819の日

中3の時、バレーなんて辞めてしまおうと思った。

周りの子の親はみんな背が高いのに、うちのお父さんもお母さんも平均以下。

親戚の誰を見ても背が高い人なんか一人もいなくて、私が伸びる可能性はほぼないに等しかった。

「名前上手いんだから辞めるの勿体ないって!」

「リベロはダメなの?」

みんな優しさから言ってるのはわかるんだけど、私のことを見下ろしながらそう言われて誰がはいそうですねってなると思うんだろうか。

チームメイトへのコンプレックスがもう限界値をとっくに超えていて、一人河原でボールを抱えて泣いていた時だった。

「あれ、キミもバレーやってるの?」

見たことのない男の子。

背が高くて髪の毛がツンツンしてて、目つきがちょっと悪い。

「クロ、怖がってる」

隣にいた金髪の子が私の顔を見て、その背の高い男の子を止めてくれた。

「え!?あー…怪しいモンじゃないヨ?俺ら音駒のバレー部なの」

素性が知れたところで怪しいのは変わりないのに、焦った様子で話す彼を見ていると、警戒していたのがバカみたいに思えた。

悪い人じゃなさそう。

「で、バレーボールやってるの?」

「もう辞めますけどね」

「え!なんで!」

「…身長、低いからですけど」

みんな、こう言えば仕方ないねって困った顔をするのに、彼は難しい顔をしてそのまま黙ってしまった。

どう慰めようとでも考えているのだろうか。

「バレーボール嫌いになった?」

「え?」

「身長が低いのはわかったけど、バレーまで嫌いになったの?」

見透かされたような瞳に、嘘はつけなかった。

「…嫌いじゃない、です。好き、大好き」

「じゃあさ、続けようぜ」

「でも」

「世の中には小さいWSやOPだっているし、ポジションに拘りないならLiだっていいじゃん」

「でも、小さいからやってるって思われるのが嫌で…」

「え?リベロって小さい人がやんの?」

「…え?」

「違うデショ。リベロはチームの守護神だろ。それに、小さいからってだけで好きなもの諦めるのは勿体なくね?」

ストン、と私の心にその言葉が落ちた。

そうか、背が低いからとかじゃなくて、私がチームを勝利に導きたいからなるのか。

好きなものを理由をつけて諦めないで、続ける理由を探せばいいんだ。

「…バレー、続けたい、です」

「うん、ガンバレ」

他人事なのに心底嬉しそうに笑った彼に、心を射止められたと気づいたのは私が彼を追いかけて音駒に入り大分経った後。

そしてそんな彼が“ネットを下げるべく”邁進しているのを知った時、あの時の私にかけてくれた言葉は優しさだけじゃなくて、自分の夢への一歩だったのかも知れないと妙に腑に落ちた。

「黒尾先輩、私、あの時先輩が声をかけてくれたから今バレー楽しめてるんですよ。なんかお礼させてください」

「え〜?お礼?んー…名前チャンが有名になって“バレーボールは楽しい”って広めてくれたら俺も報われるってモンよ」

「先輩が繋いでくれたものですから、役に立てるよう頑張ります!」

黒尾先輩がくれた大切な気持ちを胸に、今日もバレーボールに勤しみます。


黒尾鉄朗
高校生
形のない贈り物