傷は愛で癒すもの
青葉城西高校の体育祭は、毎年かなりのギャラリーでにぎわっている。
毎年一ヶ月くらい前には桟敷が組まれ、学年をまたいで連合を作り、当日そこで生徒たちが全身全霊をかけた応援をする。入学した当初はそのことを知らなかったから、ものすごく驚いた。
さほど運動が得意じゃない私は、できればサボりたかった。受験も近いし。でもみな平等にというモットーの下、クラスの投票で選ばれてしまったのだ。
借り人競争の選手として。
どんよりした気持ちでスタートラインに立つ。バレー部のマネージャーやってんのに運動神経0とかウケる、という言葉は3年間で耳にタコができるほど聞いた。せめてビリにはなりたくない、と思いながらピストルの合図で走り出し、置いてある紙を一枚ひっつかむ。
書かれていた文字を読み、あたりを見回す。条件に合いそうな人を見つけて、私は一目散に駆け出した。
「岩泉くん! ごめん、ちょっと来て!」
状況を説明している時間すら惜しい。私は言葉より先に、彼の腕をガシッと掴んだ。
急に腕を引かれて驚いてたみたいだけど、そこはさすがの運動神経と判断力だ。岩泉くんはすぐに私のペースに合わせて、嫌な顔ひとつせず走り出してくれた。
その結果、何とか最下位は免れた…といっても4位だけど。
ゴールラインを超えて、大きく息を吸い込む。
「……ちなみにさ」
「うん?」
私の息が整うのを待って、岩泉くんは問いかけてきた。借り人競争のお題は何だったのか、と。
「それ俺も興味あるなー」
目の笑ってない笑顔を貼り付けた及川くんが、私たち二人の間に割って入る。
「うわ」
出た、と言うような感情が乗っかった言葉が、二人同時に出てきた。
「ナマエちゃんは借り人競争でどーんなお題を引いたのさ。どんな内容でも岩ちゃんより及川さんの方が適してると思うんだけどなー」
私と岩泉くんは顔を見合わせる。なんかめっちゃ拗ねてるね、と目で伝えると、
「要はバレー部のマネージャーが主将選ばなかったから拗ねてるってことだろ」
「岩ちゃん正解! もうちょいオブラートに包もうか!」
「……うーん。私が取ったお題は『頼りになる異性』だったんだけどね」
「ちょっと!! 尚更俺の方が適してんじゃん!!」
「でもあの時及川くん女の子に囲まれてたでしょ。あれをかき分けていくのはめんどくさいなって」
「ゔっ」
「自覚はあったんだな」
「だから近くにいた岩泉くんを連れてったの。これで納得する?」
「……だとしても俺を諦めるの早くない!? 何が何でも選びたい『頼りになる異性』じゃなかったってことじゃん!!」
納得してくれたかと思いきや、更に厄介な拗ね方をし始めた。
「でもね、及川くんが女の子に囲まれてなかったら私はまっすぐあなたにお願いしてたよ」
「ふーん。なんとでも言えるよね」
ちょっとやそっとのことでは納得してくれなさそうだ。よし、そんな彼を崩せるか試してみよう。
「じゃあこの際だから言わせてもらうね。及川くん頼りになるしかっこいいしいつも誰にでも分け隔てなく接してるし試合の時は誰よりも真剣だし周りのこと一番よく見てチームのみんなを気遣ってるし」
「え、ちょ」
「だからいつも尊敬してるんだよねでもあそこで空気読まずに私が突っ込んでったらファンの女の子達に申し訳ないし及川くんの評判を下げたくなかったから」
「わーーーーーわかった! わかった!! もうやめて!!」
矢継ぎ早にまくしたてると、及川くんはでかい声で私の言葉を遮り、その場にうずくまる。褒められ慣れてるはずなのに、どうして真っ赤になってるんだろう。
「……お前、ほんとそういうとこ容赦ねぇな」
岩泉くんが笑いをこらえながらそうつぶやいた。
私は最後まで、岩泉くんが真っ赤になる理由が理解できずじまいだった。まあでも静かになったからいいかな!