不運なことに、くじ引きの結果前期の図書委員に任命されてしまって早数ヶ月。始めは全く乗り気じゃなかったし、むしろ面倒だと思っていた。委員会に費やす時間があるならバレーのことを考えていたい。そんな気持ちも初回の顔合わせで吹き飛んでしまった。なぜなら“あの”名字先輩がいたからだ。 ・名前先輩
今まで全く関わりがなかったものの、色々な噂が飛び交う渦中の名字先輩のことは前々から気になっていた。その噂達は悪い話ではないものの、あんなに好き勝手言われて気にならないのだろうか。注目されるというのもそう良いことだけでもないと当事者でもないのになんとなくそう考えたこともあった。そんな高嶺の花とも言えそうな先輩が目の前に座っているを目の当たりにし、当時の自分はそのくじ運に少しだけ感謝をした。
図書委員はペアとなり持ち回りで図書室の管理を任されている。図書委員同士の親睦を深めようということで、そのペアは学年を跨いで組まれた。図書委員はどうやら初回の顔合わせの時、教室に四角く配置された机の正面に座っていた人同士をペアにするのが恒例となっていたようで、今回もその流れを踏襲する形で偶々目の前に座っていた先輩とペアを組むことになったのだった。そして遂に今月は自分達がその当番となる月だ。
貸出本の受付はもう一組のペアに任せて返却された本を本棚へ戻すことなり、受付の傍に積まれた返却本の山を一気に抱える。当然といえば当然なのだが、自分と比べて名字先輩はとても華奢で、思わず自分が本を抱える役目を買ってしまったのだ。最初は「二手に分かれて戻した方が早いんとちゃう?」と遠慮の色を見せた先輩も、本の場所把握してない自分が一人になるよりも二人でやった方が早いという意見に「なるほど」と頷き隣に並んで歩き始める。
「宮くんはほんま力持ちやなあ」
「別にこれくらい普通やと思いますけど」
「指怪我せえへんように気をつけてな。セッターなんやろ?」
「や、はい、…え?」
「あれ?違った?」
ほぼ初めましての先輩が自分のことを知っていたことに思わず狼狽えてしまい、不思議そうな顔をした先輩がこちらを見上げて首を捻る。
「あっ…てます、けど」
「そうやんな?間違えんでよかった!」
なんとなく壁を感じていた先輩が自分のことを知っていたというだけで、なんだか急に親近感を抱いてしまう自分は相当チョロいとは思うものの、自分だけに向けられた笑顔を目の当たりにすると、どうしてもつられて自分の頬も緩んでしまう。
「金色がセッターの侑くんで、銀色がウイングスパイカーの治くんやろ?うちのクラスでもよう話題になるからなあ」
「…それ悪口と違いますよね?」
嬉しいような、恥ずかしいような、少しくすぐったく感じた言葉についひねくれた返答を返してしまうと、クスクスと笑いながら名字先輩は悪戯な表情で「やましいことでもあるん?」と言った。一体今はどこまでの冗談が許されるのか、なんとなく距離感が掴めずにいるせいで気の利いた返答が出てこず、「いや…」と思わず口籠もってしまう。
そんな反応を見た先輩はまた可笑そうに小さく笑った。
「あ、髪にゴミついてんで」
「え?」
不意にそう言われて咄嗟に髪に手を伸ばそうとするも、自分の両手は塞がっている。一旦両手に抱えた本を机に置こうと動くと、先輩は「ここで屈んでくれたら取るよ」と言う。一旦置いたものを抱え直すよりも今屈んだ方が労力的には少ないので、お言葉に甘えてその場に屈んだ。
「宮くんを上から見るのって新鮮やな」
「そりゃそうでしょうけど、できれば早くしてもらえます?」
「はあい」
間伸びした返事と同時に伸ばされた手は、そのまま優しく髪の毛をひと撫でして元の位置に戻っていく。前屈みの体制で顔を覗き込んだ先輩は、そのまま「なんて、嘘やけど」と飄々とした様子で言う。
「は?え?」
「なんや、案外冗談通じへんタイプなん?」
「そんなこと、ない、ですけど…」
予想もしていなかった出来事に、思わず顔に熱が集まるのを感じた。目に見えてたじろぐ様子を見た名字先輩は、にっこりと笑ってダメ押しのように耳元で囁く。
「私、去年も図書委員やってん。だから当然ペアの決め方も知ってた」
思わず固まった自分を見て、悪戯に笑った先輩は何事もなかったかのように「さ、続きせなね」と姿勢を直した。
その言葉の意味を聞くのはとても野暮なような気がして、喉まで出た言葉はそのまま飲み込む。そのまま先輩の隣に並ぶと、先ほどより少しだけ赤らんだ耳が見えた。
・憧れの存在
・委員会が一緒になった
・意外と話しやすい
・一緒に帰る