学生達の貴重な時間である昼休み、たまたま購買で出会った治と角名、銀島は、そのまま一緒に1組の教室で昼食を取っていた。侑は委員会の用事があると同じクラスの銀島に言い残し、昼休みも早々に教室から姿を消したらしい。
「にしても侑が真面目に委員会の仕事なんてすると思えへんけど」
「それがなんでか知らんけど最近よく顔だしてんねん」
「女でもできたんか?」
「双子やのにそのへん知らんの?」
「双子やからってなんでも知ってるわけないやん。気色悪いこと言うなや」
何個めか分からないパンを齧りながら心底嫌そうな顔をした治は銀島を一瞥する。そのやり取りを横目で眺めていた角名は、何か合点がいったような顔をしてゆっくりと口角を上げて口を開いた。
「……あの侑が唯一歩幅を合わせて歩く人、誰だか知ってる?」
角名の言葉を聞いて目を丸くした二人はお互いに顔を見合わせた。
「はあ?あの天上天下唯我独尊の侑が?」
「あいつ誰かに合わせるって事知ってたんや……」
「まあ百聞は一見にしかずって言うし、せっかくだから見に行ってみる?」
意地悪そうな表情を浮かべた角名につられ、治と銀島もニヤリとする。その表情から同意を汲み取った角名は、手元を簡単に片付けて腰を上げた。
◯
角名に先導されて移動した先は図書室だった。三人は静かな空間に遠慮しつつも空いていた席に腰掛け、キョロキョロと辺りを見回して目的を探す。本棚の影からちらりと見えた金髪を見つけ、「ほら、あそこ」と角名がそちらを指差す。指差した先には、顎の下ほどまで積み重なった大量の本を抱えた侑が隣にいる女性に笑顔を向けている姿があった。
「うっわ、侑の隣におるんあの名字先輩やん」
思わず銀島が漏らした言葉に、隣にいた治が頷く。
銀島が“あの”と言うのも、侑の隣の女性はある意味稲荷崎高校の有名人だったからだ。才色兼備が故にどこか近寄り難く告白して玉砕した人も数知れずだとか、テストで一番以外を取ったことがないだとか、実は深窓の令嬢だとか、そんな勝手な噂が違う学年の耳にも入るほどに飛び交っていた。
「しっかしあいつ今まで見た事ないレベルで笑ってんなあ」
「しかもほんまにちゃんと名字先輩に歩幅合わせてんねや」
治と銀島が幽霊でも見たような顔でそう溢したのを見て、角名は面白そうに笑う。
「この間偶々図書室に用事があって来たんだけど、その時もあの二人がいてさ。どうやら図書委員の仕事っぽいんだよね」
「ツムが図書委員とかほんま笑かすやん」
「立候補おらんかったからくじ引きで決まってんけど、そん時は死ぬほど嫌がってたんに今じゃノリノリで行ってた理由はこれなんか…」
三人が興味津々に眺めている先で、侑が両腕で抱えた本の山を隣の先輩が次々と本棚へ戻していく。もちろん身長差がかなりある侑が抱えた本の一番上は先輩には高い位置にあるため、その度に侑は手に取りやすい高さまで腰を落とす。その作業中も二人は笑顔で談笑しつつ和やかな雰囲気だ。
「絶対あんな作業普段なら“俺が指怪我したらどないすんねん!”言うて嫌がりそうやのに」
「ほんまわかりやすいやっちゃな」
視線はそのままに銀島と治が呆れた声でそう話していると、再度屈んだ侑の髪に何かを話しながら先輩の手が伸びたのが目に入ってきた。その会話こそ聞こえないものの、侑からすると予想外だったに違いない事が顔に集まった熱から窺い知れた。
「まあ、なんか今回はガチっぽいし侑がなんか言ってくるまで見守ろうよ。そのほうが面白そうだし」
「…せやな」
よく知っていると思っていた侑の見たことがない一面を目の当たりにした三人は、なんとなくこれは茶化すべきものではないと察してしまい、静かに席を立った。
「なあ、この後ツムとどんな顔して会えばいいん?」
「それは俺も知りたい」
「普通でいいんじゃない?」
「簡単に言うなや」
ケラケラと笑う角名を横目にため息をついた二人は、言うまでもなく部活までの時間を悶々と過ごす羽目になったのだった。