なんとかしてやる(岩泉)



「(じっ)」

「……」

「(じーっ)」

「…?」


最近、影山の視線が痛い。理由は分からねぇが、気付けばじっと見られてる。
何か言いたい事があればちゃんと言う奴だし、普段こういった事が無い分気になる。
くるっと振り返って目が合っても、あいつは逃げたりせずペコリとお辞儀したりして無視もしない。だから余計に分からない。何を考えてるんだあいつは。


「結局何も分からず仕舞いだ…」


土曜日の部活も影山の視線の意図が分からず、そっちも気になってあまり集中出来なかった。
さっさと要件を聞いてしまえば良いんだろうが、果たして直球で聞いていいのかも判断しかねる。
…いや、このまま引きずってたらいつまで経ってもバレーに集中出来ない。もういっそ聞いてしまおう。


「影山!」


早々に着替えを済ませてあいつが出てくるのを見計らって声をかけた。
ほぼ同時に更衣室から出てきた花巻達が不思議そうに俺達を見てくるが、特に気にせず影山の正面に立って思ったままを聞いた。


「お前最近やたらと俺のこと見てくるけど何か言いたい事でもあるのか?」

「あ。あります」

「あるの!?」


何故か及川が俺の前にツッコミを入れた。
すかさず俺と影山の間に割って入ったバカは「てか何でよりにもよって岩ちゃんなんか見てるの!?」と失礼極まりない事を聞きやがるんで一発殴っておいた。


「実は…ずっと気になっていたんです」

「き、気になるって?」

「だから何でお前が俺の代わりに聞くんだよ」

「まあまあ、とりあえず聞いてやれよ」


花巻に抑えるよう言われて仕方なく口を閉じる。改めて正面に居る影山に目を向けると、何故か少し恥ずかしそうにもじもじとしていた。


「あの…岩君には失礼になる事を承知で、ずっと気になって見てしまっていたのですが…」

「何だよ。別に遠慮せず言っていいぞ」


影山は俺の言葉に恥ずかしそうにしたまま、少し嬉しそうに瞳を輝かせてコクっと頷いた。


「あ、あの…岩君」

「おう」

「…何この雰囲気。まさか志歩ちゃん、岩ちゃんに告白でもする気!?」

「及川黙れ」

「そ、その…その服の下の…」

「服の下!?」

「及川マジ黙れ」


花巻が抑えて無理矢理でも及川を後ろに下げたところで、影山はとうとう本音を告げた。


「岩君が着てるシャツ、どこで買ったんですか…!?」


***


「志歩ちゃん本気で言ってるの?岩ちゃんの四字熟語シリーズのシャツが欲しいだなんて」

「はい。ずっと気になっていて…カッコイイなって。練習中、ずっと目が離せなくて」

「どっかのムカツク奴とは違って話しが分かるな、影山は!」


このシャツの良さが分かる女がいるとは思ってなかったが、まさかこんな身近にいるなんてな。
同士が出来たことで自然とテンションが上がった俺は、影山の背をグイグイ押して駅前のショップに連れてってやった。
真っ直ぐに四字熟語シリーズのシャツが売られている場所へ案内してやると、食い入るように端から端まで真剣な顔で見始めた。


「…まさかあのいんちょーが岩泉と似た好みを持ってたとはな…」

「俺も正直びっくり…」

「志歩ちゃん!今からでも遅くないからもっと可愛い服を見に行こう!?こんな笑いを取りに行くシャツを着るのは岩ちゃんだけで十分だから!!」

「クソ川ぶん殴るぞ」


こんなくだらないやりとりをしてる間にも影山は黙々とシャツを手にとっては選んでる様子だ。
普段から真面目なやつだが、ここでもその真面目さを発揮して真剣に選んでる姿は流石と言えるぜ。
折角だし俺も新しいの買って行くかと思案した時、一通り見て回った影山がさっきとは打って変わってズーンと重い空気を纏っていた。


「お、おい、どうした影山」

「…岩君。私は、とても残念でなりません」

「?」

「私が探していた四字熟語はあったのですが、サイズが売り切れでした…!」


今にも悔し涙を流しそうな悔しさっぷりに、とりあえず落ち着けと影山に声をかけてその四字熟語のシャツを教えてもらった。
【鼓舞激励】か。確かにバレーボールでよく使われる四字熟語の一つだ。意味は、人を奮い立たせて元気づける事だったか。サポートである影山にも似合う四字熟語だ。


「あ、成程な。これ元々メンズ用だからSサイズ自体がそんな個数ないんだ」

「大会じゃなくても体育祭とかイベント事でまとめて買われちゃったりする事も多いもんね」

「それに志歩ちゃんの場合はSサイズじゃないとブカブカだから着ても動き辛いよね」


意気消沈した影山を励ます様に肩をぽんぽん叩く及川達を横目に、俺は自分の持つこのシリーズのシャツを思い出す。
このシリーズは割と前から販売していたから、リニューアルはあれど人気の熟語は生産終了したりしてないはず。
…そういやあ、大分前に【鼓舞激励】って書かれたやつを買ってもらった気がするな。捨ててはいないはずだし、帰ったら探してみるか。


「次の入荷は未定だそうです。仕方ないので飛ちゃんのだけ買って帰ります…」

「結局買うの!?しかも飛雄の!?」

「はい。姉弟でお揃いのを着て、また町内会の試合に出ようかと」

「仲良いな、いんちょー姉弟」

「はい。可愛い弟ですから」

「…志歩ちゃんも意外とブラコンだよね」

「悔しそうな顔して言うなよ…」


三日後。あれから帰宅して押し入れの中を漁ったら無事に見つける事が出来た例のシャツ。
ちゃんと洗濯してもらってから影山に手渡すと、今まで見たことの無いほどに嬉しそうに目を輝かせた。


「岩君…っ、岩君っ、本当に貰っていいのですか…!?」

「おう。俺にはもうサイズ小せぇから、お前さえ良ければ使ってくれ」

「ありがとうございます…!すごく嬉しいです…っ、ありがとうございます…!」

「ははっ。大げさすぎだって」


まあ、こんだけ喜んでもらえるとは思ってなかったから、影山の嬉しそうな笑顔を見たら俺もなんだか嬉しくなった。
思わずその頭をワシャワシャ撫でてやると、影山は受けとったシャツをぎゅっと胸に抱いて照れた。俺の心臓もギュッと縮んだのは、たぶん気のせいだ。


「志歩ちゃん!?そのシャツどうしたの!?何で岩ちゃんみたいなシャツ着ちゃってるの!?」

「なんか文句あんのかボゲ川!」

「今日、岩君がお古をくれたんです。見てください。サイズもピッタリなので私でも着れてます…!」

「へえ。リニューアルしたやつは赤地のシャツだったが、その前ってピンクだったのか」

「それに黒の太字で【鼓舞激励】って書いてあるのか…。なんだろう…女の子がああいうの着てるの見ると複雑な心境にさせられるな」

「……っていうかさぁ、」


ジャージの下に早速俺の渡したシャツを着てマネージャー業に励む影山を見送った後、及川はぷるぷると震えながら突然俺を睨みつけてきた。


「ちょっと岩ちゃん!何ナチュラルに彼シャツを志歩ちゃんにさせてるワケ!?彼氏気どりですか!?」

「はあ?ただ着れなくなったシャツをやっただけだろうが」

「いくら鈍感で恋愛に縁の無い岩ちゃんでもね、許される事と許されないことがあるんだよ!あれは、有罪だよ!有罪!」

「自分がやりたい事をお前に先にやられて悔しがってんだよ、あいつは」

「そうそう。しかも、いんちょーのあの喜びっぷりだから、やめろと言いたくても言えないから余計に悔しがってんだよ」

「…面倒な奴だな」

「何かなその目は!?言っとくけどね、別に悔しがってないから。彼シャツ以上の事を俺は既にやってるから全然ちっとも悔しくなんかないんだからね!!」


そう言って影山の方へ走って行った及川は、あいつを捕まえて何か訴え始めた。
また面倒なことを仕出かさないか不安でならねぇが、影山はあいつの扱い方を大分心得てるから大丈夫だろう。


「お前もお前で罪な男だな岩泉」

「天然たらし」

「…?」


後日。弟の飛雄と同じ四字熟語が書かれたお揃いのシャツを着た写真を見せてくれた影山。
ただ、及川だけがそれに騒ぎたて、翌日には同じシャツをあいつも着こんでいた。本当にあいつは面倒なう○こ野郎だ。