一緒にプール

「プールに!行きたい!!!」

また始まった、みんながそういう顔をしてスルーをしたら「夏休みやぞ!?プール行かへんでどこ行くんや!!」と騒ぎ出した。

「あー、俺プールアレルギーやねん」

「そんなアレルギー聞いたことあらへんぞ!」

「ほら、あれやあれ。なんやっけ」

「塩素アレルギー?」

「それ。それやねん」

「クソサム!嘘つくにしてももっとマシなの言えへんのか!お前にアレルギーあったら俺も知っとるわ!」

面倒くさい、治の顔にはありありとそう書いてあってこれはいくら押しても無駄だろうなと思った。

「っていうか名前が付き合えばいいじゃん」

「は、角名何言うてんの」

「せやな、この間新しい水着買ったんやって喜んどったし」

「銀まで裏切るん!?」

「お、それならツムと行ってきたらええやん」

人柱は決定した。
三人の目は確実にそう言っていて、侑の方はいいと言うまでずっと行きたいと言い続けるだろう。

「…わかった、私が行くわ」

なんでみんなこうも嫌がるのかというと、侑の行きたがるプールは大型のチューブに乗って滑るウォータースライダーがあるところで、侑は本当に飽きるまでそこを往復するのだ。

銀も角名もそんなに何往復も乗るタイプではないし、治はこの間も付き合わされたみたいだからまた行くのは嫌なのだろう。

そんなこんなで今度の部活が休みの日に侑と二人でプールへ行くことが決定した。

そして当日、駅で待ち合わせて電車でプールまで行くと、更衣室から出たところで女子に絡まれてる侑がいた。

高校に入って侑と一緒にいるようになってから、頭のてっぺんから足先までねっとりと見られることが多くなった。
しかも決まって最後は私のことを鼻で笑うのだ。

別に可愛いわけじゃないことは私だってわかってるけど、何度も知らない人に値踏みされて下に見られるのは結構キツいものがある。

だから一緒に行くの嫌だったのになぁとため息をついて、中心にいる侑の元へと足を進めた。

「名前!遅かったやん!」

侑が私へと声をかければ、周りにいた女子の目が一斉に私に向いた。
不快なその視線に、楽しい気分なんか一気に吹き飛びそうになる。
泣いたら負けだと自分に言い聞かせるけど、顔は前を向けないで俯いてしまう。

「なんやお前ら、ブスのくせに名前のことそんな目で見るとかクソか?そのブッサイクな顔鏡で見てきた方がええで。女の嫉妬は醜くて嫌やなあ」

周りにいた子を払い除けて私の元へ来た侑は、私のことを抱き寄せてそう言い放った。

みるみるうちに女の子たちの顔は真っ赤になって「は?イケメンやからって調子のんな!」と捨て台詞を吐いていなくなった。

「名前もあんなやつらのこと気にすんな。ほんま不快やわ」

侑は眉間に皺を寄せてそう吐き出した後「さ、遊ばな損やで。早よ行こうや」と笑って私の手を引いた。

当初の想定通り侑はスライダーの方へと向かい、二人乗りのチューブを抱きかかえて楽しそうに階段を登った。

「まずは1回目やな!」

「前?後ろ?」

「前やな」

「承知」

「よっしゃ、行くで!」

手を離せばチューブは水の流れにのって下へと滑っていく。

「ヒィッ」

「楽しいなあ!!!」

思ったよりも速いスピードだったけれど、慣れれば楽しいもので心が躍るのを感じる。

「おっ、そろそろ終わりやで。息止めへんと」

侑の声に思いっきり息を吸って止めると、すごい水飛沫とともに水の中へ落ちた。

「ぶっは!!」

「お、名前!こっちやこっち!」

顔をあげて周りをみれば、楽しそうな侑がこちらに手を振ってくれた。

陸へと上がると「さ、もう一回や!」と間髪いれずに並び直すのは流石すぎる。

そうやって何回滑っただろう。

「そろそろ腹も減ってきたし昼飯食うか」

時計を見れば11:30。
混む前に食べたいので丁度いい時間だ。

「何食べる?」

「焼きそばとチャーハンやな」

「買ってくるから席取っといて」

「いや、重なるから俺買ってくるわ。名前が席取っといてくれ」

「わかった。私ホットドッグBOXね」

幸いにして席はすんなりと取ることができた。

不幸だったのは一人でいたから知らないお兄さんたちに声をかけられたこと。

「お姉さん一人なん?めっちゃかわええやん」

「俺らと一緒ご飯食わへん?」

「ここ座ってもええ?」

いいわけあるか!と叫びたいけれど、知らない人に囲まれるのは結構怖くてパッと声が出なかった。

「えー、怖がってるん?」

「俺ら怖ないで?」

「なあ、名前なんて言うん?」

こっちが黙ってるのをいいことに肩やら腰やらに手を回され、やたら親しげに話しかけてくる。

本当に涙が溢れそうになった時、誰かの足が机を蹴った。

「そこ、俺が座るとこなんやけど?」

食べ物片手に凄む侑はむっちゃ怖かった。

ただでさえ背が高くて金髪で柄が悪く見えるのに、今日は水着で逞しい筋肉も隠すことなく見せている。

これでドスのきいた声で話しかければ、さっきまでのしつこさはどこへやらお兄さんたちは尻尾を丸めて逃げていった。

「すまん、一人にしなきゃよかったな」

先程とは打って変わってしょんぼりした侑に「ううん、助かった。ナイスタイミングやで」と声をかければ「怖かったやろ?」と侑の方が泣きそうになっていた。

「大丈夫やって!ほら、食べよ?冷めてまうよ?」

「ん、いただきます」

すっかり元気をなくしてしまった侑に調子が狂う。
さっきは確かに怖かったけれど、絡まれたのは侑のせいではないし、気にしてほしくないのに。

「午後は食べたばっかやから流れるプールで少しゆっくりしたいな」

そう提案してしょげたままの侑を引っ張ってプールに入った。

いつまでも元気の出ない侑に、少しだけ悪戯心が芽生えた。

流れの少し速いところで、私の浮き輪に掴まっていてガラ空きの脇を思いっきりつつけばすごい声と共に両手が離れた。
当然、掴まっていたものがなくなったので流されるわけで。
頭までびしょ濡れになった侑が「何しよんねん!」と叫んだのを指をさして笑えば侑も一緒になって笑ってくれた。

散々笑って楽しんだあと、最後に何回かスライダーに乗って私たちはプールを後にした。

「やー、おもろかったな!」

「最後スピード出過ぎて転覆するかと思ったわ」

「今度は名前が前で乗ろうや」

「私はずっと後ろでええて」

「ってか名前めっちゃ焼けたな?」

「えー、日焼け止め塗ったのにアカンかった?」

「ほれ、腕見せてみいや」

侑の腕の隣に並べれば、日焼け止めを塗ったはずの私の腕も侑の腕と遜色なく焼けていた。

「真っ黒やな!」

「私の美肌返してや!」

「寝言は寝ていった方がええで…?」

「そんなこと言うたらもう付き合ってやらんで!」

「名前ちゃんの肌超綺麗やわ〜」

「もう少し感情込めて言えんの!?」

帰り道はずっとこんな調子でふざけあって、最寄りの駅まで帰った。

駅に着くと、さっきまで笑っていた侑の顔が急に真顔になって「なあ、名前が最近俺とおらんのってなんで?」と聞いてきた。

「別に一緒におるやろ?」

「みんなとおるときはあっても、俺と二人でどっか行ったりしなくなったやん」

痛いところをつかれた。
侑に寄ってくる女子の視線が嫌で、確かに二人になるのは避けていた。

「今日も遊んだしたまたまやろ?」

「そんなことあらへん!やっぱ朝みたいに嫌な女に絡まれるからか?」

「別に気にしとらんってば」

それ以上言わないでほしかった。

「俺は、名前が他の男に絡まれとんの見て心臓止まるかと思ったで」

真剣な眼差しでこちらを見る侑に、目を逸らすことができない。

「いつまで知らないフリするん?とっくに気づいとるやろ?」

「他の女の視線とか、嫌がらせとか俺が全部守ったるから」

「いい加減俺のこと好きって認めてや」

侑の言葉に何も言えないでいると「俺、そんな頼りないか?」と震えた声で呟かれた。

「そんなことない!!今日だって、助けてくれたときすごくホッとした。朝女の子に嫌な視線向けられた時も庇ってくれたの嬉しかった!」

「じゃあなんでダメなん?」

「ダメ、じゃない。ごめん、私の自信が足りなかっただけ」

「誰がなんと言おうと名前はめっちゃ可愛いで?不安ならいくらでも伝えたる。名前の自信がちゃんとつくまでいくらでも言うたるから!」

「他の子みたりしない?」

「せえへん!」

「私が一番?」

「名前が一番や!」

「そっか、一番か」

「当たり前やろ!」

「侑、好きでいてくれてありがと。私もいい加減認めるわ。侑のことが好きや」

言葉にすればストンと心に落ちて、今までの悩みなんかすごくちっぽけなものに感じた。

夕焼けに照らされた侑の顔は赤くて、それが照れているからなのか陽の光なのかは私には判断がつかなかったけれど、嬉しそうに笑う侑の顔は今までで一番輝いて見えた。



夏の刺すような日差し
一緒にプール
帰り道にお互いの肩の日焼け見せ合う