと灰谷兄弟に復讐ができる」とか聞こえてくる……ということは、蘭と竜胆をおびき寄せるためのエサとして、私を連れ去ったのかな。そうだとしたら、残念ながら多分彼らは来ないと思う。
 向こうは忙しい。私如きに構ってる暇なんてない、とぼんやり考えていたら、何かが吹き飛ぶ音が聞こえた。
 その場にいた全員が入り口へ視線を向ける。
 見張りと思しき一人が、派手に転がる様子が見えた。一発殴られてノックアウトされたらしい。誰に? と思ったが、その答えはすぐに分かった。ぬるりと竜胆が現れたからだ。機嫌が悪い時とも、楽しそうな時とも違う、冷たい顔をしている。
 男たちが何かギャンギャン騒いでも、竜胆は眉ひとつ動かさない。そのままズカズカ歩いてくる。
 聞き取れない巻き舌でリーダー格の男が喚き、竜胆に向かって襲いかかった。後に続けと言わんばかりに、子分たちも駆け出す。5対1かあ。ナイフを持ってるやつもいたけど、竜胆なら余裕で避けるだろうな。

 ものの数分で室内は静かになった。全員竜胆に殴られて気を失ったからだ。
 私は拘束を解いてもらい、ようやく立ち上がれるようになった。
「帰んぞ」
「う、うん。助けに来てくれてありがとう……」
「ケガは」
手足を動かす。擦り傷はあるけど、歩けないほどの負傷はしていない。
「一人で帰るなって兄貴にも言われてんだろ」
「こんなこと本当に起こると思ってなくてさ。それに……」
「それに?」
「私に何かあっても二人ともスルー決め込むと思ってた」
 心配そうだった竜胆の顔が、そこで初めて険しくなった。そんな怒る要素あった?
「あのなあ。オレらがそんなに薄情なヤツに見えるワケ?」
「そう思うよ。現に蘭はここにいないし」
「兄貴はほら『狂極の残党だろ? 竜胆一人で何とかできんじゃね』でまた寝ちまったからな」
 ほらとっとと行くぞ、と竜胆は私の手を引く。やけに熱いその手を握り返すと、一瞬彼の肩が震えたような気がした。
 結構頬が赤かったけど、相当息が上がってるんだろうか。5人同時に相手取るくらいなら日常茶飯事だろうに。

※ナマエが人質に取られたことを、蘭は知らない。竜胆がいてもたってもいられず一人で突っ走ってるだけ。
あわよくばこれで好感度を上げようとしていたが、見事に空振りしている。


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