同期の赤葦と再会

「大阪支店から参りました名字です。本日から日本橋支店に配属になりました。関東に来るのは初めてで、土地勘もないので色々教えていただけると嬉しいです」

ニッコリ笑顔を決めて挨拶をする。

私はもう入社の時の失敗を繰り返さないのだ。

入社の時は東京の本社に新入社員は集合して、一人ずつ挨拶をさせられた。

関西人やし何かおもろいことでも言わなアカンかなと言った言葉が、東京の人たちにはわからなくて不思議な顔をされボケが盛大に滑ったみたいで自分の心がえらく傷ついた。

関西人やったら絶対ツッコんでくれたのに…と入社早々関東人の冷たさにめげそうになった。

その後は大阪支店の配属になったからそういったボケ殺しはなかったけれど、今回は東京の日本橋支店。

同じ轍は二度も踏まないのである。

挨拶を終えて顔を上げれば、かつて研修で一緒だった同期の赤葦くんの顔が目に入った。

彼は私の失態を間近で見ている。
あの時、終わった後に「滑ってたね」と私の心を抉る言葉をかけてきた。
これは絶対後で何か言われる。

折角頑張って練習してきた挨拶も全部水の泡だ。


そんな悔しさをバネに仕事を進めていたらなかなかに捗った。
支店は変われどやることは同じ。
支店毎に変なルールがあるところもあるけれど、そこは東京本社のお膝元故なのかきっちり本社と同じでとてもやりやすかった。

昼休みのチャイムが鳴り、各々が普段食べているであろう人たちと外や社食へと向かう。

今日来たばかりの私は食べる人もいなくてぼっち飯かとため息をついたら、赤葦くんから声をかけられた。

「名字さん、入社の研修で一緒だった赤葦なんだけど覚えてますか」

忘れるわけないやろと叫びたいのを耐えた。
私の心を抉る言葉をかけたのはお前だけやぞ。

「うん、覚えとるよ。そんな簡単に忘れるわけないやん」

「よかったらお昼一緒に食べない?美味しいところ知ってるんだ」

ぼっち飯と赤葦くんとを天秤にかければ、ギリギリ赤葦くんに傾いた。
同期とご飯、言葉だけ聞けば悪くない。

「食べるとこ知らんからありがたいわあ」

何が食べたいとか言わなかったのが悪かったのかもしれない。

連れてこられたのはサラリーマンのおっさんたちがぎゅうぎゅうに詰まった定食屋で、仮にも女の子を連れてくるならもっと他にあったやろと言いたい。

「名字さんは何食べる?」

「え、じゃあ生姜焼き定食…」

すみませんと店主に声をかけて注文をしてくれたけれど、正直今すぐ会社に戻りたい。
何が嬉しくておっさんに囲まれてご飯を食べなきゃいけないのだ。
しかも赤葦くんは私と会話を広げる気がないのか何も喋らない。
何故誘ったんだ。

しばらくしたら「お待ちどうさま」と恰幅のいい女性が私たちの元へとご飯を運んできてくれた。

想像していたよりも美味しそうな生姜焼きに思わずお腹が鳴る。

お互い手を合わせていただきますと言い、目の前の定食へと手を伸ばした。

甘辛いタレの味がご飯に絡む。
前言撤回。
赤葦くん、連れてきてくれてありがとう。

夢中になって頬張れば、瞬く間に目の前のお皿は空になった。

「ごちそうさまでした」

会計を済ませて外へ出ると、それまで口を閉じていた赤葦くんが私へと話しかけた。

「気に入った?」

「うん!めっちゃ美味しかったわ。次は唐揚げ定食にでもしようかなと思っとるんやけど赤葦くんのオススメは何なん?」

「焼き魚かな。特にホッケが美味しいと思う」

「ほんなら次はそれやな」

現金なものでお腹も膨れて美味しいご飯も食べれば赤葦くんへ抱いていたマイナスな感情もどっかへいった。

「名字さんさえよければなんだけど、仕事終わりにご飯でもどう?」

「お、また美味しいとこ教えてくれるん?助かるわ〜」

「いや、デートのお誘い」

サラッと放たれた言葉にギョッとして見た赤葦くんの顔はいつもと変わらない無表情だったけれど、ほんの少しだけ赤く染まった頬から私たちの関係を大きく変える言葉であることは容易に想像がついた。

転勤した先で同僚の赤葦と再会