夏休み中は部員だけじゃ手が足りず、毎年臨時のマネージャーを頼んでいる。 お題:早く会いたい
正規のマネージャーがいれば済む話なのだけれど、新年度に募集して集まった女子部員は下心ばかりが透けて見え、マネージャーの仕事もバレーのルールも覚えず早々にクビになった。
やる気がないなら最初からやらないでくれればいいのに、毎年懲りずに誰かしら応募してくるのには辟易するしかない。
そんなこんなで、去年も名前に頼んだし今年もお願いしようと思っていた矢先、名前から「今年はお祖父ちゃん家に遊びに行くんだ」と嬉しそうに報告された。
お願いしていなかったのだから名前がどこに遊びに行こうが名前の勝手なのだけれど、名前が俺らよりも優先するものに対して嫉妬にも似た感情がぐるぐると渦巻き、気づいた時にはあまりにも子どもみたいな言葉が口をついて出ていた。
「夏休み中は俺らのマネージャーやるのになんで予定入れんねん!」
「はあ!?そんなん聞いとらんけど!?」
「去年もやったんやから今年もやるに決まっとるやろ!?」
「頼まれなきゃないもんやと思うわ!」
「そんなら今頼むからその予定キャンセルしいや!」
出てしまった言葉をなかったことにはできなくて、後に引けなくなった俺に、名前は聞いたこともないような冷たい口調で「私は侑の所有物と違うやろ?なんで私の予定を侑に決められなアカンの?」とど正論をかましてきた。
俺がぐっと言葉に詰まったのを見て、話は終わったと言わんばかりに去る名前の後ろ姿はどんどん見えなくなっていって、自分の手のひらから零れ落ちていくような喪失感に俺は立ち尽くすしかなかった。
「一緒におりたいからって素直に言えばええのにアホやな」
「だ、誰があんな女と!」
むしゃくしゃする気持ちをぶつけるように側にあった石を蹴飛ばすと、サムに「子どもか」と心底呆れた顔をされたけれど、いつもの名前なら言わなくてもわかってくれたはずなのにという気持ちがどうしても消えてくれなかった。
たった一言ごめんと言えば済む話だったのに、拗らせたのは間違いなく俺。
気づけば八月も半ばを過ぎていて、名前と連絡を取らなくなってから一ヶ月が経とうとしていた。
こんなにも連絡を取らなかったのは初めてで、もう今更なんて言っていいかわからなかった。
お祖父ちゃんの家に行くと言っていたし、日付的にもう帰ってきてもおかしくはない。
それなのに一切連絡がないところを見ると相当怒っているに違いない。
愛想を尽かされ、見放されるのが一番怖かった。
小さい時からずっと好きで、言葉にはしていないけれど俺の気持ちなんて筒抜けだったと思う。
それがこんなくだらない喧嘩で、一ヶ月近くも連絡を取らなくなるなんて。
会いたい。
そう思った時、手元のスマホがぶるりと振動した。
『新規メッセージ一件』
震える思いでロックを解除したのにきたメッセージは同じ家にいるサムからで、このタイミングで名前からくるなんてそんな都合のいい話があるわけがないかとため息を吐く。
『名前、明日帰るみたいやで』
それと同時に送られてきた画像には名前が見たこともない男と楽しそうに川辺でBBQをしている姿が写っていて、胸の奥底からドス黒い感情が湧き出てくる。
俺とは連絡を取ってへんのにサムとはやりとりしてたんか。
隣の男誰やねん、距離近すぎやろ。
謝るとかもうそんなことは頭から抜けていて、明日帰るという名前にこの写真の男が誰なのかを問いただすことしか考えられなかった。
そんな気持ちのまま寝たのが悪かったのか、夢見は最悪。
名前の名前を呼んでも俺の声は聞こえないのか、知らない男とそのまま楽しそうに歩いていく。
手を伸ばしても届かなくて、悲痛な俺の叫び声がただその場に響くだけだった。
ハッと飛び起きたけれど、一瞬、夢なのか現実なのかわからなかった。
夢と呼ぶにはあまりにもリアルで、しかし、現実と呼ぶには少し曖昧だった。
嫌な音を立てて鳴る心臓が落ち着くまで深く息を吐き、今は何時だろうかと見た時計は夜中の三時を悠に過ぎていたと思う。
おかげで朝オカンに叩き起こされるまで目覚ましが鳴っているのにも気づかなかった。
サムはすでに準備を終えて家を出ようとしていて、俺も慌てて朝ごはんにと用意されたパンを咥え、追いかけるように家を飛び出した。
そしていつも乗るバス停で、名前が写真の男と楽しそうに話している姿を目にしてしまったのだ。
名前の視線は一瞬俺らの方を向いたけれど、すぐに逸らされ件の男の方へと向き直ってしまった。
夜に見た夢が、脳内をフラッシュバックする。
でもここは夢ではなく、現実。
手を伸ばせば名前に届くし、俺の声も聞こえる。
ズカズカと二人に近づき、男から引っぺがすように名前の腕を引いて自分の腕の中へと収め、叫ぶように男へと言い放つ。
「こいつは!俺のや!!」
少しの静寂の後、名前の声が響いた。
「侑のアホ!!」
「アホとはなんや!こっちは名前が早よ帰ってこんかと待っとったんやぞ!?それなのに久々に会ったら知らん男と仲良くしよって!」
「ほんっまにアホ!!」
二度目のアホ呼ばわりにムッとして名前の顔を見ると、怒りというよりは羞恥に近い表情で、瞬時に自分が何か勘違いしていることをわからされた。
「この子は従兄弟や!!」
バチーンといい音と共に目の前に星が飛び「侑なんてもう知らん!」と叫ばれ、そのまま名前は従兄弟の手を引いてバス停から逃げていった。
横で腹を抱えて笑っているサムを見るに、コイツは全部知ってて俺にあの写真を送ってきたのだろう。
「恥ずかしいやつ」
「サム、お前ほんまふざけんな」
くそ、部活終わったら絶対に逃さへんぞ。
そう固く心に近い、来たバスへと乗車した。