「なぁ、それ本気で言っとるん?」
終業間近のエレベーターで二人きり。
同期の宮くんが私にそう詰め寄ってきたのにはわけがある。
話の発端は2週間前。
飲み会の帰りにたまたま二人きりになった。
と、いうのも宮くんは帰る方が違うにも関わらず「夜遅いから」と言って私のことを駅まで送ってくれたのである。
その別れ際、改札へと行こうとした私の手を後ろへ引き「俺、名字さんのこと好きやねん」と俯いたまま言われ、私がなんて返そうか考えてるうちに「…また来週」と気まずそうに手を離された。
告白されたと頭が理解した時にはもう宮くんの姿は見えなくて、果たして今あったことが現実かどうかもよくわからなかった。
土日を挟んで迎えた月曜日、気まずいまま顔を合わせたのにも関わらず、宮くんには何事もなかったかのように挨拶を返された。
やはり先週末のことは気のせいだったのだろうか。
飲み会の帰りで酔っていたし、宮くんは少し素行の良くない先輩たちと飲んでいたからもしかしたらそこで罰ゲーム的な何かがあったのかもしれない。
それなら私が大真面目に返事をするのはバカを見るだけ。
宮くんが何も言ってこない以上、あの日は何もなかったということにしておこう。
そう自分に言い聞かせ一週間が経つと、告白されたことなんてすっかり頭から抜けていた。
そして今日、一週間を終えた金曜日。
いつものように荷物を纏めて同僚たちに挨拶をして帰ろうとしたら、宮くんも丁度帰るみたいでエレベーター乗り場でバッタリと会った。
「名字さんも今帰りなん?」
「うん、宮くんも?営業さんて遅いイメージだけど今日は早いんだね」
「ちょっと用事があってな」
「へー、彼女とデートとか?」
何にも考えずに出た言葉だった。
宮くんみたいなイケメンだったら彼女がいても不思議じゃないし、妙齢の男性の週末の予定としては一番可能性があると思ったのだ。
そして、冒頭の言葉である。
「俺、この前名字さんに告白したよな?」
180cm超えのイケメンに壁ドンをされているにも関わらず、トキメキなんて微塵も感じなかった。
鬼気迫るその表情に、ただ恐怖しか感じない。
「告白、したよな?」
再度そう言われ、やっと先々週の出来事が脳裏に蘇った。
あれ、本当に告白だったのか。
「彼女なんておらんけど?俺が好きなんは名字さんだけやからなぁ」
ニコリと笑われたのに背筋には冷たいものが走る。
「で、返事は?」
「お、お友達からとかなら…」
「は?ここまで待たせといてそれはないんちゃう?」
「いやだって私宮くんのことあんまり知らないし…」
「知ったら付き合うてくれるん?」
「や、それは…」
返答に窮したとき、タイミングよくエレベーターが一階へと着いた。
開く扉に、慌てて宮くんが私から離れる。
そのまま逃げようとした私のジャケットの裾を掴み「…俺のこと知らないって言うなら知ってや」と拗ねた口調で言う宮くんに、落ちた。
可愛すぎる。
普段あんな格好いいくせに、こんな顔もするのか。
「ほんま好きやねん。付き合うて?」
下げた眉、尖らせた唇。
誰が嫌と言えるのだろうか。
「…わかった」
「ほんま!?」
途端パァッと輝いた表情に、この先宮くんに勝てる日が来るのだろうかと頭を抱えるしかなかった。