5.偶然(飛雄)



久し振りの休みに姉さんと出かける事になった。
俺も姉さんも部活で忙しく、なかなか一緒にゆっくり出来る時間がなかったから久々に一緒にいられて嬉しい。
私服に身を包んだ姉さんは今日もすごく良い。ひらひら揺れるスカート、すごく似合ってる。


「姉さん、今日は何でも姉さんに付き合う。好きな所に連れてってくれ」

「ありがとう飛ちゃん。でも、今日は折角の休みだから飛ちゃんとのんびりしたいな」

「お、おう」


姉さんは俺との時間を大事にしてくれる。昔から姉さんは変わらない。
俺のこと、両親に代わって見てくれてる時間長い分、姉さんには頼りっぱなしなところがあるから、俺もたまには姉さんに頼りにされたい。
だから今日は姉さんの行きたい所に行く。そう決めて、今はのんびり近所の公園に向かってる最中だ。


「晴れて気持ちが良いね。ボール持ってくれば良かったかな」

「のんびり過ごすって言ってたのに結局バレーか?」

「飛ちゃんだって、きっとやりたくなるでしょ?」

「…まあ。なるな、そりゃ」


目が合えば一緒に笑い合う。姉さんの柔らかな笑顔は見ているだけで和むから好きだ。
こんな風に姉さんと同じ時間をこれからもずっと過ごせればいいのに。そう思っていた矢先「お」と正面から声がかかった。


「影山姉弟か。揃ってる所は久々に見たな」

「岩泉さん!」

「岩君、こんにちは。奇遇ですね。お散歩ですか?」

「いや、新しいサポーターが出たって聞いたから見に来たんだ。駅前のスポーツ店」

「ああ、俺も聞きました!予約だけでも相当きてるって話ですよ」

「マジかよ。やっぱ新しいもんは競争率激しいな」


ゲンナリした顔で頭をかく岩泉さんは腰に手を当てて溜息を吐く。
そうだ。岩泉さんがいるってことは、もしかしてあの人も一緒なんじゃ…!?

慌てて姉さんの前に出て辺りを警戒してみるが、あの人の姿は近くには見られない。いつも一緒に居る印象があるが、今日は別行動なのか…?


「及川なら今は居ねぇよ」

「…!」

「ははっ。相変わらず顔によく出るな、お前は」

「…すみません」

「別に謝ることねぇよ。あいつ、お前のことライバル視してるからな。お前たち姉弟には迷惑かけちまって悪いな」

「いえ、そんな」

「そうですよ!岩泉さんが謝ることじゃありません!それに俺、岩泉さんのこと信用してますから!」

「し、信用?」


首を傾げる岩泉さんに俺は何度も頷く。何故なら、岩泉さんは及川さんから姉さんを守ってくれてる素晴らしい人だ。
一年の頃から姉さんと同じクラスだったのは姉さんから話しは聞いてる。岩泉さんは何度も姉さんを助けてくれた恩人だ。
そんな人が及川さんみたいなことをするはずがない。だから俺は、岩泉さんのことを信用している。


「岩泉さん、これからも姉さんをよろしくお願いします!」

「飛ちゃん…」

「な、なんかよく分からねぇが…まあ、心配すんなよ。お前の姉ちゃんしっかりしてるし、及川のことも上手く操作してっから」

「操作!?操作って何ですか!?まさか及川さん、部活中も姉さんに近づいてるんですか!?」

「と、飛ちゃんたら、落ちついて…!」


あの人、俺が傍で見ていないのをいい事に姉さんに良からぬことをしてるんじゃないだろうな…!?
もし姉さんを困らせる様なことをしてたら今度こそ学校に乗り込んで訴えてやる…!


「バレー馬鹿かと思ってたが、姉ちゃんバカでもあったか」

「ごめんなさい岩君。飛ちゃん、心配症なんです」

「まあ、あいつ相手なら飛雄が心配するのも無理もない。が、さっきも言ったが心配すんな。学校じゃ俺も一緒だから、あのバカが変な事する前に止めてやるよ」

「岩泉さん…!!」


さすが岩泉さんだ!この堂々とした男の発言、かっこいい…!!
首が取れるんじゃないかってくらい頷く俺を見て「だから落ち着け」と言う岩泉さんの言葉に素直に従うと、時計を見た途端渋い顔をした。


「…ったく、あのグズ川。やっぱダメだな」

「及川君がどうかしたんですか?」

「ああ…さっき話したやつを見たいって言いだしたの、あいつなんだよ。なのに時間になっても来やしねぇ」


岩泉さんはイライラした様子で舌打ちすると、スマホを取り出して何かを打ちこみ始めるが、ふと姉さんを見て頷いた。


「おい影山…ああ、姉ちゃんの方な」

「何でしょう」

「ちょっと協力頼むわ」

「はい…?」

「飛雄。悪いがお前も手伝ってくれ」

「いいですけど、何をですか?」


岩泉さんは俺に自分のスマホを手渡すと、自分と姉さんのツーショットを撮ってほしいと言ってきた。
姉さんとツーショットなんて俺も最近撮ってないから羨ましい…!ギリィッと歯を食いしばったら、後でお前等も撮ってやるからと約束してくれた。


「こんな感じで良いですか?」

「おお、サンキューな」

「どうするんですか岩君」

「お前をエサにして、あのバカを誘き出す」

「「…は?」」


姉さんと揃って首を傾げてる間に岩泉さんが早速撮ったばかりの写真を及川さんに送った。
それから数分後、ドドドドド!と凄まじい音を立てながら汗だくになった及川さんが颯爽と登場した。


「ちょっと岩ちゃん!志歩ちゃんと二人で何してんの!?まさか俺に内緒でデート?デートなの!?」

「遅ぇんだよクソ及川!自分から言い出しといて遅刻してんじゃねぇ!!」


岩泉さんは肩にかけていたイナメルを手に持ち替えてブン!と及川さんに叩きつける。
「いった!痛いよ岩ちゃん!」と逃げ纏う光景は中学で見たものそのままで、この人は相変わらずなんだな…と遠い目で見やった。


「って、飛雄もいんじゃん!何この組み合わせ」

「こんにちは及川君。岩君と待ち合わせしてるのに遅刻ですか?」

「志歩ちゃん笑顔で責めないでよ…!俺だってワザと遅刻した訳じゃないんだから…!」

「じゃあ、どこで何してたんだよ」


あまり怒りが収まってない岩泉さんに問われた及川さんは、フフンと笑って空を仰ぐ。


「ホラ、俺ってモテるから?女の子が放っておいてくれないんだよね」

「よし殴る」

「待ってタンマ!岩ちゃん落ち着いて!」


逃げまとう及川さんを追いかける岩泉さんを見送り、俺は隣でくすくすと笑う姉さんに目を向けた。


「なあ、姉さん。普段から部活中もあんななのか?」

「あんなだね」


姉さんが言う様に俺は心配症なのかもしれない。けど、姉さんが楽しそうにしているから、もう少し安心しても良いのかもな。


「ちょっと!何で俺が飛雄なんかと隣の席に座らないといけないワケ!?おかしいでしょ、こんなの!」

「そうですよ!俺は姉さんの隣に座れればそれで良いんです!」

「はあ!?志歩ちゃんの隣は俺が本来座る場所であって、お前の場所じゃないんだよ!」

「はあ!?そのセリフ、そのままスパイクで打ち返しますよ!」

「じゃあ俺はそれをブロックで叩き落として…」

「お前等黙って飯を食え」

「「……ハイ」」

「ふふ…っ」


あの後、結局一緒にお昼を取る事になった俺達だが、姉さんの隣の席を取りあった結果、岩泉さんが姉さんの隣に座ってしまい、俺は及川さんと並ぶ事になった。
こんなはずじゃなかったのに…!やっぱり及川さんが居ると姉さんとの時間が減る!