11.我がクラスのいんちょーちゃん
一学年の冬。告白ラッシュに追われて逃げていた時に駆け込んだ図書室で出会った影山志歩ちゃん。
一見、物静かで真面目そうで、メガネが良く似合う女の子。読書が大好きで、暇あらば読書をしているような子だ。
そんな彼女は俺の周りにたくさんいるファンの子達とは全然違って、俺が笑いかけても、カッコイイ所を見せてもちっともトキめかない!
乙女心をどこに置いてきちゃったの!?って心配になるくらい、そういった反応が薄い彼女だが、やっぱり少し変わっているから面白い。
「いんちょーちゃん。次の家庭科の調理実習の班分けなんだけど、」
「及川は他の班に誘われてるだろ。そっち行ってこいよ」
「こっちは俺達だけで十分だ」
「何で俺だけ除け者にしようとするかなそこの二人は!?」
真面目な性格とメガネが似合うという事から、委員長っぽいというイメージをもたれ皆から【いんちょー】と呼ばれる事が多いみたい。
俺もそれを真似して呼んでるんだけど、岩ちゃんみたいに名字呼びとかの方が逆に少ないんだよね。いんちょーちゃん的にはどっちでもいいみたい。
それはさておき。
現在、家庭科の授業中なワケなんだけど。この時間で次回の家庭科で行われる調理実習の班分けを行い、尚且つ調理する料理を決めなきゃいけない。
まあ、この及川さんは女の子から大人気なワケで「一緒にやろうと」と結構誘われちゃってるんだけど、折角なら仲良くなったいんちょーちゃん達とやりたいんだよね。
「なのでマッキー。俺の代わりに向こうの班に行ってあげて!」
「俺、いんちょーと約束してんだ。味見係担当するってな」
「なにそれ!?」
「俺も試食係任されてるから無理」
「ちょ、二人共作る気ないの!?全部いんちょーちゃんにやらせる気!?」
「及川君。味見係(または試食係)がどれだけ大事な役目か分からないんですか?これは2人にかせた使命です」
「そうだそうだー」
「俺達が味見することで、いんちょーの味付けが左右される。非常に難しい使命だ」
「なんかカッコイイ感じに言ってるけど、ただ単に2人が料理出来ないだけだよね?」
「そういうお前は出来るのかよ」
「そ、それは…」
言い淀んでる俺を見て岩ちゃんとマッキーはニヤニヤ笑いながら返事を待ってる。
性格悪いよ!と言ったら「お前にだけは言われたくない」と声をそろえて言われた。なにこれ酷くない?
「影山さんの所、4人なの?こっちにも人数が半端なグループあるから、こっちと合わせて2つのグループに分かれてくれないかしら」
そこへ家庭科の先生が教卓前に集まってる八人のグループを示して俺達に声をかけてきた。
6人で一班になるようにしたいみたいだから、あっちのグループと集まって相談し直さないといけない感じだ。
「あの、この中で料理経験ある人はどれくらいいますか?」
いんちょーちゃんが代表でそんな質問をする。12人中、手を挙げたのはいんちょーちゃん合わせてたったの4人。しかも4人とも女の子。
この時、彼女達は集合もかけずに4人だけで輪になって話し合い、あっという間に「班分け決まった」と言った。
俺達がきょとんとしてる間にA班とB班に分けたメンバーを発表して行く彼女達。
料理経験者は2人ずつ分かれたのは正しいと思う。ただ、たださぁ。
「何で岩ちゃんとマッキーだけ、いんちょーちゃんと同じ班なの!?」
「及川君は器用な人と認識しているので、バランス的にこう分かれた方がいいと判断しました」
「き、器用?俺が?」
「はい。何事もそつなくこなしていますし、頼りになる存在だと思いまして」
いんちょーちゃんが、俺を、褒めてる…!
しかも頼りにしてるって言ってる。あの時々笑顔で圧力をかけてくるいんちょーちゃんが!
「いいよ。そこまで言われちゃ断るのも悪いもんね。岩ちゃんとマッキーは、精々いんちょーちゃんの足を引っ張らないよう頑張りたまえ」
「何言ってんだあいつ」
「いんちょーの一言でアレだ。手綱はこっちにあるぞ」
マッキーがコソコソと何か言ってた気がするけど気にしない。いんちょーちゃんが誰かを褒めるのって本当にそう思ったからなんだし、素直に受け取るに限る。
いんちょーちゃんと別々になっちゃったけど、こっちはこっちで何とかなるでしょ。だって俺、器用だし。
―――ただし、料理が出来るとは言ってない。
「………はぁぁぁ」
意気込んだ結果は男として情けないものだ。俺含めて男子は4人同じ班に居たけど、まさか包丁も握った事がない奴がいたとは…。
「任せろ!」なんて自信あり気に言うから任せたのに、切り方は形も大きさもバラバラで、炒めたら真っ黒。そして二人の女子からの冷たい視線。
いくら俺が器用であったとしてもフォローしきれない。それに俺自身も何かに貢献したかと聞かれれば……正直、あまり出来てない。せいぜい皮むきとか、そんなもん。
そんな俺のグループの隣では、いんちょーちゃんが筆頭に立ち、あのバレー以外不器用な岩ちゃん達に丁寧に教えて成功させてるんだからスゴイもんだよ。
あの岩ちゃんが野菜の皮剥いて、形は歪だったけど厚みはなるべく揃えて切ってたし、焦がさずに肉を焼いたんだよ、あの岩ちゃんが!!!
マッキーもほとんど料理やったことないのに、俺よりそつなくこなしてる感じだったし!それで、いんちょーちゃんに褒められてたし!
「そう落ち込むなよ及川。失敗しちまったもんは仕方ないって」
「……」
「そのお陰でこうしていんちょーの料理食べれる事になったんだから、結果として良かったろ」
結局俺達の班は食べれると言える料理が出来なかったため、急遽他の班の料理を分けてもらう事になった。
クソカッコ悪いって言うのに、失敗した奴等は「ラッキー」とか喜んでるから腹立つ。男としてのプライドとかないワケ?
「…まあ、」
マッキーの言う事も事実。いんちょーちゃんのグループはチーズハンバーグを作ってて、見てるだけでもすごく美味しそうだった。
調理中もそっちから漂ういい匂いに惹かれて、ついつい自分の班のこと放置しちゃってた時もあったし。
「けど、いんちょーちゃん。ホントに全部貰っちゃっていいの?」
いんちょーちゃんは今日が調理実習だと忘れてて、いつも通りお弁当を持って来てしまったらしい。
今これを食べればお弁当が食べられなくなってしまうからと、折角出来上がったハンバーグをまるまる俺にくれたのだ。…さすがにちょっと悪い気がする。
「普段使わない気ぃ遣ってんじゃねーぞ及川」
「普段から遣ってますけど!?」
「このハンバーグも、野菜の組み合わせとかも全部影山が栄養バランスを考えて選んでくれたんだ」
「…!」
「折角貰ったんなら、責任もってきっちり完食しろよ。残したらぶっ飛ばす」
「岩ちゃん…」
岩ちゃんだって普段ロクに気を遣わないクセに、こんな時にだけ遣うんだもんね。ホントやめてほしいよ。
なんて口には出してないはずなのに速攻で岩ちゃんの鋭い鉄拳が頭に炸裂した。ホント痛いからやめてくんない!?
「栄養バランスには自信ありますが、及川君のお口に合うかは保証しかねますけどね」
「満面の笑顔で言うセリフかなそれ!?」
場の雰囲気を読むことが上手いいんちょーちゃん。
他人の事なのに結構敏感に気がつくいんちょーちゃん。
人が良いとは、彼女の様な人の事を言うんだろうね。
「大丈夫だよ。いんちょーちゃんが料理上手なのは、もう知ってるから」
この前分けてくれたおかずも美味しかった。
図書室で料理の本を何冊か読んでるところを見たこともあるし、何より毎朝あの飛雄ちゃんにお弁当作ってるって言うしね。美味しいに決まってる。
「いただきまーす!」
失敗してしまったのは、もう過去。いつまでも引きずってたって仕方がない。
いんちょーちゃんが穏やかにしてくれた空気に便乗し、俺はホカホカのハンバーグを一口サイズに切って頬張った。
「ハンバーグ定食、700円になります」
「お金取るの!?」
そんないんちょーちゃん、もとい志歩ちゃんは、時々イジワルにもなる超優等生である。