守りたい女の人2
(北戸真司)
春休みに突入してすぐの話。
1件、電話が。
汰斗先輩だ。
この先輩が急に電話とか、遊ぶ日の待ち合わせ以外めったにないからな。どうしたんだ。
「って、玲佳から話されたんだけど」
と、汰斗先輩は一通り話してくれた。
菜々香先輩と仲の良いのが玲佳先輩。汰斗先輩の元カノということは今は置いておいて、玲佳先輩も菜々香先輩のことは相当心配してたみたいだ。
そこで玲佳先輩が気になったのは、兄との関係性。玲佳先輩が、菜々香先輩とその兄の会話現場に居合わせたらしい。汰斗先輩の姉も何か知ってる様子で。
俺はとりあえず汰斗先輩の知ってる全てを聞いた。菜々香先輩と同じクラスの翔真先輩からは商業科内で流れていた噂は聞いていたが、本人からそんな話も聞かない。その話を振っても、ただのウワサだから、とかなんて話を毎度のように逸らそれていた。
その噂とは、菜々香先輩の身体に傷があるのを見つけた商業科の人が発端らしい。家族のことも話そうとしないし、とか先輩の知らないところで色々と話が作られていたみたい。
「今はどうなのか分かりますか?!」
と俺は先輩に聞く。
「いや、わからん。」
「そうですか…」
一瞬取り乱しちゃった。かなり無意識だった。
本人に聞いたけど、何も無いから大丈夫、と来た。いや、本当に大丈夫なのだろうか。
次の日になる。事が起きたのは。
部活が終わって春太にこの件について聞かれた。玲佳先輩が汰斗先輩に連絡する際に、少々関わったらしい。
「…正直、気分晴れない」
と俺は言う。
モヤモヤしっぱなしだ。なんでだろ。
「でも今日玲佳、また菜々香先輩と会って、話してくるらしいよ。玲佳もああ見えて菜々香先輩のことめちゃくちゃ心配してるみたい。汰斗先輩言ってたけど」
「玲佳先輩、付いてるなら今日は大丈夫か…」
「やっぱり心配?」
「心配しないわけがない」
「まあ、だろうね」
部活の人でこの話できる人正直言って春太しかいない。こいついてくれて助かったわ。
そんなことして2人で歩いて帰ってる途中、俺のスマホに着信が。
菜々香先輩だ。
電話に出ると、電話の先は…菜々香先輩じゃない。
「真司、今から菜々香の家来れる?!」
と。この声は…
「え、玲佳先輩ですか?」
「そう、今どこ?」
「南聖中付近ですけど」
「なら早く!!何でもいいから早く来て!!!」
と、電話を切られる。
クソ、本気で嫌な予感しかない。
とりあえず俺は、先輩の家へ向かった。
「あ、真司早く!!」
と後から玲佳先輩が来る。
「何があったんですか?」
「私が来た時にはもうこんな状態。家の鍵は開けっ放しだし、誰もいないし、その上に菜々香は部屋にこもってるし。」
一体何があったんだ。
「でも入れ違いに菜々香のお兄さん見かけたから、何かあったと思って…」
そこで手渡されたのは菜々香先輩の携帯だった。どうやら、リビングに置きっぱなしだったらしいのを拾い、そのまま俺に連絡くれたらしい。
「菜々香とお兄さんのラインのやり取り見ちゃったんだけど。これ、」
と、渡される。親がいない日を見計らって、兄は家に帰っていたとのことらしい。
「これ、菜々香に返しといて。菜々香のことは心配だけど、真司来てくれたからもう大丈夫だって信じてるから。」
「…ありがとうございます。」
とりあえず、先輩の部屋の前まで行く。
部屋の鍵まで閉まっているようだ。
ノックして、俺は呼びかける。
「菜々香先輩、開けてくださーい」
と。
「え、真司?」
「そうですよ」
「嫌、今は、誰とも会いたくない…」
んっとに、これだからこの人は。
「なんで会いたくないんですか」
「だって、こんな姿見られたくない。」
「どんな姿ですか。」
「あ、いや…」
さすがに俺でもイライラする。いや、菜々香先輩にイライラしてる訳じゃない。多分理由は一つしかない。
「とりあえず、早くここ開けてもらえません?」
と俺が言った数十秒後に、鍵が開いた。
「…なにこれ」
ほぼ剥ぎ取られてる服、辺りが散らばっているようで、菜々香先輩もいつも以上に元気がない。
「どうしたんですか、その格好」
俺は先輩を抱きしめた。すると先輩は泣き始めた。
「全部、話すね。」
と、今までのことを全部教えてくれた。兄から定期的に襲われてたこと、今日も、襲われかけたこと。
「今日は玲佳が家に来て、そのインターホン鳴って、何とかなったけど。でも、玲佳に顔合わせられない…」
なるほど。それで玲佳先輩はあそこにいたんだ。
「玲佳先輩、菜々香先輩のことかなり心配してましたよ。」
「…ほんと?」
「俺も玲佳先輩から連絡受けて今ここにいるんですから。」
むしろ玲佳先輩が教えてくれなかったらこんな状況だったのも知らなかった。
あんまりいい印象がある先輩ではなかったが、友達思いの先輩だな、と。
「菜々香、はいっていい?」
と扉の向こうから玲佳先輩の声が聞こえる。
「今菜々香のお母さん帰ってきて、全部話したから、とりあえず、1階に降りてきて」
玲佳先輩が言う。
1階へ向かい、菜々香先輩はお母さんに全てを話した。そして、被害届を出すという話にもなった。
先輩が震えそうになった時、俺は先輩の手を握り続けた。少しでも、不安が無くなるなら…。
外へ出た。少し、散歩しようということになって。
「じゃあ私帰るね!」
と玲佳先輩はいなくなる。
「あ、その前にちょっと真司!」
と呼ばれる
「なんですか」
と返すと、先輩は小声で
「次は真司が菜々香に手を出す番だよ」
と言われてしまった。
「えっ…」
「うわ顔真っ赤!2人ともお幸せにね!」
玲佳先輩はいなくなった。
「顔真っ赤だけど何言われたの?」
と菜々香先輩に聞かれる。いやこれ、答えづらいなぁ。
「そのうち、わかりますよ」
と今は濁しておこう。今は。
気づいたら俺の家の前まで歩いていた。
「どうせなら、俺の家来ます?」
「たしかに真司の家入ったことない」
「でしょ?」
少し肌寒くなったし、何か暖かいもの飲みたいなと思い、家の中に入った。
もう春が近づいてるけど、寒いものは寒い。ホットココアを入れた。
「真司の家今誰もいないの?」
と聞かれる。
「今はいないですね*、両親共働きなので」
今は15時。まだ2時間以上ある。
「お兄ちゃんいなかったっけ?」
「あー、彼女と同棲中ですね」
俺の兄は5つ上。でも高卒で社会人になって、最近までは一人暮らしをしていたが、最近、3年付き合ってる彼女の妊娠が分かって、先月から彼女と同棲中。近々入籍もするみたいだ。
と、先輩に言うと…
「え、おめでたい!じゃあ真司叔父さんになるのか*」
「そうですね。俺年下の親戚いなかったんで楽しみなんですよね」
いとこも皆年上だし、俺が最年少だったんだよな。
「っていうか、すごいね、賞状の数」
「あー、ほとんど中学の時のものですけどね」
部屋には一応、今までの大会の賞状やメダルなどを飾ってある。部活の物や服も全て自分の部屋に置いてあるため、俺の部屋の半分以上は部活のもので埋もれている。
「中学とか、1位ばっかりじゃん」
「一応個人戦はほとんど地区制覇しました。ペアが上手かったんでそれが大きいですけど」
智とは中学三年生の時までペアを組んでいた。高校でも入部当初から大活躍している。
俺は先輩を後ろから抱きしめた。とても安心するな、この感覚。
「どうしたの、」
「んー、なんででしょうね?」
「急に甘えたがるね」
「先輩が可愛すぎるから。」
先輩のほうからは唇にキスをしてくる。思わず舌を入れてしまう。
そして先輩の首元に、吸うようにキスをした。
正直俺にも限界が来てる。このまま雰囲気に持っていかれたら、完璧に最後までしてしまいそうな勢いだ。
「真司となら最後までしてみたい」
と、唐突なお願いをされる。まあ、さっきまであんなとこあったからな。
「あー、これ以上は、俺も抑え効かなくなりますけど」
「別にいいのに、遠慮しなくて」
「言いましたね?あとは知りませんよ?」
俺らしいのか、らしくないのか。
意外と俺って、がっつくんだなぁ。
そして、幸せだなぁ。
その数日後。
「それで結局最後までヤるってお前も男だな」
「うるせー、少しは黙ってろ」
今日は部活もなく、クラスで仲の良い瑠偉と遊びに来ている。俺と先輩がやり取りしていることも、俺が先輩のこと好きなことも、最初から知っているのがこいつ。って、廊下とかで先輩と会う時にいつもこいつとか、あと春馬とかも一緒にいるから、どんな関係とか迫られただけだけど。
「いやー、何だかんだ俺らの中で1番早く大人の仲間入りしたなー、お前」
「そう言うなら瑠偉も彼女作れ」
瑠偉、意外とこいつ彼女出来たことないんだよなぁ。って、俺のクラスの友達みんなできてるとこ見たことないけど。春馬は中学以来できてないみたいだし。
「まず出会いがないもんコノヤロー」
「バイトとかで女の子いないの?」
「よく話す人で可愛いの何人かいるけどみんな彼氏持ち」
「あ、お疲れっす」
出会い、か。
たしかに俺もあの時翔真先輩がいなかったから話してたのが100パーセントだ。翔真先輩は、俺ってすごい役目果たした?とかこの話する度に調子乗ってるけど。
俺もこの出会い、大切にしていきたいな。