番外3.俺が胸キュンしてます
「なあ、いんちょーってラーメン好き?」
「はい、好きですよ」
「んじゃあさ、今日の帰り一緒に食べにいかね?」
唐突にマッキーが志歩ちゃんをラーメンデートに誘った…だとおおおお!?
「お、俺を目の前にしてよくそんな事が出来るねマッキー!」
「は?」
「志歩ちゃんと二人きりになる為には主将である俺の許可が必要だからね!」
「おー、そうかそうか。んで、岩泉と松川はどうする?」
「最近行ってなかったしな」
「行こう。及川抜きで」
「ちょっと!?」
可哀想な扱いを受ける俺を見て志歩ちゃんは楽しそうに笑う。たまに意地悪になる志歩ちゃんは、こういう時救いの手を出してくれる事もちゃんとあるんだ。
「二人きりじゃないので、及川君もご一緒しませんか?」
「俺は二人きりでも勿論OKだけどね!」
「はいはい」
テキトーに受け流すマッキーの言いだしによって、今日の放課後に皆でラーメンを食べて帰る事になった。
部活でヘトヘトだけど、志歩ちゃんと一緒に外食するのは初めてだし、それが何だか嬉しい。
予め家に連絡をいれてくれた志歩ちゃんを帰りは責任もってこの及川さんが送り届けるから心配しないでって伝えたら、電話の相手は面倒な事に飛雄だった。
勿論言い合いになったけど、そこは岩ちゃんが俺に代わってしっかり解決してくれたからノープロだ。
「いらっしゃい!」
珍道中という俺達が行きつけの中華屋さん。餃子もラーメンと美味しいここは、学生の懐にも優しい値段で提供してくれてるから結構人気なんだよね。
既に知った仲になってる店主のおじさんは俺達を見るなり空いてる席に座るよう促してくれたけど、志歩ちゃんを見つけると驚いた顔をした。
「おお?女の子を一緒に連れて来るなんて珍しいじゃねーか。誰のだ?」
「勿論俺の…」
「俺達のマネージャーッスよ」
「最近入ってくれたんですけど、すげえ手際が良くて大助かり」
「そいつぁイイ子を見つけたな!お譲ちゃん、今日はサービスするから好きなの食っていきな!」
「えっ。…良いんですか?」
「勿論だ!ついでにお前達にもギョーザ付けてやっから、残さず食ってけよ!」
「ありがとうございます!!」
まさか志歩ちゃんの登場でおじさんがあんなにもサービス精神出してくれるとは思わなかったなぁ。
けど、部活後で空腹の俺達にとってその厚意はありがたすぎる。「ナイスいんちょー」とマッキーが彼女に笑いかける。
志歩ちゃんも親指を立てて「やりましたね」と楽しそうだから、こういのもたまにはアリだね。
「5人だから奥の広めの所にしようか」
「そうだな」
慣れたもんで俺達は二人ずつ分かれて座り、まだ立っている志歩ちゃんを揃って見上げた。
「いんちょー、好きな方に座れよ」
代表でマッキーが促した席と言うのが俺か岩ちゃんの隣。
因みに俺の隣がマッキーで、岩ちゃんの隣がまっつん。
志歩ちゃんは悩む素振りを一瞬見せた後、岩ちゃんの隣へと腰を下ろした。
「ドンマイ」
「ドンマイ及川」
「何で憐れんでくるかなマッキーとまっつんは!?」
まあ確かに、岩ちゃんに負けた感じがしてちょっと悔しいけど別にいいし。だって教室では隣の席だから何も問題ないもんね。
「で、何にする?」
「志歩ちゃんは何ラーメンが好きなの?」
「初めてのお店なので、皆さんのお勧めがあったらそれにしたいです」
「なら醤油だろ!」
「いいや、味噌だな」
「ここは坦々麺でしょ」
「見事にバラバラじゃんか!」
「きれいに分かれましたね」
「そういうお前は何なんだよ」
「中華そばだね」
「………」
暫しの間。志歩ちゃんはおじさんに向き直ると「店長さんのオススメはなんですか?」と躊躇なく尋ねた。
「今日は塩の気分だ!」と返事がくるものだから、志歩ちゃんは「では、それをお願いします」と頼んだ。……俺達の意見とは。
「影山、さっきから嬉しそうだな」
「え?」
「うん。にこにこしてる」
「そ、そんなに顔に出てましたか。すみません…岩君が言う様に今少し嬉しくて」
「?」
志歩ちゃんは少し恥ずかしがりながらも話してくれた。
実は前々から帰宅前に友達とこうして寄り道をしてみたかったと。中学の頃は直帰ばかりでこういうのは初めてなんだって。
だから今日マッキーが誘ってくれたのがすごく嬉しくて、今日は学校が終わるのが楽しみで仕方無かったとか。
「すみません、高校生にもなってこんな…。子供っぽいですよね」
「イイじゃねぇか。高校生なんて実際まだ子供だし」
「そうそう。それに、ここなら俺達も通い慣れてるしさ、いんちょーさえ予定がなければいつでも誘ってやるよ」
「…っ。ありがとうございます…!」
岩ちゃん達の言葉に本当に嬉しそうに笑った志歩ちゃんを見て、俺は、否、俺達は揃って言葉を失った。
いや、ほんと、冗談抜きで可愛い。志歩ちゃんのありのままの笑顔ってキュンとくるんだよね。
「あー…まあ、そういう事だから」
「気に入ったらまた一緒においでよ。な、岩泉」
「あ!?お、おおお、おう。そうだな」
「…岩ちゃん顔赤いけど、ナニ考えてんの?」
「はあ!?お、お前こそタコみてぇに赤いじゃねーか!人のこと言う前に自分の顔見ろよ!」
「な!?おお俺は別に赤くないし!普通だし!」
「どこが普通なんだよ!」
「ハッハッハ!相変わらず元気だな、お前等。ほら、出来たぞ。冷めない内に食え食え」
「いただきまーす!!」
出来たてのラーメンは熱々で、顔が赤いのはもうコレのせいにしよう。
ニヤニヤ笑ってくるまっつんとマッキーは無視。全員に割りばしが渡ったのを見てから一斉に食べだした。
「あっつ!」
「美味ぇ!」
「皆さん、餃子のタレは好みの味付けありますか?」
「任せる」
「いんちょーマジで気が利くな」
「ふふ。私より大分お腹が空いてるようですから。…あ、岩君。お水足しときますね」
「おお。サンキュ」
「志歩ちゃんも伸びない内に食べた方が良いよ。塩ラーメンもオススメの一つだからさ」
「はい。…では、いただきます」
岩ちゃんのグラスに水を足してから割り箸を手に取った志歩ちゃんは、俺達男とは違い、二、三本の麺を掴んで音を立てない様に啜った。
「女の子だぁ…」
「女だな」
「うん。女子」
「?」
俺達が何の事を言ってるのか分からないという仕草で小首を傾げた志歩ちゃんだけど、そこで彼女に異変が起きた。
ラーメンを食べるという事は、熱々のそれに近づく必要がある。そして彼女は現在も眼鏡をかけているため、レンズはあっという間に真っ白に。
「ちょ、いんちょー。それ見えてんのか?」
「レンズが真っ白だよ」
笑いを堪えながら指摘するマッキーとまっつん。俺もそんな彼女を見て吹き出しそうになるのをギリギリ抑える。
岩ちゃんは眼鏡をかけてると面倒なんだなって顔してる。まあ、こういう時は外すのが一番だよね。志歩ちゃん、元々そんなに視力悪くないみたいだし。
「確かに邪魔ですね」
そう言った彼女はサッと眼鏡を外してテーブルに置いた。
そこでまたしても俺達は揃って硬直する。だって、え、ちょっと待って志歩ちゃん。
「お前、メガネ外すと大分イメージ変わるのな」
「え?」
「俺も思った!眼鏡かけてないと文科系より体育系な感じする」
「ギャップだ…」
「そ、そんなに変わりますか?」
「いや、でも、かけてなくても可愛いから!かけてても可愛いから!」
「何を必死に言ってんだお前は」
「え!?あ、いや、なんか、その…」
自分でもよく分からないけど……ただ、眼鏡かけてない方が好きだなぁと思った。
「そんな風に言ってもらえたの初めてです。…ありがとうございます、及川君」
「えっ!?あ、俺ってほら、正直な男だから。思ったままを言っただけだよ」
「(茹でダコみたいな顔してる)」
「(アレじゃあカッコつかないよね)」
「おい、及川。顔赤いぞ」
「岩ちゃんそれ言わなくていいことだよね!?何でワザワザ口に出したの!?」
「親切に教えてやったんだろうがボケ!」
こうして言い合いで誤魔化してるけど顔の熱は下がらない。
最近、自分でもよく分からないけど志歩ちゃんと居るといつもの自分じゃいられなくなる。何なんだホントに。
「あ。及川君、口の横に何か付いてますよ」
「え?」
「そっちじゃありません。…こっちですよ」
正面に座る志歩ちゃんが身を乗り出して俺の唇の左端をきゅっと拭う。
もやしの尻尾の部分ですね、と微笑む彼女を見たら益々体温が上昇した気がした。
「ッ………はああああぁぁぁ…!!」
「おいおい、どうした及川」
「何だついに病気か」
「いや、悶えてるだけでしょ」
ああもう。ほんとにもう……!
「志歩ちゃんあんまり可愛いことしないで!」
「!?」
「俺が惚れたらどうするの!?」
「えっ?えっと…」
「フれ」
「フッて良いぞ」
「出来れば俺達の目の前で盛大にフッてくれ」
「お前等ホント何なの!?」
その後、伸びてしまったラーメンを俺達は揃って完食するのだった。