過去の自分がいるから



(川島瑛太)



話は冬休みが終わり、三学期に突入してしばらくした時の金曜日。

部活はあるんだけど、検定前で補習は強制参加。これが自分にとって1番辛いものだったりする。
この1週間、朝練以外で部活には行けてない。しかも朝練も自由参加形式だから、バス等の都合で朝練に来れない人とは顔も合わせてない。早くこの検定地獄が終わってほしいよ、本当に。


冬休みの終わりが近づいてる頃に自分達は大事な大会があった。団体の選抜予選。惜しくも全国大会出場にはならなかったが、自分はとても良い経験をした大会だ。

自分は団体のレギュラーに抜擢された。1年の時からの目標で、練習を頑張って来た。先月のインドア大会からペアを組んでる真司と。そして地区予選ではレギュラーから外れたから、この大会が自分自身初めての団体戦となる。

大体西星の奴らは中学の時に団体戦は経験している。高校からの初心者じゃない限り。でも俺は経験していない。いや、経験できなかった。







補習が終わったのは6時半。本当は5時半で終わるのに、問題に苦戦して先生に教えて貰ってたらもうこんな時間だ。

テニス部ももう部活終わった時ぐらいだろうか。部室に向かおうとしたら柊弥に会い、「川岸先輩達なら教室にいますよ」と言われた。

部室から司のクラスに行くにはまず1年の教室の前を通ってから階段を降りる。すると1年F組の教室に電気が付いてて、見覚えのある姿が見えたのだ。七星ちゃんだ。

「あれ、七星ちゃん?」
とりあえず声をかけてみた。

「あ、川島先輩こんにちは!」
「何してたの?1人で」
「パソコン室で調べ物してから池田先生に会って話して、今帰ろうとしてたところです」

池田先生とは俺らの顧問の先生だ。テニス部を応援している七星ちゃんのことは結構お気に入りなようだが。


「ところで川島先輩に1つ伺いたいことがあって…」
と、突然聞かれる。

「この間、北内先輩からチラッと話聞いたんですけど、中学の時川島先輩がケガでほとんど部活できなかったっていう話を…」
「あー、確かに颯に言われたわ。今度会ったら話してみたらって」
「あ、気になってただけですので言いたくなかったら全然…」
「いーよいーよ、過去の話なんてそんな恥ずかしいことでもないし」


しかもこの話わりとみんな知ってるし。ましてや女子部も知ってるし今更どうこう言う問題じゃないし。



俺は中2の秋の練習試合中に、ケガをした。派手に転んだのだ。それこそ颯とペアだったから、あいつにはとても迷惑をかけた。

靭帯損傷。今後テニスを続けるには手術しなきゃダメだと言われたから、するしかなかった。テニスができるなら何でもよかった。

でも時期が時期。ケガをしたのは団体の新人戦のある一週間前だった。
俺の代わりに後輩が出て。せっかく自分たちの代になってレギュラーにも入ったのに、試合に出れない自分がとても悔しすぎた。


手術は1ヶ月後に行われ、 完全にスポーツができるまでにも数ヶ月かかると言われた。

3年の初夏には普通に動けるまで治ったが、問題はここからだった。

団体戦には出させてくれなかった。

試合に出れても最後の中体連の個人戦だけ。
それも星華中の永井金井ペアに初戦敗退。悔し過ぎた。本当に。
ひたすらマネージャーの仕事をこなして、中学の部活を引退した。



そんな自分を影で見てくれていたのは西星高校のソフトテニス部でコーチもやっている平先生だった。中学の先生とは知り合いで、何度か自分のいた中学の部活にも来てくれたことがある。西星高校の部活体験に行った際に、コーチのほうから話しかけられて、話を聞いた。

だから高校では西星で続けようと思った。だから西星高校を専願受験した。
もっと学力あるのに何故良い高校に行かないのか、と親にも聞かれたが。俺はどうしても西星が良かった。






「…でも、西星に来てからが大変だったよ」

話しながら思い出す過去の自分。泣きそうになる。懐かしすぎるからなのか、恥ずかしいのか、分からない。



「今の2年部員は歴代最多って言われるくらい多いのは分かるよね?その中で、中学の時から活躍してきたプレイヤーが何人もいる。俺の入る隙はないぐらいに。」

特に野本智。中学時代は地区大会の王者だった北戸野本ペア、で聞いたことはある。
中学の時は当たったことはないが、校内試合で初めて当たった時、こいつは本当にバケモノかと思ったぐらい。ボコボコにされた。

彼は市外の強豪校の推薦を断って、西星に来たらしい。まあ理由は、この歳で地元を離れるという決断ができなかったと言っていたが、それでもだ。



「野本智を超えること、を目標としてきた。でもあいつはジュニアの時から注目されてるし、レギュラーだし。」
「たしかに3年生いた時の唯一の2年生レギュラーでしたよね」
「その唯一、が大事。特に今の3年なんて安定の強さだったから。」

それに今年は毎年6月に県内の中心部で開催されている全国大会に、高倉先輩と組んでる智はダブルスで出場した。より注目されるようになった選手だ。


一方俺は地区予選でも、1年の初めの方は初戦敗退が当たり前だった。それが悔しくて練習を頑張って、昨年度のインドア地区予選でようやく上へと進むことができた。


だから俺は、高校で1から始めたような感覚だ。まあ中学も前半しか部活をちゃんとできなかったから。

だから夏の国体地区予選で勝ち抜いて、県予選へ進めたのは大きな一歩だったと思う。あの時は司とペアだった。

新人戦は県大会出場をギリギリで逃したが、先月のインドア予選では見事に福島・野本ペアを下して2位に入賞できた。智に勝つことができた。これもまた、大きな一歩。



「でも、そこまで駆け上がって来れた川島先輩がとてもすごいです…。努力したんだなって思います」
「そう思ってくれるなら有難いよ。でもまだ終わってないんだから、これからが勝負だなって。」


1度どん底に落ちても、駆け上がることはできる。俺自身も最初は無理だと思っていた。でも積み重ねることによって、上に上がっていく。できないことではないんだ。やる気があるかどうかが問題だ。結局は。

レギュラーに入ったからと言ってこれで終わりではない。まだ、レギュラーから外れた部員にとってはチャンスが2回ある。特に地区でレギュラー入りした大紀や、個人戦でも数々の大会で県大会に出てる華月や晴日など、同じポジションにライバルは沢山いる。いや、いすぎる。


「でもそんな環境でやってきたから、今の自分がいると思うんだ。昔に比べたらかなり強くなってるとは思う。自分で言うのもなんだかだけど。」

ライバルが沢山いるからモチベーションはもっと上がる。強豪校の良いところって、こういうところかもしれないな。


「先輩の話聞かせて頂いてありがとうございました…!本当に、頑張ってください…!」
「はは、ありがと、 俺もやる気出てきたわ、早く検定終わって部活したーい!」
「あれ、先輩今部活行ってないんですか?」
「そうなのさー、週末検定だし模擬試験受からないしで」

商業科の部活生のデメリットだよな本当に。しょうがないけどさ。



「あと先輩、彼女さんともお幸せに!」
「それやっぱ知られてた?」
「みんなに話聞いてますよー?あと先輩の彼女さんめちゃくちゃ可愛いですよね…!」
「可愛いしょ?七葉に言っとくわ。」