初恋の女の子の存在A
(溝口亘)
8月のさくら市で行われた県大会。この大会で3年生は形上の引退となるが、先輩みんなまだまだ大会残ってるし、大学もあるしで、部活は来るみたいなんだけどね。
平松先輩は、どうやらコソコソ関わってたバドミントン部の女の人がいるらしくて、バド部が3年生引退したつい先日、やっと付き合うことができたとか、とても幸せそうにしていた。数人は知ってた話らしいが、俺何も知らなかったな。
そして俺はというと。いや別に何も無いんだけど、この大会であいつに会えたら、話したいことがある。まあ、会えると思うんだけど。
大会の初日。会場で、幼なじみであり、初恋で一つ下の女の子、宮原栞と会った。そう、こいつだ。
「あ、インターハイお疲れ様です!」
と、まず最初に言われる。
「おーありがと。」
2年生でインターハイ出場できたのは良い経験になれたと思う。とはいえ個人戦だけだし、団体戦は逃してしまったし、俺も団体の決勝の時かなり戦犯かましたから、来年こそは、という意気込みで。
「亘くんってお盆帰ってきますか?」
と聞かれる。
「帰るよー。10日大会終わってからそのまま帰って、14までだけど」
「おお!ジュニアの練習に、是非誘ってきてって言われたので…」
「ジュニアお盆やってんの?」
「ギリ11日はやってます。」
「お、じゃあ行く。」
という感じで、俺が帰省する期間に、少年団の練習にお邪魔することになったのだ。
まあまた後日会えるんだったら、聞きたいことはこの時にゆっくり聞こうかな。
明峰ジュニアは、俺より上の世代は本当に数人しか入っていなかったし、むしろ県大会に出るようになったのも俺からだし、以前まではそこまで盛んではなかったんだけど、最近はわりと県大会に出る小学生も増えたようで。明峰市のソフトテニスが盛んになるといな、って思う。
そんなこんなで帰省して次の日である11日に、ジュニアの練習に出向くことにした。最後に行ったのは高校に上がる、地元を離れる前だったから、1年半ぶりくらい?
明峰ジュニアは、市内の社会人チームである明峰ソフトテニスクラブとの繋がりがあり、よく大人たちとも打たせて貰う機会がある。というか、その社会人チームに所属している選手の子供が、ジュニアに入っているというパターンが多いし、明峰市にはジュニアも社会人チームもひとつずつしか存在しないからね。
練習後、公園のテニスコートから小学生が次々と帰宅していく中、栞に
「久しぶりに亘くんと打ちたいです」
と言われる。
「俺でいいならいいよ?」
「ありがとうございます。」
って感じで、とりあえず打つだけ打つことにした。
わりと手加減なしに普段通りにやってるけど、それでもついてくる、というか、こんな男子の打った球を女子なのにしっかり打ち返せてるからすごいよなぁ。こいつも中学の時県大会で結構勝ち進んでた人だし。まあ、北高でも強いんだけどね。1年生ながら春から活躍しているみたいだし。この前の大会でも、たまたま栞のお母さんと会ったから一緒になってちょっと見てたけど。
って俺も、女子と打つ機会なんて本当に滅多にないから、ちょっと楽しかったけど。
しばらく経つと、コンビニに寄りたいと言われ、ついて行くことにした。というか、自転車で地元走り回るの気持ち良いわ。学校周りだと大学多いから学生ばっかだから歩道も人多いし、商業施設も沢山あるし。
明峰市は自然で気持ち良い。そして地元だからやはり落ち着く。
「……今日のお礼です。」
「あー、別にお礼なんて言われる筋合いないのに」
「誘ったの私なので。」
という感じで、アイスを奢ってもらった。今は8月の中旬、あっついからなー。
アイスを食べ終え、自転車を押しながら。その辺を歩くことにした。
「…で、本当は聞きたいことあるんじゃないですか?」
と栞のほうから話を振られる。
「いや別に聞きたいって訳でもないけど、あいつはどうなったのかは知りたい」
「まあ、梨華も流石に諦めはついたみたいですけどね。迷惑がってるから今後話しかけないであげて、とは言いました。」
「結構ストレートに言ってくれたね」
「じゃないと伝わんないですもん。」
元カノと同じ部活仲間である栞だが、前回の県大会で話してから、こちらのほうでも色々と言ってくれてたらしい。まあ、そこはすまん。
「梨華は国体予選はいませんでしたけど、新人戦は県大決めてます」
「あー。梨華が俺に話しかけて来なければ別に俺は何でもいいんだよね。俺も色々と思い出すから嫌になっちゃうだけで」
「あれって結局どういう話だったんですか?」
「んっとねー。」
と、俺は中学時代、元カノの梨華と別れた時の話をした。
まあ別の男にくっついてた場面に遭遇した訳ですよ。仲良さそうだったし、しかもテニス部の後輩の話によると、そこはそこで、ある程度深い関係にはなっていたらしい。男のほうが、梨華のこと好きだったみたいで。
でもあんな、キスする寸前みたいなもの見せられたら、俺の立場も無いわ。
んな、良く考えれば浮気された感じなんだ。梨華に真実聞いても黙ったままだし、それに俺も、イライラしてそのまま別れるって言っちゃって、ね。
もうその瞬間に、信頼が全部消えた。だから俺はもうアイツとは、関わりたくない、それだけ。
「なんか、惜しいな」
とぼそっと栞は言うが、俺にはハッキリ聞こえていた。
「何が?」
「……いや、何でも…ないことはないんですけど」
「いや、どういうこと」
と聞くと、栞はその場で止まった。
「私だってずっと亘くんのこと好きだった。だから正直、亘くんの初彼女が梨華だってことにも妬いてるんです。何もしてないのに嫌な女ですよね。私。」
急にごめんなさい、なんて言いながら言ってくる栞。
「だから、同じチームメイトの梨華よりも俺に協力してたってこと?」
「正直そうです。だから私もあんまり、梨華のこと好きになれないというか…。」
やーまじかよ。このタイミングでこんなこと言われるなんて誰が思ったか。
「俺の事好きって言うのは、いつの話」
「昔のことです。…でも今も、こうやって話せているのすごい嬉しいので、結局また好きになったゃったのかなって。」
「……嬉しいこと言うじゃん。」
俺も今きっと顔真っ赤だ。突然こんなところで、こんなこと言われるなんて。
とりあえず俺の家の近くにいたので、家に上がらせることにした。多分外ではこんな話できない。でも、続き聞きたいし。この辺住宅街だからお店も何も無いし。
「……俺も、栞のこと好きだった時あったよ。栞が引っ越す前」
「そうだったんですか?でもその時、あんまり話してくれなかったじゃないですか」
「よく言われただろ。お似合いとか何だとかって。それが言われるのが嫌で恥ずかしくて、逃げてただけ。」
まあガキの時は馬鹿なことしたわ。その後、栞が引っ越して中学も離れるなんて知らずに。
「ちょっと今日は、ごめん」
と言って俺は、栞のことを抱きしめた。
この人にこんな感情持つのは本当に何年ぶりだろう。やっぱり初恋の人、落ち着くわ。
「亘くんは、今はどうなんですか」
「……正直今は、あまり恋愛とか考えたくない。」
「ですよね。ごめんなさい、」
「でも、」
俺はそのまま栞のことを近くにあったベッドに押し倒した。そして、そのまま、キスをした。
「こういうことは考えてるよ?」
と俺は言い、栞のことを見つめる。栞はその後視線を逸らして、話を続けた。
「……もう、れっきとした男の人じゃん」
「最初から男ですけど」
「やりたいんですか?したいならいいですよ?」
「別に今とは言ってないけど、そんなにしたいの?」
「したいって言ったらダメですか?」
「…マジで?」
半分冗談で言ったつもりなのに、こいつ、本気かい。
「まあ、はじめてが栞なら俺は嬉しいけど」
「私だって同じです」
「……本当にいいの?俺なんかで。別に俺ら、付き合ってもないのに」
「じゃあ、付き合ってくれるんですか?」
「そういうことじゃない。というか、付き合うどうこうの話は今はいい」
そのまま俺は栞のことを強く抱きしめた。とっても、良い匂いする。
もう俺はその気になっていた。もう今の自分を抑えることなんて、自分にもできないや。
……で結局、俺達は一つになってしまったわけで。
行為後、栞はしばらく眠りに入っていた。それを俺が抱きしめながら、布団の中にずっといるわけで。もちろん何も身につけていない。
この状況だけど、愛おしいと思ってしまった自分を殴りたい。でも俺は今はこれ以上、何もしないつもりだ。まあ、既に後戻りできない気もするけど、これ以上関係が進んだところで、もっと後戻りできなくなるから。
もしこれが、いつでも気軽に会える距離だったら良かったのかもしれないけど。
なんて1人で考えていると、栞は目が覚めた模様。
「ん…。寝てた」
と目をこする栞。
「あ、起きた?」
「え、今何時ですか?」
「いや、そんな時間経ってない」
まだ夕方だ。意外と時間って、経つの遅いな。
「亘くん、他に暇な日ありますか?」
「明後日なら何も無いけど。」
「一緒にいてもいいですか?」
「……いいよ?」
まあ、何するのか知らんけど。どうせ暇だし。ちなみに明日は、中学の友達と遊ぶ約束してるんだよね。
着替えた後、栞は
「ごめんなさい、取り乱して」
と俺に謝ってきた。
「いや、結局俺も乗り気だったし、変わらん」
と言いながら俺は、栞の肩をポンポン、と叩く。
「でも、これ以上関係進めるつもりもない。中途半端なことしちゃったけど、これで丁度良い。俺は。」
と俺は言った。
「じゃあ、また帰省の時会ってくれますか?」
「それは、都合が合えばの話だけど。いいよ別に?栞に彼氏がいなかったらね」
「亘くんも向こうで彼女できなかったら、の話ですね」
「まあ、今の俺に彼女なんて到底無理だけど。」
「それは私も同じですよ」
「なら、いいんじゃない?」
まあ今は、この距離のまま保つよ。これ以上関係深まってもどうせ、距離的な問題で、面倒事になりたくないから。江南市と明峰市なんて、本当に遠いからね。
っていう案件を、数日後、飛鳥と村瀬先輩に話した。元々は飛鳥と話してたんだけど、お世話になった村瀬先輩にも話しておこうと思って。みんな寮生だから、ね。飛鳥は現在同じ部屋なので、こいつにもよく話していた。
「んで、結局何をしたって?」
と村瀬先輩に聞かれる。
「ヤりました……」
と俺は言ったあと、つい顔を赤らめて別の方向を向いてしまう。その途端、飛鳥も先輩も唖然とした顔をしていた。
「え、は?お前、まじで?!」
と迫って来る先輩。まあ、突然俺がこんなこと言い出したらびっくりするか。
「でも、それで終わり?」
と飛鳥に聞かれる。
「…うん。それ以上は、俺から拒否った。」
「いや完璧ヤってる時点で後戻り出来ないほうだと思うけど」
「分かってるけどそれはー。」
その後は2人からの質問攻め。ああ、これ意外と話すの恥ずかしいや。