出会いと感情と1
(藤木柊弥)
これは5月の終わりごろの話だ。
高校総体の地区予選も終わり、この土日は何も無い休日だ。自分は高校生になり初の県大会出場を決めた。兄も2年生でこの県大会に出ていたし、とても嬉しかった。ペアの平澤先輩にはとても助けられたな。
日曜日、後輩である千葉と遊びに行く。千葉は入学する前から部活に来ていて、冬も部活終わりに歩夢も一緒によく遊びに行っていた。
本来は今日は歩夢もいるはずだったが、どうやら熱出したらしいね。
「やー、ほんとすまんね千葉」
「全然気にしなくていいっすよそれは!」
実は最近、玲一や千葉たちと恋バナした時に、千葉の元カノの話を聞いた。喧嘩別れで千葉も未練残ってるみたく、これから頑張れよって前に進めさせた俺たちだが、どうやらその直後にちゃんと振られたみたい。
「10日くらいしか経ってないけど、ああやって振られたほうがなんかスッキリするなって」
「もういいの?」
「この際諦めしかないですよ。向こうはもう他の男と出会ってるから…」
なぜ千葉が振られたかというのは、元カノには新しく好きな人ができて付き合うことになってたかららしい。それで元カノのほうも、別れるときに中途半端な振り方したからと、千葉への区切りをちゃんと付けたいと、呼び出したらしい。
「俺も新しい恋するべきなんだなって」
「じゃ千葉、頑張ろうか一緒に」
実際俺も恋愛はしばらくしていない。1年生の時にはクラスの人と付き合っていたが、今は普通の友達に戻った。冷めって怖いなぁって。兄の悠斗もそんな感じで1年付き合ってた人と別れてるし。
沢山話していると、
「あれ柊弥久しぶりじゃん」
と1人の女の人に声をかけられた。
「あ、美琴先輩こんにちは」
「久しぶりじゃん、テニス部の奴らみんな元気してる?」
「みんな元気ですよー」
この先輩、美琴先輩は星華中時代の女子ソフトテニス部の先輩だ。通っているのは白商だったっけ。高校では続けていないがテニスを見るのは今も好きで、たまに試合も見に来る人だ。そして、泰聖の元カノなんだよなぁ。中学の時の。
とりあえず何も言えてない千葉に、
「この先輩、泰聖の元カノ」
と伝えると唖然としていたが。
「長島先輩って年上好きなんですかね…」
と千葉も笑いが出てくる。
「泰聖の今の彼女って華月の姉ちゃんだよね?春華ちゃん、この前2人でバイト先来たからびっくりした」
と美琴先輩まで。
「そうですねー、それはまたすごい展開…」
まあ美琴先輩も今は1年近く付き合ってる彼氏いるし、全然問題のない話なんだけどね。
「あ、美琴先輩!!」
とそこで、先輩の知り合いらしき2人がやってきた。って…
「うげ、穂佳じゃん」
「なにそれひどくない?学校ですれ違う時も睨んでくるくせに」
「別に睨んでねーし!」
こいつ、新井穂佳は西星高校の国際科で、小、中学の同級生。そっかバイト先一緒なのか、美琴先輩と。俺が行く時は先輩じゃなくて大体こいついるんだよ。中学時代はバドミントン部で活躍していて高校も続けるために西星入ったが、大怪我をしてすぐに辞めちゃったんだっけ。
話が盛り上がってしばらく話してたが、暇つぶしに来ていただけの美琴先輩は、友人との約束の時間が来たようでいなくなった。
穂佳と一緒にいた子は穂佳と同じクラスの人で、今日穂佳と一緒に遊んでるらしい。日下部愛菜ちゃん、っていうのか。
穂佳は誰とでも仲良くなれるからね。千葉にも話しかけるし。千葉も話しかけられたら話せるタイプだし、気づいたらノリでカラオケ行くことになった。いや、急すぎる。
「てか千葉くんってどこの学科なの?」
と穂佳は聞いている。
「あ、工業科ですよー、1年2組です」
「工業科に見えない…」
「普通科かと思ったってよく言われます」
確かに俺も最初普通科入るかと思ってたから、春休みに「え?工業科っすよ?」なんて言われた時かなりびっくりしたわ。
「国際科は毎年ソフトテニス部いないんだよね、男子」
と俺は話を持ってくる。
先輩でも聞いたことない。唯一部員の中にいないのが国際科だ。でも商業科も今は3年生の瑛太先輩のみで、先輩が引退したら誰もいなくなる。特進科は昨年の3年生の森島先輩と高倉先輩で一旦途切れたが、今年は長江が入ってきた。
って考えたら普通科ばっかりで、工業科もそこそこって感じなんだよな、うちの部活。
「確かに聞いたことないー。女子はうちのクラス一人いたけど辞めたよね」
「静華でしょ?問題起こしまくってたみたいだよね」
と愛菜ちゃんと穂佳が続けて言う。
あー、そんな奴いたな。
いつだっけ、昨年の3年生が引退してすぐの話とかじゃなかったっけ。
カラオケで存分に歌ったらもう夕方だ。時間経つの早いなあ。明日から学校なのか、地区大会で3日も学校いなかったから、今更学校もだるくなってくるもんだ。
夕飯まで一緒に食い、今日は解散した。何か、今日は最高に楽しくてあっという間だ。
久しぶりに騒ぎまくったわ。女子と遊ぶのもたまにはいいとは思った。異性とここまで騒ぐのもいつ以来だろうか。学祭とかかな。
家に帰って荷物を出す時に、物がひとつ見当たらない。
…ん?あれ、
モバイルバッテリー、愛菜ちゃんに貸したままだった。突然スマホの充電がなくなったみたいで貸してたけど、返してもらうの忘れてた。
次の日の昼休みのことだ。
「柊弥ー、お呼ばれでーす」
と同じクラスの女子に呼ばれる。
「はいよー」
と廊下へ向かうとそこにいたのは愛菜ちゃんだ。
「これ昨日そのまま持って帰っちゃってたんだけど…」
「あー、わざわざありがとねー。教室遠いのに来てくれて。」
昨日の今日で返ってくるとは思わなかった。とりあえずしばらくしたら穂佳にでも言おうと思ってたから。
「そういえば昨日連絡先交換してなかったよね」
と言われる。
確かに、してないや。騒ぎまくっててそんなことすっかり忘れてたや。
とりあえず俺と愛菜ちゃんはここで連絡先を交換した。
そこでじゃあまたね、と愛菜ちゃんは教室へ戻っていった。
この時はまだ、何も思ってなかったな。
しばらく連絡を取り続けていて、夜中には通話もしたりしていた。聞けば中学校は第二中出身で、中学ではバドミントン部。穂佳ともバドミントン繋がりで中学の時から親しかったみたい。
学校でも会う時は結構ある。昼休みに食堂で会った時も結構話した。
そんな時に、愛菜ちゃんから遊びのお誘いが来た。前々から、今度遊ぼうと話はしていたんだけど。
「良かったらなんだけど、近々暇な日あったりする?」
と聞かれる。
「あー、土日の部活終わりか、それか今日部活ないから今日の放課後くらいなら。来週俺学校いないから今週中とかは?」
「じゃあ今日でいい?」
「いいよー!」
俺は来週は学校に来ない。インターハイに繋がる県予選で北別へ遠征に行っているからだ。高校初の県大会出場だから、今でもとても緊張する。
放課後に待ち合わせ、とりあえず向かったのは駅前付近のカフェ。愛菜ちゃんがずっと前から気になってたお店だ。
あれここ、兄ちゃんが2年前に元カノと最初に出会ったところって聞いたような…なんて思い出したけどまあこれは置いといて。
俺はカフェラテを頼んだ。久々だなあ、お店で飲むの。
「俺こんなオシャレな店あまり入らないからなー。入る勇気なくて」
「市内にも沢山良いお店あるよー。私なんてカフェ巡り好きだから、最近だと市外にも1人で行っちゃってる」
「え、すげえ、どっかいいところあった?」
「えっとね…」
と、愛菜ちゃんが1番気に入ったお店を紹介してくれる。
「最近だとこれね、北別行った時の。ここのワッフルが有名で、あと抹茶ラテ飲んだんだけどクリーム入ってるから美味しくて」
「へー、北別のどこかわかる?俺来週の遠征北別なのさ」
「駅すぐ近くのデパートの地下にあるよー。中にオシャレなカフェあるのさ」
お、来週の遠征の時に少し立ち寄ってみたいな。時間があればだけど。ホテルは駅前だから、前日に向こう着いて練習終わってからでも自由時間はかなりあるから。
たくさん買い物したりお店回ったりして、とりあえずその辺にあるベンチに座る。
「今日ありがとうね、柊弥くん」
と愛菜ちゃんに言われる。
「あー、俺の方こそありがとうね、楽しかったわ」
と、そこで愛菜ちゃんから話があると言われる。
「急に言うのもごめんなんだけど、私1年生の時から柊弥くんかっこいいって思ってて、それで穂佳もそのこと知ってるから、この前穂佳と遊んだ時に見つけて、強引に連れてかれたんだよね、最初は」
あ、そうだったのか。って面と向かって言われるとなんだか照れくさいな。
「え、でも穂佳って美琴先輩見つけたようにこっち来なかったっけ?」
「それは柊弥くんのとこ向かう途中に先輩見つけて穂佳が更に走り出しただけ」
穂佳らしいっちゃらしい行動だわ。あいつ何でもすぐに行動移すからなー。
「でもこうやって今日2人で遊びに行けたの楽しかった!…のとね、柊弥くんのこと好きなんだ」
おお、まじですか。
でも正直、今付き合えって言われても付き合えないとは思う。まだ、知り合って日が浅い。
「でも愛菜ちゃんは俺のこと前から知ってたと思うけど、俺はまだ愛菜ちゃんのことよく分からないし、もう少し仲良くなってからなら、付き合ってもいいとは思う。俺ももう恋愛に失敗したくないからさ。」
とりあえず俺は思ったことを言った。それに俺正直彼女できてもあんまり続かない。長くて5ヶ月もしなかったし。
「それで全然良いよ、告白するタイミング早すぎた私も悪いし」
「いや悪いとか考えないでいいから!俺のタイミングに合わせてもらえればと思っただけだから…」
「じゃあ、お願いします…」
とりあえず、お互い呼び捨てしようというところから始まった。
「なんか、慣れないな」
「呼び捨てするだけで恥ずかしい…」
「それわかる。」
どうせ恋愛するなら、これ以上失敗したくないなって。俺もまだ彼女のことは少し気になる程度の存在だ。これからどう関係が深まるのか、俺にも分からない。
告白されたことしかない俺だからか、結局今までの恋愛は、付き合う時は俺の気持ちも中途半端な始まり方だったし、別れる原因にも繋がっていたからさ。
だから先輩とか部活の人みたいに彼女にベタ惚れできる人って羨ましいなとは思うの。
でも、これからの日々を一緒に楽しく過ごしてみたいな、とは思うね。