「ハイ来た〜〜、私ら帰っていい?」
「待ってください、迂闊に出るのは危険です」
「なにゆえ」

赤司くんが言うには、こんな空間に大勢を閉じ込めておいてすんなり脱出させてくれるわけねーだろハゲ、ということらしい。どちらにせよ探索するに越したことはなくないかと提案すれば、それを今から考えるのだとあしらわれた。

「何人かのグループに分かれ1グループずつ30分間の探索に行ってもらいます。体育館に設置された時計の時刻が正しいかどうかは置いておき、30分後の時間が何時かを計算しておけば大丈夫な筈です」
「んじゃ各グループに霧崎1人入れてね〜もち私も含めて。ハイ決定。あとはシクヨロ赤司くん」
「何勝手なこと言ってんスか!俺霧崎と一緒のグループなんか嫌っス!」
「も〜ここにいる奴初対面のくせにすぐ話しかけてくるじゃん〜怖すぎるよ〜。つーか嫌なら留守番しててくんない?」
「はあ!?」
「...即決した理由を教えて頂ければその条件を呑みましょう」

先輩に条件付きとか舐めてんな1年なんて先輩面するわけでもなく、私は簡単に理由を述べた。

「そりゃ仕入れた情報が一つ残らず霧崎に入るようにするためだよ」
「それは、僕達を信用してないと?」
「むしろこのメンバーで信頼出来る人いるの..?」
「厳しいなぁ、でもワシらからすれば自分らも充分信用出来へんで?」
「霧崎がバラければ確実に監視付けれますね、一石二鳥〜ヒュ〜〜」

何だこいつみたいな視線が四方八方から突き刺さる。こっちは端から君たちと協力してでるつもりなんかないんだよって遠回しにアピールしたつもりなんだけど、ただ不思議ちゃん認定されただけだったかもしれない。やっちまった。

「理由教えたし条件飲んでくれるよね赤司くん」
「はぁ..分かりました」

満足のいく返事を得ることが出来たのでその辺で黄昏ようと離れる際、すれ違った花宮くんに良くやったと呟かれた。うちの主将に褒められた時の満足感やべえ。
各高校の主将達がグループ決めを行っているのを横目に人気の少ない隅っこに座り込む。こういう時は考える時間が必要だと思うんですよってね。

「(こんだけ目立った共通点を持つ人間が集められたってことは主犯は私たちの存在を知っていて尚且つ知り合いである可能性が高いよね複数犯か単独犯かはまだ検討付かないけど学校ひとつ貸し切ってる状況を仮定すると相当な権力を持っている人間というのは容易に想像つくからこれだけで相当思い当たる人物は絞られるなあそれとこの中に犯人が紛れ込んでる可能性だって忘れちゃいけないから常に他校の人間には注意払っといて気づいたことがあればすぐ霧崎メンに報告する情報さえ集まれば私らでなんとか出来るっしょああそれから)」
「あの!」
「うお、」

脳内に散らばったたくさんのメモ用紙を綺麗に並べていたのに、それを見ず知らずの人間が吹き飛ばしてぐちゃぐちゃにしてきた。今の私の状況をわかりやすく例えるとそんな感じ。誰だよ殺すぞ〜とか思いながら顔を上げると、そこには桃色の髪の毛を靡かせた所謂美人さんが屈んでこちらを覗き込んでいた。背後には茶髪のショートカットガールも居て、明らかにこちらを警戒している。いや近づいてくんなし。

「なんスか」
「なまえちゃん、だよね?女の子1人で座り込んでたから気になって..」
「ハ?いやこっちは物事の整理してただけなんだが...帰ってどうぞ〜」
「な、あんたねぇ!桃井さんが勇気持って霧崎に話し掛けてるのに、」
「そんな態度はないだろうって?」

なんか急に出しゃばってきた茶髪ガールと私を遮るかのように原くんが割り込んできた。いつの間に食べたのかフーセンガムを膨らましながらゆらりと茶髪ガールに近付く。

「なまえちゃんは1人で考える時間が欲しかったから態々隅っこに座ったんだけど。勝手に世話焼いといて勝手にキレるとかキモいんですけど」
「なん、なのよあんたたち...こんな状況でチームワーク乱すようなことしないで!」
「して欲しくないなら霧崎に構わず消えてくんねえかな〜」
「..もういいです、相田さん。私が間違ってました」

桃色さんは軽蔑しきった視線をちらりとこちらに寄越した後、相田サン?の腕を引いて離れていった。邪魔者が消えて万々歳だけど、ぐちゃぐちゃになったメモ用紙をもう一度並び直すほどの気力はもう残っていない。若干気持ちが萎えてしまった。原くんが入ってこなかったら死ねくらいは言ってたかも。

「原くん分かってるわ〜超好き」
「ン?俺もなまえチャン好きよ〜帰ったらヤろうか」
「ヤんね〜わハゲ」