指輪

「あれ、名字じゃん。こんな時間まで珍しくね?」

去年まで同じクラスだった名字は帰宅部で、部活が終わるこんな時間まで学校にいるのを見たことがない。

「あ、黒尾だ」

のんびりした声でこちらを振り向いて、ふわりと笑う名字は少し困った顔をしていた。

「どうした?」

「落とし物をしちゃってさ〜。ずっと探してるんだけど見つかんないんだよねぇ…」

「俺も一緒探すわ。一人より二人のが見つかるだろ」

いいの?と尋ねる名字に、下心があるのは口が裂けても言えない。


俺と名字が初めて話したのは一年生の時で、座席が前後になったのがきっかけだった。

俺が前で、背の低い名字が後ろ。

当然名字から黒板は見えなくて、先生に席の交換を提案した。
先生も黒尾が前じゃ仕方ないなと苦笑いで、すんなりと了承してくれた。

そこから話すようになって知ったのだけれど、名字とは食べ物や音楽、兎に角あらゆるものの好みが同じだった。

一緒にいると気が楽で、名字が行きたいと言えば休日に二人で映画を観に行くこともあったし、部活が早く終わる日は待ち合わせをして遊んだりもした。

向こうはどうかわからないけれど、俺の方はいつの間にか名字に惹かれていて、クラスが離れた今もその気持ちは変わらないでいる。

そんな名字が困ってるなら勿論手を差し出すし、なんならその後一緒に帰れたら儲け物だ。

「で、何落としたわけ?」

「んー…指輪なんだけど…」

シルバーのね、なんて詳細に話してくれる名字の言葉はあまり耳に入ってこなかった。

指輪。
それも学校に持ってきてるほど大事な物。

顔には出さなかったけれど、ものすごく落ち込んだ。
もしかしなくとも彼氏とのペアリングだったりするのだろうか。
いや、でもはめる指が違っていればその可能性もなくなるかもしれない。

そんなことを頭の中で考えながら、名字の探している指輪を必死になって探した。
もう暗くなっているし本当は明日にでも回したほうがいいのだろうけど、あんなに困った顔をした名字も珍しくて、今日中に見つけてあげたい気持ちの方が勝った。


校舎の中を二人でライトを照らしながら探していると、教室の片隅に光る物が見えた。

近づくとそれはシルバーの小さな指輪で「これ?」と聞くと、名字は嬉しそうに「これ!よかった…!」と受け取ってくれた。

指輪を渡す前に内側に見えたイニシャルと、右手の薬指に嵌めたそれにペアリングである事実を突きつけられる。

「ありがと、黒尾」

見つかったし一緒帰ろ?と微笑む名字を見て、腹の中に黒い物が湧き上がるのを感じた。

彼氏がいんのに男と二人で帰るってどんだけ俺のこと意識してないんだよ。

沸々と湧いたその黒い感情は間違いなく嫉妬で、思わず名字の右手を掴み自分の方へと引っ張った。

体勢を崩し俺の方へ倒れた名字に「彼氏いんのに俺と二人で帰っていいわけ?」とわざと耳元で囁けば、名字の顔は真っ赤に染まった。

「待って、私彼氏いないから」

俺の体を押し返してそう否定する名字は、少しだけ泣きそうな顔をしていた。

「それ、ペアリングじゃないの?」

「これは…その…」

「言えないんだ」

「恋愛成就のお守りなの!!」

「内側にイニシャル彫ってあるのに?」

今度こそ名字の目から大粒の涙が溢れた。

「黒尾のイニシャルだよ!バカ!!」

名字の指から抜かれた指輪は勢いよく俺の顔目掛けて投げられて、名字はそのまま背を向けて走り出した。

「えっ、待って、名字!!」

声をかけるも一向に止まってくれない名字に「俺のこと好きなわけ!?」と聞けば「好きだバカ!!!」と叫ばれた。

これは今すぐ捕まえなくてどうする。

自然と緩んだ頬を手で隠し、逃げた名字の背を追った。

名字を捕まえたら、俺の気持ちをちゃんと伝えよう。

きっと照れてもう一度逃げようとするであろう彼女を想像しながら、名字へと腕を伸ばした。



気になる女の子の右手の薬指に指輪がはめられてるのに気づいて落ち込む
たまたま一緒に帰る機会がある
「彼氏いるのに俺と二人きりになっていいの?」
指輪は実は恋愛成就のおまじないだった