夏祭り

「信ちゃん、今度神社でお祭りあるんやって」

行きたいなあとこちらをチラチラ見ながら言う名前にため息をつきながら「いつや?」と問えば「今週の日曜」と返された。

「その日は部活休みの日やからええよ」

「ほんま?ほんなら神社の最寄り駅に17:00に待ち合わせでええ?」

「昼間からやっとるやろ?」

「夕方に行くのが雰囲気あってええんやろ!」

名前はわかってないなあ、なんて頬を膨らませながら俺へと文句を垂れた。


当日、私服で行こうとしたらばあちゃんに「信ちゃん、浴衣そこに出してあるよ」と声をかけられた。

「名前ちゃんも浴衣で来ると思うよ」

ばあちゃんの言葉に、確かに名前は浴衣で来そうだし、私服で行ったら文句の二つや三つ言われてもおかしくないかもしれないと思い浴衣へと着替えることにした。

久々に着る浴衣は少しだけ短かったが、歩きやすさも鑑みるとこれはこれでいいのかもしれない。

待ち合わせ場所に行くと、時計をみてはキョロキョロする名前が見えた。

楽しみなことがあると待ち合わせよりも早く来てソワソワしているのは小さい頃から変わらなくて、思わず笑みが溢れる。

「名前」

「あ!信ちゃん…浴衣着てきてくれたの?」

「ばあちゃんが用意してくれた」

「結仁依さん…!今度会ったらお礼言わないと…!」

嬉しそうに笑う名前に「さ、早よ行かないと帰るの遅くなるで」と声をかけ神社へと足を進めた。

二人とも小さい頃から来ているところだったので、素早く手水舎へ行き手を清めた後本殿へと向かった。

途中、名前が「信ちゃん、わたあめが向こうにあったの」とか「あっちにはあんず飴があったよ」とはしゃいで右に左にフラフラしていたけれど「お参りが先や」といえば素直に頷いて俺の後ろをついてきてくれた。

ところが、ようやく参拝を終えて先程名前の言っていた屋台へと並ぶと後ろにいたはずの名前がいない。

ほんのちょっと前まで確かにいて、あそこの屋台から行こうかという話もしたはずなのに。

子どもやないんやからしっかりしてくれと思わなくもないが、あんなはしゃいでいた名前から目を離した自分も悪かったのかもしれない。

諦めにも似た感情で人をかき分け名前を探していたら向こうから見知った顔が来るのが見えた。

「あ、北さんおった」

「なんや侑、俺のこと探しとったんか?」

「さっき向こうで名前先輩が北さんとおったはずなのにおらんて怒ってはりましたよ」

侑の言葉に名前が見つかったことへの安渡と、逸れたんは名前の方やろという呆れが一気に押し寄せた。

「どこにおった?」

「向こうの端の方です。動かんようサムが一緒におるんで安心してください」

侑に先に歩いてもらい、名前の元へと向かえばそこには楽しそうに治と話す名前がいた。

泣き虫の名前が逸れても泣かないでいられたのは双子のおかげだろう。

「名前」

「あ、信ちゃん。みてみて、治くんと侑くんもお祭り来とったみたいやで」

呑気な声で話す名前は反省なんて一ミリもしていないのが見てとれる。

「ちゃんとどこ行くか話したやろ。ちゃんと前向いて歩かんから逸れるんやで」

「やって美味しそうな食べ物いっぱいあるんやもん…」

「いっぱい買ったって一気に食えんやろ。一個一個なくしてから次に行くんや」

「はあい」

不貞腐れた名前に背を向けて「すまんな、迷惑かけて」と双子の方を向いてお礼を言うと「気にせんといてください」「ほな俺らもう行きますね」と手を振って屋台のある方へと消えていった。

「信ちゃん、ごめんね?」

「名前がいなくて肝が冷えたわ」

「治くんにね、逸れたくなかったら手を繋ぐといいですよって言われたの」

はい、と差し出された手を取ると、名前は嬉しそうに「これでもう逸れないね?」と笑った。

握られた手から伝わる体温は温かくて、この手をもう離さないようにと強く握り返した。

その後は名前と逸れることもなく色んな屋台を見て、帰りに「信ちゃん、また来年来ようね」と小指を差し出された。

「指切りでもするんか?」

「やって信ちゃん忙しかったら私とお祭りなんて来てくれへんやろ?」

「別に来年だけやなくて、来年も再来年も、名前が行きたいって言う間は来てもええで」

そう言えば名前は目を大きく開けて「ほんまに?」と聞いてきた。

「約束なんやろ?」

差し出された小指を交わして唄を口ずさめば、この先の未来も名前と一緒にいられる気がした。

・おまつり
・友達以上恋人未満
・浴衣で待ち合わせ
・はぐれる
・手を繋いで帰る