5.いんちょーとバレー
二学年最初の体育はバレーだった。この日は天気が雨と言う事もあり、急遽男子も体育館で授業をすることになった。
男子はバスケ、女子はバレー。女の子達は隣に及川君が居るという事が嬉しい様で、賑やかな声援を送っていた。
「及川君の人気は相変わらずすごいねー」
「バレーなんだし、教えてもらいたいなー」
各々の希望を口にするも、それはやはり叶わず、体育の先生は集合をかけると出席番号順でチームを組ませた。
私と同じチームの人は運動部に入ってる人が三人いて、いいバランスがとれている。
最初の相手となるグループはそれを上まり、見事に運動部が集結したチームとなっていた。
「ちょいちょい、バレー部三人も入ってるってズルくない?」
「そっちはバスケ部とバト部居るんだから良いじゃん」
「そっちは専門でしょーが!」
確かにバレー部所属の人が三人もいるとなれば、戦法も動きもかなり有利になる。
さて、どうすっかーとバスケ部の三田さんが私を見て首を傾げた。
「てかさ、いんちょーは運動得意なん?」
「弟と一緒に小さい頃からバレーやってました」
「マジ!?全然そうは見えないのに!」
「ちょ、それ失礼すぎる!」
「気にしないでください。よく言われますから」
見た目は自覚してる通り完全に文化部だ。運動部に見られた事は一度としてない。
弟が中学に入ってからは練習に付き合うけれど、私は弟の分もお弁当作ったり、サポートに回るようになったので前ほどボールに触れることは減ってしまった。
だけど、全然触れてないということではない。いつだって体が覚えてるボールの感覚は目を閉じれば蘇ってくる。
「皆さんさえ良ければセッターをやらせてください。アタックはバスケ部のみなさんをメインに」
「オッケー!」
「出来る所はフォローに回るから」
「はい。よろしくお願いします」
先生が笛を鳴らす。とうとう試合が開始された。
***
「お。女子はバレーか」
「それにしても酷ぇチーム分けだな。女バレのメンバー揃ってんじゃん、あっち」
「いんちょーちゃんチームはバスケ部の子はいるけど、専門外だもんね。これは厳しいんじゃないかな」
及川達はバスケのシュート練習をしながら女子のバレーの様子をチラリと見守る。
先に運動部チームのサーブから始まり、初っ端に帰宅部の子が狙われ、先制点を許してしまう。
まあ、そうなるよなーと見ていた三人。再び同じ子に向かってサーブが打たれ、次は取れるのか目を向けた瞬間、隣にいたバスケ部の一人が素早くフォローに入った。
アンダーハンドで取ったレシーブがネット前に立つ志歩の上へと上がる。
「え?いんちょーちゃんがセッター?」
予想外な役に驚く及川を余所に、隣に居る岩泉は納得した様子で「だろうな」と小さく呟いた。
彼等の視界の先で志歩に向かったボールは彼女の手によってきれい上げられる。十分な余裕を持って落ちてきたボールは、バスケ部の一人のアタックで見事に決まった。
「ナイスいんちょー!」
「ありがとうございます。素晴らしいアタックでした」
ハイタッチをする志歩を見るのも珍しいものだ。
セッターの自分から見ても無駄のないきれいなトスを上げた志歩に絶句してる及川を横目に、岩泉は怪訝そうに彼に言う。
「お前もしかして知らねーのか?」
「え、何を?」
続きを言うはずだった言葉は「いんちょーナイッサー!」という掛け声によって消される。
ボールを両手でクルリと回して再び手に納めた志歩の表情はいつになく真剣そのもの。
いつもの彼女と違う。誰もがそう思った直後、彼女はボールを高々と投げ、助走を付けてラインギリギリで跳んだ。そして―――。
ドッ。
目を張るスピードでネットの上を通過したボールは軽快な音を立ててコート内で弾んだ。
ジャンプサーブからの見事なサービスエース。バレー部メンバーがぽかんと口を開けて硬直する程、彼女のサーブは予想外過ぎたのだ。
「……か……ッ」
カッケ―――!!いいぞ、いんちょー!!
思わず見入ってしまう程の見事さに誰よりも先に岩泉と花巻が声援を送る。漸く我に返った相手チームも今何が起きたのか未だに受け止められずにいた。
普段は物静かで真面目な読書好きな女子生徒、という印象の志歩だが、こんな姿を見せられてはその印象はガラリと変わる。
「ちょ…ちょちょちょ!え、いんちょーちゃんバレー出来たの!?」
「何だ。マジで知らなかったのかよ」
「だって誰も想像できないでしょ、普段のいんちょーちゃん見てたらさ!」
「けど、あれが現実じゃん?」
ケラケラ笑う花巻と岩泉を余所に、及川は未だに驚きを隠せないまま彼女を見やる。
再びサーブを打とうとトスを上げた彼女が、きれいなフォームで再びボールを打ちおろす。
「……や…やばい……」
「あ?」
「ねえ、岩ちゃん。俺、ずっと考えない様にしてきたんだけどさ」
「…なんだよ」
青ざめる顔色。震える口元。引きつる笑顔。及川は冷や汗を伝わせながら問うた。
「もしかしなくてもさ……いんちょーちゃんって、飛雄の…?」
「お前ホンット今更だな」
呆れ顔で告げられた事実は及川に衝撃を与えるには十分すぎた。
激しいショックを受けてその場に崩れ落ちた彼を残念な物を見る目で見下ろす岩泉の隣で、プクーッと笑う花巻はその肩を慰めのつもりでポンと叩いた。
「嘘だー!いんちょーちゃんがよりにもよって飛雄の姉とか信じたくないいいいいい!!」
「苗字だって影山じゃねーか。現実逃避したところで無駄だ」
「岩ちゃんいつから知ってたの!?」
「俺は一年の時も同じクラスだったからな。話す機会増えたら自然と知る事になった」
「それ知って何とも思わなかったの!?」
「…マネージャーやってくんねーかなとは思った」
「確かにマネージャーになってほしいというのは異論ないけど!そっち?岩ちゃんの思う事ってそっち!?」
「俺はお前と違って飛雄を妬んでねーからな」
「お、俺だって別に妬んでないから!!」
「おい見ろ。お前等が騒いでる間に、いんちょーのサーブで勝負付いたぞ」
「「マジで!?」」
達成感に満ちた笑顔で仲間に囲まれる志歩を遠くから見やる及川は複雑な心境で溜息をついた。
「俺…いんちょーちゃんと付き合う事になったら飛雄の兄貴分になるのかぁ。……いや、それはそれでアイツの嫌がる顔が見れるんじゃ…」
「お前ホントう○こ野郎だな」
「その呼び方やめて!」
この日を境に、女子バレー部から勧誘される日々が始まった志歩であった。