守りたい幼馴染みA
(本間乙也)
インターハイも終わり、来週末の県大会で3年生が形式上の引退となる。もうそんな時期とは早いし、あと1年もあっという間なのかな。
ちなみにインターハイは、初戦敗退しました。勝ち進めなかったのは悔しいけど、来年も、同じ舞台に立ちたいと思えた。自分自身初めての全国での試合だったから。
8月も入ったばかりの土曜日、地元の南市の、西町という場所で、花火大会がある。去年はインターハイの団体戦の応援に行ってたから行けなかったけど、今年はインハイの期間が早かったからね。
そしてこの花火大会、遥香と一緒に行くことになったのだ。うう、緊張する。
今日は自分も緑陽で大会あって、そのまま電車で帰宅して、急いで準備する。
遥香とは駅で待ち合わせていて、そこから西町まで電車で向かう。
「なんか、乙也の私服久々かも」
と、俺の格好を見て言われる。確かに、会う時は全部テニス着。というか、俺がテニス着以外着てることなんて、ほぼない。最近だと。
「ねえそうだ、南畦中の男子が全中ってすごくない?」
と遥香は話を持ちかけてきた。
そう、自分の出身である、南畦中の男子ソフトテニス部が今年、全中出場を決めたのだ。まあ、三日前の話。
「や、それな。びっくりしたわ。南聖いなかった分たまたま組み合わせ良かった感はあるけど」
「それにしてもすごいよねー。」
「ジュニア上がり誰もいない地域だしね。宍戸先生本当にすごいわ」
「しかも個人戦みんな地区予選負けしたのに団体強いよね今の代の男子」
「な。誰か星の里来ないかなー。」
「誘ってあげな??」
「一応先生にはアピールしてる」
南畦中出身の生徒は、男子のソフトテニス部は釜川高校が多いみたい。実際、ここ最近の南畦中の1番手は俺以外みんな、釜川高校に進学しているぐらい。2つ上から、今年の1年生もそう。みんな、頭良いんだよね。
俺の元ペアの秀介もテニス上手いから、星の里来ないかとは言われてたんだけど、アイツは勉強優先しやがったし。
「でも乙也の時もわりと強かったよね?」
「でも県大会は、個人も団体も南が丘に負けた。」
「あー。強かったもんねー。」
「今の部活仲間にも2人いるし。」
俺が中3の夏は、さくら市の南が丘中にどっちも負けたなー。団体は、1番に出た俺たちは相手の3番手ペアには勝ったけど、南が丘の団体戦って1番手と2番手を2番、3番に持ってきてたんだよな。個人戦は、長江山岡ペアに負けてベスト16だったし。その山岡と、2番手前衛の飛鳥は今現在チームメイトだ。
花火大会の会場に着くと、懐かしい面々にも沢山会う。中学の仲間や、他校だった部活仲間に先輩も。
「おーやってんなー」
と後ろから声もかけられる。
「あ、須田さん、」
と俺が相手に気づく。北宮高校の3年生で、ソフトテニス部だった須田咲也さんだった。須田さんは、俺の事を引っ張って、小声で話しかけた。
「え?なに?結局付き合ってんの?」
「まだ!です!」
「まだってことは、付き合う予定あるってこと?」
「そーれは分からないですけど…」
「いい報告期待してるわ」
「いや、期待しないでください!」
須田さんが1番、俺達の話に興味津々なのであろう。ラインでも聞かれるし。須田さんと小学生の元ペアの村瀬先輩曰く、あいつは人の恋バナ大好きだから、と言っていた。
ちなみにその須田さんも、彼女さんと来ていた。結構長いんだったっけ?
それでまだあんなラブラブで、羨ましいなぁとは思う。
花火がもうすぐ始まる、という時。こんな田舎でも、今日は流石に、会場は混雑中。ちょっと気を抜いたらはぐれてしまいそうだ。
そこで遥香は急に、顔色を変えた。
「どうしたの?」
と俺は聞く。
「いる。……元彼が」
と、遥香は俺の後ろに隠れた。でも、相手は気づいていたみたい。
「おー、男のとこに逃げるとは流石ビッチ」
「乱暴なことする人に言われたくない」
「どこが乱暴だって?優しくしてあげてるじゃん?」
「離して!!!」
男の人が、遥香の腕をつかむと。それを強引に振り払った遥香。ただその際…
ここは階段のすぐそばだった。後ろに足を1歩下げた時に、階段に気付かず、足を踏み外していた。
「遥香危ない!!!」
俺は瞬時に遥香のことを助けようとするが、一緒になって転んでしまった。
「大丈夫?立てる?」
と俺は聞くと
「左足…捻ったかも」
と答える遥香。
俺は幸い、膝のかすり傷だけで済んだけど、遥香は全然そうでもなかった。
周りをすれ違う人に、「大丈夫ですか?」
と聞かれてしまい、思わず、大丈夫です、と答える遥香。
「とりあえず、俺支えるから、立てる?」
と俺は手を差し伸べた。遥香はなんとか立ったけど、やはり左足、思いっきり捻っていたみたい。
俺はそのまま、少し遠くの、人影がない場所に連れていった。階段があるので、そこに座って、一休み、ということで。
「とりあえず、支える人がいればちゃんと歩けそうな感じ?」
「今の距離はいけたけど、家まで帰れるかはわからない。」
「んー。どうしようかね。タクシーで駅まで送ってもらうとか」
「でも、高いしょ?」
「こんな時にそんなこと言ってられっか。」
幸い俺も、お小遣い入ったばかりだから、何とかなる。
花火はここからでも少し見えるので、遠くからだけど、眺めることにした。
「乙也ごめんね、せっかく楽しみにしてくれてたのに」
「いや、いいよ。俺一人で見てもつまらん。ここからも見えるかな?ギリギリ」
「だといいね。」
なんて他愛のない話が弾む。
「どうしよう、明日から合宿なのに」
「あ、そうなの?しかも県大会も週末あるじゃん。とりあえずチームメイトとか先生とかに連絡してみれば?」
「…そうだね。」
遥香は、顧問の先生と、部活仲間にも足をケガしたことをラインで伝えた。ケガ、俺も高校入学してすぐに足ケガして、高校最初の大会出てないんだよなー。だからの俺の高校デビュー戦は国体予選だったな。あの時は、怜樹とペアで。
とそこに、人影がした。
「…とりあえず遥香、大丈夫そう?」
とやってきたのは、先程の、遥香の元彼さん。
「足は捻ったけど…」
と遥香は言う。
「本当にごめん。とりあえずほら、こんなことしかできないけど、足冷やすのに使いな」
と、冷たい飲み物を差し出してくれた。
俺は横で見ていると、その男の人に話しかけられた。
「その隣の子、乙也くんだっけ?」
「は、はい?!」
「蓮の高校の部活の後輩なんでしょ?あいつ元気にしてる?」
「あ、そうです。めちゃくちゃ元気です」
「蓮から話聞いてたから。頼れて良い後輩だよって」
いつのまに、村瀬先輩。
俺がインターハイの遠征中にこの話を先輩にしたんだけど。その話、本人にも広まってたみたいだ。なんか、恥ずかしい。
この人と村瀬先輩は、中学の時に仲良かったらしい。だから、ね。
「とりあえずこの前、蓮にこの話されたんだよね。その時に決めた。俺も過去にしがみつくのやめる。だから俺もう、遥香に関わらないようにしようって思って。まあ、最近何もしてなかったつもりだったけど」
と言って、俺もう行くわ、と、男の人はその場を去ろうとする。その時に、お金を差し出した。
「遥香ケガしたの、俺が話しかけたのが悪いし、本当にこんなことしかできないけど、タクシー代でも使いな、」
と。
でも遥香は、
「いらない。もう借りは作りたくないから」
と受け取りを拒否した。
「でも、気持ちだけ貰っとく。ありがとう。」
「…分かった。じゃ。お大事にね」
と、元彼さんはいなくなった。
村瀬先輩の話だと、普段は優しくてノリ良くて良い人で、恋愛にのめり込むとなると人変わるタイプだって言っていたから。やはり、その通りだなぁと、思った。
「…てか乙也、村瀬さんに何か言ってたの?このこと」
「あーっと…ちょっと相談がてら…。須田さんが、村瀬先輩とあの人仲良いって言ってたから、つい」
「いや、いいよ。そのおかげで解決したと思うから。むしろありがとう」
まあ、俺も少しだけ力になれていたのなら、いいよ。
「…とりあえずどうやって帰るか。」
と俺は思った。こいつ、足やっちゃってるからね。
「来る時、西町駅からここまで歩いたよね結構…」
「歩けそう?」
「まあ、ゆっくり行けば、問題ないか。」
「いや、無理すんなよ。」
という感じで、少しだけ花火を堪能したあと、歩いて駅まで向かう。
「…やっぱ無理だ」
と、まだ歩いて少しもしないところで、遥香は限界を迎えたみたい。
「しょうがない。おんぶでもする?」
「え、いや、まじで?」
「それしかないじゃん。変なとこ触ってたらぶん殴っていいから」
俺なんかでも、こいつのこと、しっかり支えることができた。小さい頃も遊んでてこうやって遥香のことおんぶして、高い高ーいなんてやってたけど、あの時は支えきれなくて、そのまま転んで、2人して血出て大泣きなんてこともあった。
「なんか、乙也も男らしくなったね」
「まあ、部活で鍛えてるし」
「流石インターハイ選手は違うね。」
「インハイ選手っつったって、初戦でぼろ負け程度だけどな」
「いやまず、インターハイなんてあんな大舞台に出たこと自体が凄いよ。自慢の幼なじみだよ本当に」
「ありがと。俺は本当に何も出来てないけどな」
インターハイでの試合内容ボロボロだったからあまり大きな声では言えないけどね。
「本当にありがとう、乙也」
と、遥香は笑顔で言ってきた。
……反則すぎる。今、遥香のほうを振り向くこと絶対できない。絶対今の俺、顔真っ赤だ。
距離がぐっと近づいた夜。俺も本気で、彼女のことが好きだと実感した夜だった。